岡田将生研究⑱キャリアにおける”イケパラ”の重要性

 第一線で活躍する俳優には、必ず売れるきっかけとなった作品がある。岡田将生にとっては、2007年に放送された人気テレビドラマ「花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス」(堀北真希主演、通称イケパラ)がそれにあたる。小栗旬、生田斗真、水嶋ヒロといった当代きっての人気イケメン俳優がひしめくこの作品で演じた関目京悟役によって、岡田将生の名は広く世間に知れ渡ることになった。

 ”イケパラ”は、初回15.9%であった視聴率が最終回には21.0%まで伸びた、いわゆる勢いのあるドラマだった(平均視聴率17.04%)。原作は人気漫画「花ざかりの君たちへ」(中条比紗也著)だが、ドラマ版はかなり改変がされており、「イケメンしか入学できない学校」にしてしまったりと潔く振り切って話題を呼んだ。友情+ラブコメのストーリーの軸がしっかりとあり、バカバカしさとシリアスさのバランスも良かった。総勢36名の生徒役が毎回全員出演し(授業シーンはほぼない)、お祭り騒ぎを繰り広げるので、画面がパワー全開でキラキラして眩しい。また、各役者の魅力が十二分に発揮されるような脚本、演出であり、どの役者もドラマ内で輝いている。その魅力は、放送から15年以上たった今でも色あせない。こういうドラマに出演できたことは、幸運以外の何物でもない。

 生徒役は20歳前後が多く、17歳の岡田は下から3番目の若さだった。またジュノンスーパーボーイコンテストの受賞者が9名、仮面ライダー、戦隊シリーズ、ウルトラマン出演者(イケパラ後の出演、ゲスト出演含む)が10名と多いのも特徴的だ。その他は子役出身、モデル経験者などで岡田のようなデビュー間もない芸能事務所のスカウト組は、メインキャストでは他に見当たらない。コンテストやオーディションを勝ち抜いた組は自分の見せ方をよくわかっているし、ライダーや戦隊もの、子役から鍛え上げられた組は、演技の基礎ができている。そのどちらでもない岡田は、”イケパラ”でどう爪痕を残したのか?

 「キレイな顔をした男の子がフラフラ現場にいまして(笑)。まだ“俳優”って感じでもなくて、かわいかったですねぇ…」と生田斗真は当時の岡田の印象を、映画「秘密The Top Secret」(2016年公開)で再共演した際に語っている。クレジットの順番は6番目。関目(岡田)は、主人公の転校生芦屋瑞希(堀北真希)の最初の友達になったり、佐野泉(小栗旬)の良き理解者であったりと重要な役割を担う。原作では冷静で大人な知的キャラで、女好きという設定だが、ドラマでは情報通のヘタレキャラに改変されている。名前をなかなか覚えてもらえず、関ヶ原、ニャロ目、関口、しまいには一石二鳥などと呼ばれるいじられキャラなのも面白い。岡田のヘタレやいじられキャラは今や定番だが、出発点は当作品であり、岡田に愛すべきヘタレを当て書きしたことに拍手を送りたい。ポスタービジュアルでは、唯一の金髪で目立っているし、2話までは黒髪ストレートだった髪を3話以降明るめの茶髪天然パーマにしたのも大正解であった。ふわふわとした髪が、関目の優しい性格にマッチすると同時に、美少年ぶりがより際立ち、かつ大勢が映る画面の中で他と差別化することに成功している。また、女装を披露したり、「イケナイ太陽」を熱唱したりと、今となってはなかなか見られないお宝映像も満載だ。

 一方、芸達者な面々に囲まれて、演技面では、松田秀知監督に「全然違う!ダメなんだよこの芝居!もう1回!」とスパルタで教え込まれ、小栗や生田など他の俳優たちの芝居に圧倒されながらも、「できないならできないなりにやっていくしかないって、みんなのことを見て勉強したんです。」こう言い切ってしまえるのが岡田の非凡なところでもある。1話では、せっかくいい位置で画面の中にいるのに被りで顔が見えないシーンがいくつかあるが、2話以降はしっかり顔が映るようになった。立ち位置ひとつでも成長が見られて興味深い。また小栗とは7つ、生田とは5つ歳が離れているが、画面に一緒に映った時に絵的に負けてない(歳の差を感じさせない)存在感があるのは、最大の強みである。良き先輩である小栗生田に加え、この年4度の共演があったという溝端淳平などとは、イケパラ共演後も交流が続いており、俳優生活を支える上で大きな出会いであったと言えよう。

 俳優がブレイクするためには、容姿や演技もさることながら良い作品に恵まれることが重要だ。話題作に出演できれば必ずブレイクするというわけではないが、そこで爪痕を残せれば後の活躍に確実につながる。岡田はその後、2008年に同じフジテレビの月9「太陽と海の教室」に生徒役の一番手で出演。2009年にはフジテレビ制作の映画「ホノカアボーイ」で映画初主演、同フジテレビ「オトメン(乙男)」で連続ドラマ初主演を果たし、一躍スターダムにのし上がった。その後の活躍は見ての通り、映画、ドラマ、舞台と途切れることなく出演し続け、主演も助演もできるマルチプレイヤーへと成長した。「この時期の出会いのおかげで意識が本当に変わりました」と本人が話しているように、岡田将生の俳優人生を語る上で、”イケパラ”は欠くことのできない宝物のような作品なのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?