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母として

子どもが生まれた時、この世でこんなに愛しい物があるのかと思った。今までの好きとかとはレベルが違う。ただただ愛しく可愛く、なんとか育てなきゃと必死だった。
毎晩寝る前に、子どもが不幸な目に会わないように、病気にならないように、幸せに長生き出来るように本気で祈っていた。失うことが何よりも怖かった。

だけど私は決して良い母親では無かった。子どもたち…特に長男はおっとりした子で、なんとか1人で生きていけるように最低限のルールを教え続けた。
それは彼にとっていつもダメだしをされる、辛いことだっただろう。でも、社会に出たら誰も教えてくれない、バカにされてはじかれるだけ、だから、何度も何度も繰り返し伝えた。
うざい母親だと思われてもいいと心を鬼にしてきた。厳しすぎると言われても、この子が大人になった時に困らないようにしたかった。


この春、大学を卒業し、彼は家を出た。
今は一人暮らしをしながら会社に勤めている。仕事も人間関係も、なんとかやっていけているようだ。


彼がいなくなった家の中で、私は小さかった頃の姿を探す。「ママ〜。」と駆け寄ってくる声やふっくらした小さな手の感触を思い出す。目を閉じるとあの頃に戻るような気すらする。

最後に手をつないだのはいつだっただろう。小さい時なんて一瞬だ。もっといっぱい抱き締めれば良かった。もっともっとただ可愛がれば良かった。

アルバムからウルトラマンを持って笑っている幼い頃の写真をそっと抜き取り、スマホケースにしのばせた。


先日、法事で帰ってきた彼は少し痩せて大人っぽくなっていた。お土産を持って駅の改札口で立っていた彼は、私と娘を見つけると笑って腕をあげて軽く振った。実家へ向かう車の中、弟とゲームをしている姿が微笑ましかった。つかの間、家族が揃った楽しい幸せな時間だった。


それでも、遠くで元気に生きていることは喜びでもある。巣立つ力を身に付けたことは、幼少期を思うと夢のようだ。
親として落第点の子育てだったけれど、素直な優しい子に育ってくれたと思う。

22年間、ありがとう。
あなたの母親になれて良かった。
いい母親になれなくてごめんね。
誰よりも何よりも大事な存在だった。

どうか元気で幸せでいますように。
愛する誰かと出会いますように。


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