超こわくない話(ギャグ劇団笑)/宇宙一怖い怪談師

 今日は怪談会に来ている。
 怪談会は初。

 そんなもの時間と金の無駄。
 幽霊は信じない、幽霊で金儲けする怪談会など嫌い。

 うさんくさい。
 そもそも全く怖くない。
 
 場所は、某処刑場跡。
 今は公園だが、昔はお侍が「バタバタ首を斬られて、生首がゾロゾロ」並んでいたという。
 これを目を輝かせながら教えてくれたのはミポリン。
 
 ミポリンは恋人。
 かわいいが、目つきが異常。
 ホラーマニア。
 鼻ピアス、人体改造マニア。大人のオモチャマニア。 

 見世物小屋の中、ミポリンと椅子に座っている俺。
 会場は無人だ。 
 無人販売所状態。

「次に出てくる怪談師は、宇宙一怖いの」
 ミポリンは繰り返す。
「嘘つくな」
「嘘じゃない」

「俺は、絶対怖がらないからな」
 どんな怪談が披露されても、顔色一つ変えずに最後まで黙って座っているつもりだった。

 場内が暗転する。
「ひゅーどろどろどろ」
 効果音。
 白装束の老婆が登場。
 老婆は、妖しげなバケツを持っている。

「アンニョンソワカゲッゲ、ソワカアンニョンゲッゲ」 
 ステージ中央の椅子に座って、念仏を唱え始める老婆。

 すぐに
「ぬる」
 老婆は、バケツの中の物を投げつけてきた。
 それは客席まで飛んできて、ミポリンの頭の上にのった。 

 贓物だった。
 ブタか、羊の贓物を客席に向かって投げつけているらしい。
 
 正気の沙汰じゃない。
 狂っている。

「ぎいいいいぃ」
 老婆は、奇怪な声を上げながらステージを這いずり回っている。
 もはや、人間とは思えなかった。

「怖い」
 ミポリンは震えながらも、目をらんらんと輝かせている。
 
 俺の足下にも、血塗れの贓物が転がっている。 
 反吐が出そう。

「怖いでしょ?」
「どこが怖いんだ、こんなもの」
 俺はブチ切れた。

「ぐろろゥ」
 怪談師の老婆は、俺の言葉に反応して、突如、方向転換してステージを降りてズルズル這ってくる。
 
「何だよコレ」
 俺は動くことができなかった。

「ぐぎ」
 老婆は、俺を座っている椅子ごと押し倒した。
 俺の首筋に噛みつこうとしている。
 超くさい息。

「助けて、怖い怖いよ!」
 叫ぶ俺。

「ぐひりぃ」
 老婆は満足げに立ち上がった。
 スタスタとステージに戻っていく。
「あばよ」と放屁する。 

「ね。怖いでしょ」
 ミポリンが頭に贓物をのっけたまま微笑んでくる。

「ああ。怖いな。でも、これって“怪談”が怖いんじゃ無くて、“怪談師そのもの”が怖いんじゃねえのか」
 
 

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