書評④(どうする財源-貨幣論で読み解く税と財政の仕組み)完

楽しかった。本書の要約もこれで最後です。この本の内容が世の中に広まり、世の経済学者やコメンテーターがいかにいい加減であり、それを認識する人が増え、正しい議論が巻き起こることを願っています。


財政担当者は資本主義を理解しているのか

デフレ下において、歳出削減や増税を推し進めることは、MMT論者だけではなく主流派経済学者も反対している。しかし、日本国政府とりわけ、財務省は推進している。これはなぜか。財務省の職員は何を考えているのか。
財務省の事務次官であった矢野康二氏の論文からそれがわかる手がかりを得られる。簡単に言うと財政赤字は悪であり、財政破綻はいつ起きるかわからないが起きるはずだ。信用創造という概念はわからないという内容となっている。つまり、典型的な健全財政論ということである。
本書では、3つの決定的な欠陥を指摘する。1つ目は、財務事務次官自身が財政危機を煽ることで自ら日本の財政の信任を傷つけてしまっていること。2つ目は矢野次官が論文を発表しても国債の格付けなどに影響がなく、日本の財政の信任に傷付く事実はなかったこと。3つ目は、日本が財政破綻に向かっていることないということである。
この3つのほか、様々な事実の認識に誤りなどがある。つまり、この論文からわかることは、日本の財政担当者は資本主義の仕組みや税の意味をわからず、財政運営を行っているという恐ろしい事実なのである。

日本の財政運営はガラパゴス

日本の財政運営は以下の点で各国と異なり、ガラパゴス的な運営を行っている。
①デフレ下での増税。これは、主流派異端問わず経済学では悪手とされている。
②国債の60年返済ルール。国債を60年で完全に返済するというルール。そのため、毎年度予算において、国債の利払費だけでなく、償還費まで計上している。他の先進国では、国債は永続的に借り換えされ、債務残高は維持されている。
③社会保険料を歳入項目に含めない。OECDなどにおける国際標準では含めている。財務省が「ワニの口」を開かせたいだけ?
④プライマリーバランス黒字化目標。ドイツでは財政収支の対GDP比を財政規律の目標にしている。PB目標の最大の欠陥は、GDPが成長したとしても改善する余地がない。
また、財政法4条は財源に国債を頼ってはならないという健全財政を原則としている。
ここまで述べてきたとおり、我が国の財政運営は健全財政に固執しており、自ら経済制裁を課している状況なのである。これでは、失われ30年が生み出されるのは必然である。

歴史の教訓

健全財政が戦争を引き起こした

国債を財源とすれば、使途に際限がなくなり、防衛費が無限に増えてしまい戦争が始まってしまう。第2次世界大戦もそのような理由から発生したという論がある。これは本当だろうか。
そもそも、健全財政においても、国民の安全を守るための有事の際には、財政規律は破棄される。事実、コロナ禍においては、ドイツは財政規律条項が破棄されている。同様に、金本位制で第1次大戦は防ぐことはできなかった。
また、満州事変の際には、井上準之助の緊縮財政下であったし、第2次世界大戦時には、軍備拡張の際に軍は増税を要求していたのである。さらに、ナポレオンも国債の発行を嫌い軍備拡張を他国からの収奪によっていたり、帝国主義下、植民地からの収奪を行っており、国債発行を禁じたところで、戦費は調達される。
つまり、健全財政を推し進めたところで、戦争の抑止になることはないのである。
むしろ、健全財政こそ軍国主義、戦争の遠因となっている。昭和恐慌当時、緊縮財政を進めたことにより、民衆が政府を見限り、右翼的な過激が激化し、国民の不満や怒りその受け皿として軍部があったのである。つまり、当時の浜口内閣の国民の苦境を救うよりも、財政規律を守る頑迷な思想が、戦争への道を開いてしまったのである。

終戦後のインフレから何を学ぶ


終戦直後のインフレの原因は国債の発行ではなく、①戦争後の異常な生産能力の減少②政府の徴税能力の欠陥による通貨の価値の暴落③労組の交渉力が強いための賃金上昇圧力のためである。これは、明らかにコストプッシュインフレである。そのため国債を発行して、供給能力の向上をはかる必要があり、実際、そのようにして供給能力を回復された。つまり、歴史の教訓として、コストプッシュインフレの際には「国債を発行すべし」ということである。そして、「対GDP比政務債務残高とインフレは無関係」ということである。

おわりに

本書を読み、世の中の言説がいかに浅いかを思い知らせれると同時に、明晰な思考には、具体的な言葉というのが如何に重要か痛感させれた内容だった。
如何にもな空疎な抽象的な言葉に惑わされず、具体的かつ明確な言葉で記述できるよう今後も精進していきたい。


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