ケッショウーそして覚醒するー#3

前回までのあらすじ
薬物に手を出してしまった哀れな先輩は、私を追い出して初めての接客!
先輩が召喚したワルーい奴らが、どちらがお客さんを満足させられるかで勝負を仕掛けてきました!
一回戦目ダーツ勝負!
お客さんは本気の相手と遊ぶことが目的です!
勝ったのはトルバ先輩!
お客さんと張り合いのある勝負を繰り広げて、満足させることに成功しました!
第二回戦天体観測勝負!
どちらが迫力のある隕石を落とせるかで勝負。
こちらも勝ったのはトルバ先輩!
違法薬物の力で無事に隕石を降らせることに成功しました。
勝負はトルバ先輩の圧勝ですが、それとは別にポイントがあり、高ければ高いほどいい報酬が!
果たしてトルバ先輩はどんな報酬を手に入れるのか!?
そして鳴り響いた雷鳴の正体は!?


ドガーン!
通常では有り得ないはずの地面に直撃する雷。
トルバ「何だ?呪文か何かか?」
青龍「いや、落雷の中に何かがいる。」
青龍は雷の中央を指差す。
光り輝く雷の中に巨大な鳥のような影があった。
富豪「あ、あれはまさか……!」
???「ギャーーーーン!」
つんざくような"それ"の鳴き声が響く。
すると雷が収まり、中から怪鳥が姿を現した。
トルバ「……恐らくあれは、」
最恐怪鳥 サンダーバード
裕福な者たちの家を雷で焼き払い、逃げ惑う人間たちを見て、ニヤニヤするのが趣味の文字通り悪趣味な奴。
富豪「先代が魔法で倒したと伝わっていたが、まさか生きているとは……」
朱雀「まずいですね〜、顧客がいなくなったら勝負どころではなくなってしまいます。」
富豪「ふむ、面白い!!お前らにチャンスをやろう!」
玄武「何?」
富豪「奴を倒して剥製にできたら、一億ポイントじゃーー!!」
四神獣「何だと!?」
今までのポイントが全て茶番になってしまう程の大きな点数。
当然四神獣は食いついた。
白虎「よしお前ら!絶対あいつを剥製にして、一億ポイント狙うぞ!」
朱雀「やれやれ、ま、どちらにしろ奴は葬らなければなりません。」
玄武「確かにその通りだ。」
青龍「トルバ、今度はお前には負けん!必ずお前より先に仕留めてみせるからなー!」
そういうと彼らはサンダーバードの元へ走り出した。
トルバ「やれやれ、相手は最恐怪鳥だぞ?まあ何でもいいけど。」
どちらにしろ止めなければ富豪の命が危ないので、トルバも彼らのあとを追おうとする。
???「おい!待ちやがれ!」
トルバ「?……お前はーー」

イロハ「そういうわけなんです。」
リーグス「なるほどねー。どうりでおかしいと思ったよ。あのトルバが、セイシュハクゲン以外の特技を使えるとは思えなくてさー。」
一方イロハはリーグス一行にトルバの話をしていた。
カジル「全く、こんないい子泣かせてまで薬物に手を出すとか、最低じゃねえか、トルバの奴〜。」
ラティス「やはり私があの時心まで治療できていれば、こんなことには……」
メーシャ「いや、もうあいつ大分手遅れだったし、無理だろ。」
ラティス「しかし、新手でしょうか。普通はそういった薬物は粉末状で、鉱物系で精神に作用するものはないと思うんですが……」
イロハ「確かに、特技が使えるようになったのは本当みたいですし、それ以外はまあ……いつも通りでしたし。」
リーグス「ふむふむ。非常に怪しいケッショウだが、その正体は特技が使えるようになる素晴らしい薬、なのかもな。」
メーシャ「ただ一つ気になるのは、そういう薬は魔力が詰まっているから、仮に習得するとしても、多分魔力を使う呪文か特技になるのは間違いないんだよなー。」
リーグス「そうだねー、俺が戦った時は、特技を使ってこそいたけど、魔力は感じなかったしなー。となると、俺たちも知らない未知のエネルギーか……」
メーシャ「ええ……そのケッショウ売った売人、一体何者なんだよ……」
リーグス達にはそんな薬を見つけられる人間の心当たりはない。
リーグス「うーん、まだ何とも言えないねー。でも、もしエネルギーが結晶化したものなんだとしたら、多分精神作用はないはずだよ。」
イロハ「そうなんですね。分かりました!ありがとうございます!」
(先輩頼りになる!)

ギャーーーーーーン!

甲高い音が近くから聞こえてきた。
カジル「わっ!?な、何だ今の音!?」
リーグス「鳴き声か……!まずい、急ごう!被害が出る前に!」
そういうと勇者一行は走り出した。
イロハ「あっ、わ、私も!私も行きます~!」

富豪の邸宅
トルバ「誰だ?随分魔王に似ているけど……隠し子?」
二世「隠し子ではない!実の息子だ!」
どうやらこの魔物は魔王の息子のようだ。
その証拠に背丈は魔王と同じくらいだが、言動が若干可愛い。
トルバ「んーと、もしかして……復讐とか?」
二世「そうだ!お前のせいでお父さんのないかくがそうじしょくして、大変だったんだからな!」
トルバ「政治的用語、あんまり使ったことないのかな?若干ぎこちないけど。」
トルバは何だか微笑ましく思えてきた。それと同時に彼の父親を殺してしまったことに、若干の申し訳無さを感じる。



ーーふと頭に何かが思いつく。
トルバ(結晶の供給が途絶える……特技を使えなくなる……勇者にふさわしくなくなる……俺は聖剣を持っている……聖剣は魔物を斬れば斬るほど力を増す……特にそれが強力であればあるほど……特技を使わずとも、魔物を一瞬で倒せるほどの莫大なパワーが手に入れば……)
二世「おい!何怖い目で見てる!そんな目で見たって俺の決意は変わらないんだからな!怖気づくと思うなよ!お前を倒して、お父さんの仇を取るんだ!」
魔法や特技によって混乱が生じ、一時的に視野が戦闘にしか向かなくなる状態を、バーサーク状態という。
今のトルバは聖剣によって勇者の戦闘力を上回ることにしか目がいかなくなり、目の前にいる二世を叩き斬ることにしか、意識がいっていない。
自らで視野狭窄を作り出し、他人からの影響を受けずに、狂乱する。
その名も

ーー『セルフバーサーク状態』!

二世「おい、どうした!何とか言え!」
ヒュンッ
二世「あ、おい!無視して消えんナ」
ズバーーーン! 
二世「………あっ………!?」
二世の体が斬れた。
消えたのではない、二世の動体視力では、目で追いきれなかったのだ。
バーサークしたトルバの暴走、それを止められるものはーー
誰もいない。
二世「く、今のは死にかけたぞ……!」
魔王二世は即座に距離をとり、呪文を詠唱する。
二世「カタスファイヤーー!」
強大な火の玉がトルバを襲うが
カキン!
なんと跳ね返り二世に返ってくる。
二世「アッチ!」
二世は思わず飛び跳ねそうになった。
トルバ「………………フッ………………」
トルバの口元に僅かな笑みが浮かぶが、それもつかの間、即座に無表情に戻った。
二世(くっそーー!あいつ、いつの間に呪文を唱えたんだ!?詠唱なんかしていないはずなのに……!)
パラドックスの力は本来、詠唱せずとも発動可能。
無論、この世界の人間にそれを知ることはできない、トルバを除き。
ヒュンッ
二世「ま、また消え……!」
ズバズバズバズバズバ………
鈍い斬撃音が響いた。

リーグス「はあ……はあ……ここか。」
一方リーグス達は鳴き声のする場所に着いた。富豪の邸宅である。
カジル「お、おいおいここって!世話になった爺さんの家じゃねえか!」
リーグス達が武器や装備を揃えられたのは、あの富豪がリーグスらに興味を持ち、資金提供をしてくれたおかげであった。
故にカジルを含め、リーグスのパーティーメンバーは皆ここを知っていた。
メーシャ「あの鳴き声、下手したらサンダーバードかもしれねえ!急ごう!」
リーグス「おう!」
リーグス達は急いで邸宅の門を開けて入っていく。
イロハ「ちょ、ちょっと、皆さん速すぎですって……」
イロハは遅れて到着し、その場にへたり込んでしまった。

白虎「オラオラ!くたばれ!くたばりやがれー!」
青龍「◯ねばいいのに♪◯ねばいいのに♪すぐに◯んじゃえばいいのに♪」
朱雀「中々しぶといんですねーあなた。」
サンダーバード「ギャーーーン!」
玄武「クソ、方天戟を何回くらえば気が済むんだ!?」

リーグス「…………うわー、出たよ、生ける災害。」
リーグス達が庭に入ると、そこには四神獣という先客がいた。彼らは自身の術である『災害操術』でサンダーバードを攻撃していた。
カジル「割と追い詰まってるみたいだな。助けるのは癪だが、加勢してやるか。」
カジルが彼らに近づこうとする。
すると、
玄武「ならん!お前らに手柄を譲るわけにはいかぬ!」
白虎「邪魔だー!どいていやがれ!」
カジル「はあ!?」
玄武「厄災操術 シェスボローム!」
白虎「アイスアース!」
玄武・白虎「合体!」
白虎が地面を凍らせ、玄武が爆発する甲羅を氷上で滑らせる。甲羅はカジルに向かって凄まじい速度でぶつかり、爆発した。
カジル「うわああああああ!?」
リーグス「カジル!」
爆発によってガジルは邸宅の柱に激突し、気絶してしまった。
メーシャ「あいつら!何てことを!」
リーグス「くそ、ラティスは回復を!ここは俺が!」
???「グワアアアアアーーー!」
突如としてアンデッド系のモンスターが襲ってきた。
リーグス「うわっ!?く、邪魔するな!」
イロハ「へえ…へえ…あ!リーグス先輩!」
イロハがあとから入ってきた。
イロハの目の前には謎のモンスターと戦闘するリーグスとメーシャ、瀕死のカジルとそれを治療するラティス、巨大なモンスターと戦闘を繰り広げるトルバの召喚したモンスター達。
イロハ「……いつの間に、世界が終盤に?……」
二世「ギョエーーー!」
イロハが困惑していると、魔王によく似た人物が瀕死の状態で転がり込んできた。
イロハ「ええ!?ちょ、ちょっと、大丈夫ですか!?」
二世「な、情けなど要らぬ……」チーン
イロハ「ちょっとーーー!」
イロハが必死に声をかけていると、
足音が後ろから聞こえてきた。
振り向くとそこには見慣れた男がいた。
イロハ「せ、先輩!?」
トルバだ。
イロハ「先輩!よくもこんなひどいことができますね!いくら何でもこの間ボコボコにしたばっかりの人に、さらに死体蹴りなんてひど」
トルバ「どけ。」
イロハ「きゃっ!」
イロハはトルバに軽く突き飛ばれた。
あくまで眼中にあるのは二世。そう言わんばかりに。
イロハ「セン、パイ?」
イロハは信じられなかった。
あれほど優しかったはずのトルバが、自分の後輩を突き飛ばすのだろうか。
もし薬物の効能でないとしたら、このトルバは一体……
二世「ひ、ひいい、こ、来ないでくれ〜!」
トルバが近づくや否や、二世は目を覚まして逃げ出した。ボロボロの体を引っ張り上げるかのように、羽を生やして空へ逃げていく。
イロハ「す、すごい……。体力なんてとっくに尽きてるはずなのに……それだけ必死ってこと……?」
しかしトルバはこれさえも計画通りかのようにニヤリと笑った。
二世「はあ……はあ……な、何なんだあいつはよ!」
魔王の息子は無様に逃げることしかできないが、不意に目と鼻の先に隕石が落ちてきた。
二世「ひいっ!?」
どうやら彼は逃げることさえ許されなかったようだ。
二世「ちくしょう!俺までご臨終じゃ、誰が一族の汚名を晴らすって言うんだ!俺は生きる!例え天が敵になろうと!お前にやられて終わりだけはさせない!」
二世は最後の力を振り絞り、隕石を避けてトルバから必死に逃げた。
二世「よし!あともう少しだ!もう少しでこの豪邸とあいつからはおさらば」
グシャン!
彼の心臓を、聖剣が貫いた。
トルバは隕石で仕留めようとしていたわけではなかった。隕石を足場にして空へと向かい、魔力を豊富に蓄えている二世の心臓を聖剣で突き刺すこと、それが目的だったのだ。
魔王の体が地上へと落ちていく。
心臓を刺されて無事にいられる者など、魔族の中でもそういない。魔王の息子もまた、然り。
バタッ
力のない肉体が邸宅の庭に落下する。
トルバは突き刺した魔王の息子の心臓を引き抜いた。
ヒュー………ヒュー………
聖剣が二世の心臓の魔力に反応し、臨海反応を起こす。
トルバ「………はーっ………」
トルバは満足そうに光を放つ聖剣を見て笑みを浮かべた。
その一部始終を見ていたイロハはドン引きする。
イロハ「こ、こんな人……こんな人、先輩じゃない!」
リーグス「オラ!ん?どうした?」
謎の魔物を退けたリーグスが、イロハに話しかける。
イロハ「うう……先輩がぁ、先輩がぁ…」
リーグス「ん?ああ、暴走したのね。」
リーグスはトルバを見て全てを察した。
イロハ「先輩が『自分のことを勇者だと思い込みたい一般人』から『ただのやばい人』になっちゃいました……」
リーグス「ああ、まあ……あんなもんだけどな、あいつ。勇者になりたいから高尚な人間だったけど、化けの皮が剥がれたらあんなもんでしょ。人間は一面だけしかない生き物じゃない。トルバだってそうさ。勇者になるためなら手段を選ばないところも、まあ……ギリ善良なところだって、全部トルバだし。」
リーグスはイロハに優しい口調で語りかける。
リーグス「大事なのは、それでもその人と一緒にいたいと思えるかどうかさ。俺は思えた。ろくでもないところもあるけど、それもあいつだなって。」
イロハ「……先輩……」
リーグス「今、あいつは正気を失ってるみたいだけど、きっと取り戻せる。優しい方のあいつも。」
???「ウゥ……リィ……グス、リーグス!」
謎の魔物が再びリーグスを攻撃する。
リーグス「ぐうっ!」
イロハ「先輩!」
リーグスは何とか盾で凌ぐが、既に魔物の攻撃は防ぎきれない威力になりつつあった。
リーグス「大丈夫!俺はいいから、あいつを止めてやってくれ!あんな奴でも、俺の、たった一人の親友なんだ!」
リーグスは聖剣で魔物に斬りかかろうとするも、無駄に強い魔物はカウンターを仕掛ける。
リーグス「やっべ……」
メーシャ「オラオラ!こっちだゾンビ!そいつに手を出すのは私を倒してからにしな!」
メーシャはそう言いながら果敢に魔物に魔法を浴びせる。
???「グエーー!」
メーシャの援助で魔物が怯み、リーグスは間一髪危機を脱した。
リーグス「ふう、なんて奴だ。ごめん、俺はこいつで精一杯だ!トルバを頼む!」
イロハ「……!はい!」
サンダーバード「ギャーーーン!」
サンダーバードが青龍の術をくらったことで、大きな声をあげた。
青龍「フハハ!効いているようだな!この耐久力お化けめ!」
トルバ「…………」
トルバの気がサンダーバードへと向く。
イロハ「先輩!目を覚ましてください!先輩はそんな怖いだけの人じゃないはずです!」
イロハはトルバが暴れる前に何とか呼び止める。
トルバ「………は!」
イロハ「先輩!目が覚めましたか!?」
トルバ「こっちか…………」
トルバはリーグスの方へゆっくり向かっていく。
イロハ「覚めてなかったーー!先輩!襲う人の問題じゃなくて〜!」
トルバは高速でリーグスに攻撃を仕掛ける。
リーグス「くっ!」
リーグスは咄嗟にしゃがみこんで、聖剣を躱した。
一方、リーグスと接近戦を繰り広げていた魔物は、リーグスの代わりに聖剣の攻撃をくらってしまう。
???「グアーーーーーー!?」
魔物は邸宅の壁に叩きつけられ、外まで放り出されてしまった。
メーシャ「す、すげえ……」
リーグス「ヘヘ……こんな威力のある聖剣、初めて見た。」
トルバは目線の下にいるリーグスに、ゆっくりと聖剣を向ける。
イロハ(あわわ……まずいです!このままじゃリーグス先輩まで先輩の魔の手にー!)

あいつを止めてやってくれ

イロハ(そうだ……先輩を、止めないと!)
イロハ「Beast mode!」
トルバ「…………」
トルバの手が止まった。
イロハは覚醒した。
亜人は自らに含まれる動物のDNAを覚醒させ、戦闘力を飛躍的に高めることができる。しかし、無制限に使えるわけではない。覚醒は強い感情がなければ行えない。イロハはトルバを止めるという強い決意があるからこそ、覚醒に至った。
トルバ「…………」
トルバは自身を上回る力に反応しているのか、はたまた気づいたのか……動きを止めてイロハをじっと見つめた。
イロハ「先輩を止めて、必ず優しかった先輩を取り戻します……!」
元のトルバを取り戻そうと、イロハはトルバへと近づく。
トルバ「お前……イロハか?」
イロハ「……!」
まともに反応もしなかった殺戮兵器に、これまでにない反応が現れる。
イロハ「はい!私です!後輩のイロハです!あなたとずっと一緒にいた!後輩の!イロハです!」
これまでにないチャンスにイロハは必死に呼びかける。
イロハ「私よ!後輩のイロハよ!」
トルバ「…………正気は保ててるんだね、ありがとう。」
トルバの目に光が宿った。
バーサーク状態が終了したのだ。
イロハ「……!先輩!正気に戻ったんですか!?」
トルバ「うん!俺としたことが、つい力に溺れちゃった!でも、俺もイロハを見習わなきゃな!」
トルバはサンダーバードの方を見た。
サンダーバード「ギーーーーー!」
白虎「チクショウ!どんどん強くなっていきやがる!」
青龍「これは参ったな……ウォーターブラストでも、削りきれない……!」
青龍の厄災操術の通りが悪くなる。サンダーバードの方は憤怒によって相当強くなっているようだ。
トルバ「イロハ、ありがとう。それと、ごめん!酷いこと言っちゃって。」
イロハ「……いえ!私もごめんなさい!先輩の気持ちも考えないで止めようとしちゃって!でも、体は大事に、してくださいね?」
トルバ「うん、約束する。それじゃ、サクッとあいつを倒してくる!」
トルバはサンダーバードに向けて走り出した。
サンダーバード「ギーーギャーーン!」
サンダーバードは自らの口から黒雲を吐き出した。
白虎「うおお!?これはまずい!下手をすりゃ、雷が必中必殺になるぜ!青龍!降りろー!降りるんだー!」
白虎は必死に手を降って青龍に知らせる。
青龍「ク、仕方ない……」
青龍は自身の使い魔から飛び降りると地上へ戻った。
玄武「ぐぬぬ、さすが最恐怪鳥だ。我々を確実に仕留めにきている!」
朱雀「あっ!?皆さん!まずいですよ!」
朱雀は庭園の遠くの方を指差した。
遥か遠くで巨大な砂煙が舞っている。
その先頭に立っているのは
青龍「ト、トルバだー!?」
トルバは持ち前のフィジカルで一気にこちらへと距離を詰めに来ていた。
白虎「まずいまずい、これは非常にまずいぞ!?あいつにサンダーバードを剥製にされたら、何もかもおしまいだぜ!?」
玄武「そうだな、奴に殺されたら一億ポイントが水の泡だ。皆!トルバを止めろーー!」
青龍「厄災操術 ウォーターブラスト!」
青龍は使い魔を召喚して、圧倒的物量の水を吐き出させた。
青龍「と、止まれーーー!」
しかしトルバは聖剣を振り回して水を弾きながら突破してくる。
白虎「チクショウ!爺さんには悪いが、ここに氷山を建てるぜ!
厄災操術 アイスバーグ!」
白虎はトルバの前に巨大な氷山を建てた。
そして割られた。
バキーーーン!
白虎「Noーーー!!山にギミックとか色々仕掛けておいたのにーー!」
玄武「そのギミックごと破壊されたか……だが、これであいつは黒雲の下に入る。今度こそ雷であいつは死ぬ!」
サンダーバード「ギャーーーン!」
サンダーバードが一声あげると、黒雲から雷が発生し、トルバに向かって落ちてくる。
白虎「よし!いけいけ!焼き払っちまえ!」
青龍「この雲の範囲では雷が必中……流石の奴でも死ぬ」
しかし、トルバは雷よりも速く走っていたため、雷は当たらなかった。
朱雀「おーーーーい!」
玄武「終わった……一流の勇者でもあの速さは出せんぞ。」
朱雀「どうしましょうか?」
玄武「決まってるだろ。甲羅を、投げる!」
玄武は厄災操術で甲羅をとばした。
しかしトルバはそれを蹴っ飛ばして、加速する甲羅に飛び乗る。
玄武「ああくそ!むしろ移動手段になってしまった!」
朱雀「ではここは私が。熱風を吹かせて確実にトルバを」
朱雀は空へと飛び立っていった。
白虎「あれ?そういえば、何で俺たちには雷が来ないんだっけ?」
青龍「あっ」
玄武「あっ」
ドカーン!
白虎「にょひーー!?」
彼らもターゲットであるため、白虎たち四神獣のもとにも雷が落ちてきた。
朱雀「ちょーーい!それ飛ぶ前に言ってよーーー!」
飛んでいた朱雀も見事に撃墜される。
トルバ「もらったーーーー!」
トルバは一気にサンダーバードに近づいて聖剣を振った。
バシャーーーーン!
サンダーバードは聖なる力にあてられて、体が弾けてしまった。
イロハ「やったーー!」
白虎「ああ……俺達の努力が……あんな簡単にー!」

富豪「で、四神獣は萎えて帰ったと。」
トルバ「すみません……うちの式神が本当にすみません。」
富豪「まあよい!お主だけでも景品をやろう!一億ポイント稼いだものに与えられるのは……」
イロハ「ゴ、ゴクリ……」
富豪「じゃじゃーん!儂が調合したMPを無限にする薬じゃ!受け取れぃ!」
富豪はウッキウキで薬が入ったコップをトルバに渡した。
トルバ(なあイロハ、魔法もクソもない人間が飲んでも、死にステが増えるだけなんじゃないか……?)
イロハ(仕方ないじゃないですか!無理してよくわからない特技使うからですよ……!)
トルバ(そんなこと言ったって……ちょっと、リーグスたちもフォローしてよ!これで何も起きませんでしたは失礼すぎるって!)
リーグス(大丈夫だよ。飲んで効果があったかどうかは誰にも分からないって。MPは魔法を使える回数が上がるだけだから。)
富豪「おお!そうじゃった、剥製はどうした?」
トルバ「あ、すみません!聖剣の威力が強すぎて跡形もなく消えてしまいました……」
富豪「おお、そうだったのか!ならば、完全消滅させたその強さを讃えて、これをやろう!」
富豪はそういうと、謎の小型の機械をトルバに渡した。
トルバ「?これは……スロット?」
富豪「そうじゃ!しかも大当りしか出ない、特注品じゃ!」
トルバ「あ、当たるとどうなるんですか?」
富豪「最高位の呪文がMPなしでブッパできる!」
トルバ「ええ!?」
イロハ「せ、先輩!これは……」
トルバ「ああ!ノー特技ノー魔法問題、解決だ!」
イロハ「やったーー!先輩最大の悩みが!ついに!解消されましたーーー!」
トルバ・イロハ「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」
リーグス「良かった……本当に、一時はどうなることかと……今まで、本当に、長かった……」
メーシャ「ああ……わたしゃ感動だよ!」
カジル「これであいつも、救われるだろうな。」
ラティス「聖剣もらって泣く泣く帰った後ろ姿しか見てなかったので、私涙が……」
こうして、トルバの抱えていた諸問題は、全て解決した……

トルバの家
トルバ「いやー、ほんとごめんねイロハ。俺のせいでこの間は晩ご飯も食べれなくて。」
イロハ「あ、そういえばそうでしたね。じゃあ、昨日作る予定だったすき焼き、今日食べましょうか。」
イロハはそういって俺に微笑んでくれた。うへへ……優しい。
イロハ「それじゃ、私ちょっと作ってきますねー。」
トルバ「え、イロハ、一人で作るの?」
イロハ「ええ。私も進歩してますから!」
トルバ「そ、そうなんだ……ならいいんだけど。」
あれ?おかしいな?大抵手間のかかるやつは二人で分担しようって決めてるのに。進歩したって言ってたし、一人で全部できるように練習してたのかな?
トルバ「イロハ、なんか手伝おうか?」
イロハ「え?あ、いいですいいです!本当に私、大丈夫ですから!」
トルバ「そ、そう……ならいいんだけど……」
俺は少し心配しながらも、イロハに任せることにした。

イロハ「せんぱーい!できましたよーー!」
イロハが出してくれた鍋を見ると、美味しそうなすき焼きが本当にできていた。
トルバ「す、すごい……本当にできてる……!」
イロハ「そうでしょうそうでしょう!ささ、早く食べましょ!」
トルバ・イロハ「いただきます!」
トルバはイロハの作ったすき焼きを食べ進めていく。
しかし、イロハだけは一切箸を進めなかった。
トルバ「?イ、イロハ?食べないの?」
イロハ「……フフ、引っかかりましたね、先輩♪」
トルバ「うっ!」
トルバの体が突如として動かなくなった。
トルバ「イ……イロハ?」
イロハ「フフフ、抵抗されると、今の私でも負けちゃうかもしれないので、ちょっと悪戯しちゃいました♪」
トルバ「あ、あわわわわ…………」
そ、そうか!Beast modeだ!まだ解除されてないのか!
トルバは気づいた。イロハはトルバを止めるためにBeast modeを強行、その後にトルバのバーサーク状態が終了したため、イロハのBeast modeが解除される機会、それがなかったことを……
今のイロハは食欲のままにトルバを手に掛けようとする、ただの獣……いや、中途半端に理性が残っている分、毒を盛るだけの知能までつけた、すえ恐ろしい、まさに獣神。
イロハはトルバを二又に分かれた尻尾で縛り付ける。
トルバ「あうう……麻痺させられた上に縛られた……」
イロハ「文字通り、手も足も出ない、ですね?先輩♪」
イロハはもがくこともできないトルバの前で、クスクスと笑った。
イロハ「それじゃ、今日も一緒に寝ましょう?今夜はお楽しみですね♪」
トルバ「ヒィッ!」
トルバはなすすべもなく、イロハに部屋へと連れて行かれてしまった……


トルバ「うう……返してくれー、12年間、コツコツ鍛えてきた力を、返してください……」
イロハ「うう、負けるな!負けるなイロハ!思わず保護したくなる母性本能に!なけなしの理性で打ち勝つんだ!」
トルバの取り柄は知力と武力。そこから武力を取って縛られれば、本当に何もできない人間の完成である。
よってトルバは情けなくとも、最期の最期まで強い状態で終われるよう交渉していた。
トルバ「い、いやだぁ……どうせ食べるにしても、力だけは返してください……失うのが怖いんですーーー!」
イロハ「ッ!ああもうわかった!わかりましたから!解毒だけでもしてあげますからーー!」
遂にイロハが折れ、トルバは無事に力を取り戻した。
トルバ「うう……ぐすん」
イロハ「ちょっと!そんな部屋の端っこで体育座りしたって、無駄ですからね!」
トルバ(トラウマになって傷心中)
イロハ「ああもう!大丈夫ですから!もう動けなくしませんから!」
トルバ「ほ、本当……?」
イロハ「本当に!」
トルバ「そっか……ところでイロハ、



ーー『自分のことを勇者だと思い込みたい一般人』って、俺のこと?」
イロハ「ギクッ!?」
トルバ「ねえ、何で?何でそんなこと言うの?ねえ?何が俺に足りないの?ねえ……もう俺、充分頑張ったよね?そう、だよね?イロハ」
イロハ「あ、あわわわわ……!」
イロハの力が完全に押し負け、ベッドに押し付けられる。
イロハ「せ、先輩……!」
トルバ「……何?答えないなら、こうしちゃうよ?」
イロハ「ひうあ!?や、やめてくだひゃい!////」
トルバはイロハの耳に指を突っ込み、中をくすぐるように指を動かした。
トルバ「へへ……下手に力で潰すより、こっちの方がきついだろ?」
イロハ「あああ!?私、両耳とも、弱いのにぃ……」
先程とは立場が逆転し、今度はイロハの方が劣勢になる。
トルバ「全く……すーぐ人の地雷を踏む……影で俺のこと、そんな風に思ってんだ?」
イロハ「ち、ちがっ!?」
トルバ「ずっと俺のこと側で笑ってんだ?」
イロハ「や、やめ!?あっ!」
トルバはイロハの弱点である尻尾を掴んでニヤリと笑う。
トルバ「そんな『手も足も出ない』後輩には、お仕置きが必要だよね?いやー思い出して良かった良かった……」
イロハ「んにゃあ……力が抜ける……」
トルバ「ふふ、イロハ、この2つの尻尾……最後まで持つと良いね?」
イロハ「あ……あ……やめ、ふああ……さわさわしないでぇ/////……」
次の日の朝、イロハの尻尾は元に戻っていた……

???「ハァ、ハァ、ハァ……リー、グスゥ!」
夜の路地裏、トルバに倒された謎の魔物が、傷を癒やしていた。
???「ツギ……コソハ……カナラズ……タオスゥ!」



………あ、ごめん、めちゃくちゃ話しづらいわ。いや待って、何で俺こんなカタコトキャラになっちゃってんの!?
皆さん、分かりますか?
私、私ですよ!魔王なんですよ!
ロクに名前も与えられず死んでしまったあの魔王!遂に転生して復活しましたあ!
……とはいえなんかさ、何で?何で俺ゾンビなん?
いや、おかしいでしょ!?
だって俺さー、仮にも魔王なんだよ?
せめてさー、こう、もう少し原型残してくれたって良いような気ガ


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