全人類は『セブン(Seven)』を観よ!

 こんにちは、yamaです。「全人類は観よ」シリーズ、洋邦問わず古今東西の名作映画を紹介する企画にしたいと思います。第一弾として紹介するのはデヴィット・フィンチャー監督『セブン(Seven)』。今でもフォロワーが後を絶たないサスペンススリラーの名作だが、結論から云うと「凄くイヤな気分になる」映画です。後味の悪い衝撃的な結末は余りにも有名ですが、それのみならず、観る人をどうやって海底に沈みこむような、重い鉛を打ちつけられたような気分にさせるか、徹底的に考え尽くされた映画だと思います。
 モーガンフリーマン演じる老成した定年間際の刑事が素晴らしいのは勿論、ブラットピット演じる常に感情を優先して生きる若い刑事・ミルズがリアリティーに満ちていて良い。過剰に演技臭くなく、殺人課刑事という過酷な仕事と家庭との間に揉まれる20代後半ぐらいの若造といういかにもありそうなキャラを見事に演じ切っています。こういう自然な演技が出来る役者が今の日本に一体何人いるのでしょうか・・・。
 監督・デヴィットフィンチャーの2作目でもありますが、彼は前作『エイリアン3(Alien 3)』が酷評され興行的にも失敗したことで意気消沈し「新たに長編映画を撮るなら大腸癌で死んだ方がマシ」などと完全にヤケになっていました。しかし『セブン』批評的興行的成功を皮切りに『ファイトクラブ(Fight Club)』,『ベンジャミンバトン 数奇な人生(The Curious Case of Benjamin Button)』,『ドラゴンタトゥーの女(The Girl with the Dragon Tattoo)』などの傑作映画を次々と生み出すことになります


 この広告にあるように、本作はキリスト教の「七つの大罪」をモチーフにした連続殺人事件を追う二人の刑事が主人公です。こういうサイコサスペンスものでは『羊たちの沈黙(The Silence of the Lambs)』という先行作品がありますが、猟奇度や殺人描写の完成度はこちらの方が上でしょう。特に序盤の、スパゲッティに頭を突っ込み糞尿を垂らしながら死亡する肥満男の描写は、暗闇のシーンながらもおぞましさを感じます。また、死体を写す現場写真も度々登場しますが、これらも中々正視に耐えない様相を呈しています。
 では犯人のカリスマ度はどうか。こういう作品では犯人のカリスマ性がどれだけ観客を引っ張れるかも重要ですが、これはアンソニーホプキンス演じるレクターと今回のケヴィンスペイシー演じるジョンドゥでは五分五分でしょう。もっとも『羊たちの~』と違って本作でケヴィンの登場シーンは多くはありませんが、どこまでも殺人に貪欲な姿勢と「原作が存在しない」という点において、もしかしたら本作の方が上回っているかもしれません。
 主人公たる刑事のキャラクターはどうか。これも、どちらもよく造り込まれています。クラリスは成績優秀で刑事としての素質は抜群ながらも「幼少期に屠殺が迫る牧場の羊を逃がそうとするも、彼らは逃げようとしなかった」というトラウマにも似た光景のフラッシュバックから逃げられない。ミルズもまた、ヤク中でラリった男を確保する際に一発発砲して死なせ、希望に満ちると思われた刑事人生に一抹の闇を抱えています。また彼は、後にモーガン演じる相棒・サマセットと毛を剃るシーンで「俺は・・・」と言い掛けてその場を去っています。このシーンから結末について様々な考察をする人もいるようですが、とにかく「事件解決に一途な熱血漢」などという薄っぺらい人物像でないことは確かです。事件に纏わる描写,犯人のカリスマ性,主人公のキャラクターという3点で比較すると、本作は『羊たちの~』と比べて同等かそれ以上のクオリティーがあると考えて良いでしょう(個人的に『羊たちの~』の演出は現在では使い古されていることもあり、そこまで印象は鮮烈でない。勿論名作であることは確かだが)。
 本作の演出で特徴的な点といえば、「雨」でしょう。本作ではクライマックスを除いてほぼ常に雨が降っています。全編が米・サンフランシスコで撮影されたということですが、強い雨が始終降り続いていることで不穏な空気が漂っていますし、殺人現場も無駄に明るくないせいか不気味です。ミルズが犯人を追いかけ取り逃がすシーンで雨は最も強くなりますが、場面の激しさにマッチしていて、ミルズ・サマセットという二人のみすぼらしさ/身に纏う疲労感を醸し出しています。
 それと対照的にクライマックスの高圧電線が張り巡らされた荒野で犯人と対峙し“ある物”が届けられる衝撃的なシーンでは雲一つないピーカンとなっており、アイロニーを感じます。この“衝撃的なシーン”は本当に衝撃的なので、ネタバレサイトを覗くのではなく実際に自分の目で観ることをお薦めします。
 先程「殺人現場の雰囲気が良い」と書きましたが、これに関して本作の二番煎じである小栗旬主演の邦画『ミュージアム』が唯一優れている点です。

 2016年に公開された本作はコミック原作ではありますが、明らかに『セブン』を意識したと思われる脚本となっています。犯人がやたらとしゃべりすぎ(妻夫木の憑依具合は良かったが)、ステレオタイプに囚われすぎ、いくら何でも情報を小出し・明示しすぎ等々、明らかに『セブン』の完成度に及びませんが、殺人現場や残酷描写に関してはこちらの方が見応えがあります。もっとも「色々見せすぎる」というのは邦画の悪しき慣習で、本作もこの指摘から免れることはできません。観せなければもっと犯人の異常性を際立たせられるのにどうして殺人途中の詳細を撮ってしまうのか(『セブン』ではそんな描写は一切ない)、といった欠点は多く、残酷描写が酷ければ酷い程面白くなるという訳でもありませんが、少なくともテレビ放映を全く意識しなかったという点で取り上げるべき特徴だと思います。なぜこれにR指定が付かないのか、といった声も公開当時は聞かれましたし。
 残酷描写については以上の通りですが、残念ながらストーリーは公告にある「最悪のラスト」とはほど遠いものとなっています。ここではネタバレはしませんが、『セブン』のように一応のハッピーエンドを用意しない、主人公と観客を突き放すようなエンドが準備されていたらどんなに良かったでしょう。そもそもサスペンススリラーに後味の良さなど不要なのであって、観客に“迎合”するように優しくなる必要はありませんでした。
 また、台詞や謎を解く手掛かりの提示、伏線回収なども『セブン』が一段も二段も優れています。いくつか例を挙げると『ミュージアム』では犯人に日光アレルギーの既往があることが中盤で明かされるのですが、そのきっかけが、主人公が定食屋で「アレルギーがあるような料理出すな」とブチぎれる客を見る、というもの。こんな下手な誘導ありますか??それに対し『セブン』では、衝撃的な結末を示唆する台詞として「ジョンドゥ(犯人)の服から現場の被害者とは別の血液が検出されました」というのがあります。他にもミルズの妻の妊娠のエピソードやそれを最初に聞いたのがサマセットだったという点など、脚本のさりげなさには現在の邦画との実力差をまざまざと感じさせられます。
 どうだったでしょうか?なかなかハイクオリティーなサスペンススリラー映画だということがお分かり頂けたかと思います。是非今回挙げた2つの関連作品も観ることをお薦めします(『ミュージアム』は別にいいか・・・)。こういうジャンルは私の大好物ですので、これからも積極的に感想はアップしていきます。邦画でも中々良いやつあるんですけどね・・・。

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