庭師になるまで04 良い土、悪い土

土中環境との出会いによって、庭づくりの方針が見えてきた。

現代社会において”無いもの”とされがちな”見えないもの”。
その「見えないものを想像する力」が、自然や生き物を相手にする上で大切だったのだ。

見た目ばかりを重視した植栽ではなく、土に学び、森に学び、その仕組みを生かした環境づくりを目指したい。

人生学ぶことだらけ。


良い森の条件
木が健全に生育するためには何が必要なのか。
生息地である森について調べてみる。

まず、良い森とは?
土中環境より掻い摘んでいえば、

「植物種や世代(幼木・成木)の多様性が高い」
「高木層・亜高木層・低木層・草本といった高さによる階層構造が発達」
「適度な光で穏やかな風が流れる」

人工林のような暗くて下層植生が乏しい状態ではなく、上から下まで高さを棲み分けながら多様な植生が発達している。

このような多種共存の森では、地上と同様に土中においても、根が深い位置から浅い位置までまんべんなく張り巡らされて共生している。

根の深い樹種は土中深くに根を到達させて、水分やミネラルを吸い上げ、土中を涵養する。

水と空気の動きがもたらすもの
健全な土中環境においては、降り注いだ雨が土中に染み込み、ゆっくりと”浸透”と”湧き出し”を繰り返し、水の動きに連動して”空気も動く”。

その水と空気の流れのラインを”通気浸透水脈”といい、土中の水と空気が滞りなく動くとき、土壌は多孔質な「団粒土壌」に育っていく。

こうした多孔質な土壌は温度や湿度変化も穏やかで恒常性も保ちやすい。
菌類や微生物の生育環境として最適だ。

反対に、水と空気が停滞し圧密されて酸素不足となった土中では、「グライ化」という土壌の還元作用が起こる。

このような土壌では、一部の菌類しか生息できず腐敗が生じ、土は青灰色になって悪臭を放つ。

青灰色のグライ化した土

上の写真は我が家の土壌。
アオダモが旅立ってエゴノキが植えられた場所だ。

水脈改善のために植え穴周辺を掘ると、青灰色のグライ化した層が現れた。
漂う臭いに、恐る恐る鼻を近づけてみると…

「……めちゃくちゃクサい!!!」

一言でいえばドブ。
泥の腐敗した臭い。
小学校の側溝掃除の記憶が一瞬にして蘇る。

これはもう感覚的に木の生育に適していないのがわかる。
アオダモも旅に出る訳だ…。

二代目のエゴノキにはしっかり根付いてもらえるグライ土壌を掘り進めて水脈造作をした、その夜。

お風呂で頭を洗うと、放たれたドブの臭いに悲鳴を上げた。
土の臭いは手ごわい…。


土は育てるもの
”団粒土壌”は良くて”グライ土壌”は悪い。
そう言うと、土をごっそり入れ替えればいいと考えるのが人間だ。

しかし、これには落とし穴がある。
土は環境によって良くも悪くもなるのだ。

たとえ団粒化した良い土に入れ替えようとも、元の土壌の浸透性が悪ければ、土の境目で滞水が生じて少しずつ土は悪くなる。

逆に粘土のような扱いづらい土でも、土改材を混ぜて通気して水と空気の動きをつくれば、植物や菌類、微生物の働きによって土は良くなる。

うちのグライ化した粘土でも、縦穴や横溝などの水脈造作をしたら、数ヶ月後には土質が変化してフカフカになっているのだから驚きだ。

土の移動に伴うコスト。
買った土はどこから来て、捨てた土はどこに行くのか。

色々なことを考えると、できるだけ”その場所の土を育てたい”と思った。


団粒構造を保つ菌糸の働き

木の生育に適した団粒土壌。
この土壌の多孔質な構造を保つための糊のような働きをするのが”菌糸”だ。

菌糸は落ち葉などの有機物の分解過程で生じ、健康な土中に網の目のように張り巡らせる。
それにより、土壌の団粒構造が壊れることなく保たれ、保水性、透水性、通気性共に安定した土中環境がつくられる。

下の写真は庭での実践。

【写真①】竹に生じた菌糸

【写真①】は横溝施工後、植栽エリア追加の為に掘り返したもの。
画面中央の白い糸状のものが菌糸。
横溝には水と空気が動き、木の根が集中していた。

【写真②】落ち葉と粘土で育てた土壌(植物は挿し木したハクサンボク)

【写真②】は落ち葉と粘土をサンドイッチして育てた土壌。
土の中に網の目のように張り巡らす菌糸が確認できた。

菌糸は植物の根と”共生関係”を持つことで、植物から糖類などを吸収し、その代わりに植物の根を乾燥や病原菌の攻撃から守ったり、水やリン・カリウムなどの植物の生育に必要な栄養素を吸収する手助けを行っている。

なんだかすごい菌糸の働き。
もっと詳しく調べてみよう。

次回は、”驚くべき菌類の働き”。


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