天田銀河さんとのいちごつみ

 6月19日から24日まで、天田銀河さんと20首のいちごつみをしました。

 奇数は天田銀河さん、偶数はわたし、えんどうけいこです。一首目は、わたしの短歌「レコードの音色のあとをおうようにサンキャッチャーのひかりがゆれる」からいちごつんでくださっています。

1:レコードの元へ戻らぬ傷に触れ遠くあなたをおもう日の暮れ

2:がんばればそれだけでほめられていた 柱の傷の二番目までは

3:見られても平気なように二番目の願いを書いた短冊に風

4:にんじんの短冊切りの厚さまであなたの家の流儀に倣う

5:空っぽの海の家から夕暮れにひときわ響く風鈴の音

6:宝物なんて言えない 空っぽのクッキー缶もきみの手紙も

7:さようなら夏の手紙に散らばった言葉はみんなみんな貝殻

8:映画ならここが見どころなのだろう 嵐の晩に告げるさようなら

9:僕たちのものがたりにはうつくしく描きたかった嵐のシーン

10:うつくしく見える角度を知っているひとは前世で花だっただろう

11:紫陽花をそっと揺らせば前世からあなたが連れてきたような雨

12:さみしさの水をよけいに吸いこんで紫陽花は藍色を濃くする

13:藍色に沈む砂浜 残照のつかのま言葉を交わさずにいた

14:友だちでいられなくなる 足裏を灼く砂浜の熱さのせいで

15:隠れ家で抱き合ってみた夏休み僕たちはまだ友だちでいた

16:追いかけてくる現実を振り切って押し入れという隠れ家で寝る

17:永遠のかげふみずっと追いかけているのは僕の影なのですが

18:誰もみな弱くてひとに頼りたい ドラえもんにも背後には影

19:君からの言葉に宿りいる星を頼りに森を抜けだせば夏

20:ゆるふわを貫く強い意志がなく街から消えてゆく森ガール

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 天田銀河さんの短歌は、詠まれている具体物は身近な一方で、なぜか現実の世界から少し乖離したような、二次元というか平行世界の出来事のような雰囲気を纏っているものが多いと感じています。銀河、というお名前とも響き合うようです。

 どれも素敵なのですが、特に心に残ったのは七首目の「さようなら夏の手紙に散らばった言葉はみんなみんな貝殻」でした。外見が美しくて、固そうに見えて意外と脆くて、ひとによっていつまでも大切にしまっておく宝物になったりもするけれど、また別のひとにとっては単なるゴミに過ぎなかったりする貝殻は、おそらくはもう会うことのないひとの手紙(自分が書いたとも読めますし、相手からもらったものとも読めます。両方かもしれません)に綴られた言葉の喩としてぴったりだと思いました。「みんなみんな」というリフレインも切なくて好きです。

 久しぶりのいちごつみ、楽しかったです。天田銀河さん、ありがとうございました。


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