見出し画像

読録「都市をたたむ」饗庭伸

この本では、「都市をたたむ」という概念を提唱しています。これは、単に既存のインフラを廃止し市街地を無くしてまちを小さくしていくということではなく、人口減少社会に適応した持続可能な都市づくりを目指すことを意味します。

僕は20年前に大学で建築を学びましたが、そのときの都市計画の考え方は、「都市を拡大する」方法論が中心でした。エベネザー・ハワードの「田園都市」、ル・コルビジェの「輝ける都市」など、世界における近代都市計画の理論、すなわち人口が増加して都市がどんどん大きくなるために必要な考え方を刷り込まれていたような気がします。記憶では。

しかし、近年では、縮退する社会を迎えて、いかに効率的にコストをかけずに都市を持続させていくか、といった議論が中心の世の中になってきました。「コンパクトシティ」もそのひとつかと思います。

この「コンパクトシティ」という考え方には個人的に違和感がありました。それは「本当にできるか?」という単純な疑問です。すでに広範に開発され尽くした個人住宅を含むインフラを、中心部に移していくことなど到底不可能なことに思えました。

この本では、コンパクトシティについて否定していません。むしろ、これから新しく生まれるまちであれば、効率的なインフラの維持管理や都市機能の集約といった意味で、理想的な考え方という捉え方をしています。ただし、既成都市においては、人々を移動させるコストに加え、これまで長い時間をかけて形成されてきたコミュニティを解体して、移動させたうえで再建しなければならない「無駄」があると言います。

一方で、まちの広さとしての規模に変化はないが、その中で空家が発生したりして密度が下がったりする「スポンジ化」という動きに合わせて、柔軟に多元化に対応していくまちづくりが求められている、というのが現代に求められている「たたむ都市計画」。これが大雑把に解釈したこの本の内容です。

そして、この本の中で最も共感した内容は、繰り返し唱えられている「都心のために都市を縮小するのではなく、私たちの持つ小さな目的のために、主体的に都市を使いながら縮小する」という考え方です。

私なりの解釈では、都市計画が何のための計画であるか、ということが非常に大切な問いで、同じ「都市をたたむ」にしても「誰がどういう状態にありたいか」ということを常に中心に据えて考えていく必要があるいうことだと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?