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あの日、僕はキミをころした。プロローグ(仮)



11月下旬、木枯らしが吹く頃。


3歳から続いた12年間の入院生活にピリオドを打つ。


退屈な生活かと言われればそれがそうでも無くて、一つの要因として…

『ほら‼︎○○も早く‼︎』


『保乃、ちゃんと前見てや?危ないで?』


病院の前でもこうやってはしゃげる程の同年代の友達がいたから。


2年前に退院した保乃は活力的と言いすぎても良いほどの少女となって、度々僕らの病院に足を運んでくれていた。


一方の小坂菜緒は…未だに自分では立つこともできないほど病魔に侵され車椅子生活を強いられている。


保乃が菜緒の車椅子を押す。


僕は自分の足で歩いてる事を実感しながら、一歩ずつ。一歩ずつ歩いた。




『なぁ…○○が押してや。』


近くの銀杏並木に着いた時、ふと菜緒が言っ
た。


『え?!なんで?』


今までずっと押し続けてきた保乃が眼を大きく開かせる。


『んー…たまには、良いじゃん』


『むぅ…仕方ないなぁ…』


渋々保乃は車椅子の持ち手を離して僕に変わるように促す。


正直外にはまだ慣れてなくて、自分なんかが押して大丈夫なのかと不安になった。


それでも、菜緒の車椅子を押せることが何故かたまらなく嬉しかった。


『ゆっくりな?』


菜緒が緊張した僕を見上げて笑って言った。


「ふぅ…」


僕は何故か溢れそうになる涙をグッと抑え込むように上を向く。やっぱり菜緒が"好き"なんだ。


そして、一歩ずつ。


「乗り心地はどうですか?」


『最高です。流石は車椅子マイスターですね。』


『ふふっ…なんやねん。それ。』


なんて、三人で笑い合う。この感じがやっぱり大好きだ。

「菜緒は、、まだ退院できないの?」

僕はボソッと車椅子を押しながら聞いてみる。

入院中は何故か気を遣って皆病状について話したりすることはなかった。

『んー、うちは遺伝性で重たい病気やからなぁ』

菜緒は少し苦笑いを浮かべてそう言った。

『○○はデリカシーがないね。』

保乃が横からなにか言ってるがそんなことは無視して僕は両手に力を入れて車椅子を押す。

そして、この両足に慣れてきた時。

木枯らしに吹かれてイチョウが舞い散った時。


僕は突然、車椅子を押して走った。


『うわっ‼︎○○早いよ‼︎』

菜緒は楽しそうに見たことないくらいの笑顔を浮かべている。

「ふふっ…もっと早くしちゃおうかな…」


『危ないって…』


僕は、保乃のその声も届かないくらいに夢中になって笑って走った。


そして、一歩、二歩。

三歩、四歩。



五歩目…を踏み出す時、何かに引っかかったようにして…



ゴンッ


そのまま強い衝撃と共にその場に倒れた。


痛い。頭を強く打ったみたいだ。


持っていた手が痺れるように。


声が出ない。


あぁ…そうだ。菜緒は…。


残りの力を振り絞って菜緒を見る。


そこに広がる赤黒い血の海に遠のいていく自分の意識をハッと起こされる。


痛みなんか忘れて僕は立ち上がる。


多分、保乃は何か言っている。

聞こえない。

まるで世界がスローモーションの映像かのような感覚を覚える。

ただ痛みも秋の冷たい風もなにも感じとれなかった。


目の前に広がる出来事に目を取られて…



そしてそのまま僕は目を瞑った菜緒にもたれかかるようにして倒れた。

中学生として最後の秋の終わり。

…僕はキミを殺した。

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