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元に戻れる人もいるらしい

元々、大人数で呑んで食って騒ぐ、みたいな場が苦手でした。

大音量でザワザワしていて会話どころではないし、ニオイも雑多に混じって人との距離は近過ぎ、わたしには刺激が多すぎる空間。

笑顔を崩さない訓練をしていたし、テンションを一時的に上げる技を会得していたので、たぶん周りからわたしは「楽しそうにしている」という印象を抱かれていただろう、と思います。

立食パーティーでも、積極的に話しかけに行ったり他のテーブルを満遍なく回ったりしていましたから。

実は飲み会が苦手、と打ち明けると大層驚かれたものです。

「わたしは気を遣って楽しそうにしていますよ」と感じさせない演技。
演技派ちびろ。

だから「相手が笑っていて楽しそうに見えた」からって2人きりのデートに誘ったりホテルのキーをクルクルさせたりしたらいけないのですよ。
そこには「上下関係」という広くて深い河が流れているのですから。

ということで、全方位に気を配った飲み会や食事会から帰ってきたとき、わたしはどっと疲れていました。

極限までレベルを上げた界王拳を使った悟空みたいになっていました。
オラに元気を…!と両手を上げることすら困難でした。

最近、政府の指針が変更されたことで飲み会解禁、みたいな雰囲気ですね。

飲み屋街でむちゃくちゃ盛り上がってる集団を尻目に、そそくさと我がサンクチュアリ(自宅)へ向かいながら

あのなかの何割くらいの人が、ああもう帰りたいと思いながら仕方なく笑っているんだろうな

などとついつい、想像してしまいます。


先日、人と食事をしたとき、正面にいる相手がわたしの方を向いたまま、口を手で押さえて派手にくしゃみをしました。

わたしの脳裏には、富嶽のあの映像。

一応手でおさえてはいたものの、間違いなくその大きく空いた隙間をすり抜け、目の前のわたしたちの食べ物に、あるいはわたしの顔に直接、降り注いだであろう飛沫。

たちまち食欲を失ったけれども、相手にそれを指摘することも、その後まったく飲み食いしないという選択も、わたしには出来ませんでした。

出来なかった。
出来なかったんです。
なんでだろう。

気の置けない仲だよねと思っていても、
意外とクチャラーを指摘できないのと同じ理屈でしょうか。

わたしは、不可逆だと
元に戻るなんて冗談じゃないし「戻る」なんてことは無い
と思っていたけれど、エアロゾルとか咳エチケットとか、気にもしていなかったし、そもそも知りもしなかったあの頃に戻れる人もいるらしい、ということを学びました。

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