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初めて受賞できた作品のこと

今日で2023年9月も終わりです。昨日は様々な公募の結果発表があり、長年書いてきた方が嬉しい報告をされていたり、逆に残念な結果になったりと大変な一日だった気がします。
私も今はありがたいことに書籍化デビューを果たし、小説家と名乗ってもいいように思ってますが、これまで多くの公募やネットで開催されていたコンテストに落選してきました。
公募にだしても結果がでず、悩んでいた頃にふと投稿サイトの短編コンテストが目にとまり、どうにか書き上げて応募したのです。ずっと落選だったから今回もダメだろうと期待は一切していませんでした。
後に結果をサイトで確認すると、なんと佳作受賞。大賞や準大賞、入賞の下に続く賞ではありますが、私にとっては初の受賞だったのです。サイトの結果発表ページに拙作が載っているのを見た時の喜びは今も忘れることはできません。(嬉しすぎてバンザイして叫んでしまいました)
今思えば、この作品が自分にとって転機になったかもしれません。その後も同じ投稿サイトのコンテストで何度も落選してるので順風満帆とはいきませんでしたが、また受賞したい!とさらに書いていけるようになりましたので。
ちなみに応募先は投稿サイトのひとつ、エブリスタ。
定期的に開催されている短編コンテストで、お題を元に短編を応募する『超・妄想コンテスト』です。
受賞できたのは第96回で、お題は『とける』でした。

今回はnoteのお題企画に乗っかり、初めて受賞できた作品を下に載せようと思います。古い作品なので拙い部分もありますが、あえてほぼ改稿せずに載せます。
短編ではありますが、4500文字程度はあるので興味ない方はスルーしてくださいね。

   『太陽神の料理人』

「料理人よ。わたしはアイスクリームというものを食べてみたいのだ」

 太陽神は遠慮がちに料理人に告げた。

「アイスクリーム、でございますか……」

 料理人はいつも通り「かしこまりました」と答えることができなかった。

 料理人が仕える太陽神は、この世の光と太陽を司る神である。太陽の恵みをあまねく人々に与え、世を光りで照らすことを定めとした誉れ高き神。精悍な体に太陽のような灼熱の心と体温をもつ、輝くような美男子だ。
 料理人は太陽神の専属料理人であることに、誇りをもっていた。太陽神が求める料理は工夫を凝らして作ってきたし、太陽神も喜んで食してくれた。
 尊い主のためなら、どんな料理でも用意する自信が料理人にはあった。
 しかし今回だけは。
 太陽のごとき灼熱しゃくねつの肉体をもつ太陽神の前では、アイスクリームやかき氷といった冷たいものは、たちどころに溶けてしまうからだ。
 太陽神にアイスクリームを食べてもらうには、『溶けないアイスクリーム』を用意する必要がある。
 しかしそのようなアイスクリームが、あるのだろうか? アイスクリームはひんやりとした口当たりと、舌の上でまろやかに溶けることを楽しむ繊細な菓子だ。
 太陽神にお出しして、口に運ぶ前に溶けてしまっては意味がない。
 溶けることなくアイスクリームの味わいを楽しんでもらうには、どうすればいいのか。料理人にはすぐに答えが出せなかった。

「すまない、料理人。わたしのわがままだったようだ。忘れてくれ」

 考え込んでしまった料理人を気遣い、太陽神は優しく声をかけた。

「とんでもございません、太陽神様。私こそすぐにお答えできず申し訳ありません」
「よい、気にするな」

 明らかに気落ちした主の様子を見て、料理人は尋ねてみることにした。

「太陽神様、差し支えなければお教えいただけないでしょうか。なぜアイスクリームをお食べになりたいのですか?」

 太陽神は目を細め、何かを思い出すように語り始めた。

「人間の娘たちや幼子を抱えた家族が、美味しそうにアイスクリームを食べているのを見てしまったから、かもしれぬな。アイスクリームは冷たい食べ物だと聞いている。冷たいものを食べるならもっと寒そうにしていいはずなのに、どの人間たちも友や家族と楽しそうに語らいながら食していた。もしも、アイスクリームを食べることができたなら、わたしもその気持ちが理解できるかもしれぬ。そう思ったのだ」

 太陽神は好奇心だけでアイスクリームを食べたいといったのではないのだ。料理人はなんとしても、太陽神にアイスクリームを食べてほしいと思った。

「太陽神様、少しお時間をいただけますでしょうか? アイスクリームを御用意できるよう、頑張ってみたいと思います」

 太陽神の顔が輝いた。
 この日から料理人の奮闘が始まったのだ。

 料理人はまずアイスクリームを作って、さらにそれを氷のドームで囲んでみた。透明の氷の下から、乳白色のアイスクリームが透けて見える。
 見た目にも涼やかで美しかった。すぐに主にお出しした。
 喜んだ太陽神が微笑んだ瞬間、氷のドームが一瞬で溶けてしまった。ただの水となってしまった氷の水は、アイスを水浸しにしてしまった。
 びしゃびしゃのアイスクリーム。失敗である。

 氷がダメなら、保冷箱はどうか。
 尊い主にお出ししても良さそうな品の良い保冷箱を見つけてきた料理人は、その中に美しくデコレーションしたアイスクリームをおいた。
 太陽神にお出ししても溶けなかった。嬉しそうにスプーンでアイスクリームをすくいとり、口元へと運んだ。しかし口を開けた途端、アイスクリームは溶けてしまった。残ったのは液体と化してしまったアイスクリーム。また失敗だ。

 では部屋全体を冷やしてはどうか。
 料理人は背丈ほどの大きな氷を何個も用意し、太陽神が料理を召し上がる部屋をきんきんに冷やした。料理人は寒くてがちがちと震えたが、衣服を何重にも着込んで必死に耐えた。アイスクリームは溶けなかった。今度こそ。
 震える手でお出ししたアイスクリームを、太陽神は眩しそうに受け取った

「さすがはわたしの料理人だ。嬉しいぞ!」

 喜んだ太陽神は自らの膝を軽く叩いた。その瞬間、何個も用意した大きな氷はみるみる溶けだし、部屋は水で満たされてしまった。料理人は溺れそうになったが、アイスクリームを放り投げた主によって間一髪助け出された。
またまた失敗であった。

「もうよい、料理人」

 寒さでがちがちと震える料理人を哀れに思ったのか、太陽神はぼそりと告げた。

「叶わぬ望みだったのだ。そうとわかっていたのに、わたしの料理人なら可能かもしれないと夢を見てしまった。すまない。無理をさせてしまった」

「太陽神様……」

 主は悲しそうに微笑んだ。その姿は寂しく、切なかった。
失敗続きの料理人を責めもせず、「わたしの料理人」といってくれる優しい主、それが太陽神だ。なんとしてもその望みを叶えてさしあげたい。
 料理人は目をぎゅっと目を閉じた。
 もはや私ひとりではどうにもならないのかもしれない。
 では誰かに助力を頼んでみては? しかし一体誰なら適任なのか。
料理人はふと思い出した。そういえば太陽神様は、人間のどのような姿を見てアイスクリームを食べてみたいと仰られたのか。
 答えはきっとそこにある。それはもはや料理人としての勘だった。
 ひょっとしてあの方なら、お力を貸していただけるかもしれない。

「太陽神様、もう一度、もう一度だけ私に機会をいただけませんか? 御招待したい方がいるのです」
「招待したい者がいるだと……? それは別にかまわぬが」

 太陽神は不思議そうに答えたが、わずかに嬉しそうであったのを料理人は見逃さなかった。

「太陽神様、お客様をお招きしておりますので円卓までお越しください」

 料理人の声が宮殿に響くと、太陽神はいそいそと現われた。円卓の向かい側に来客の姿を確認すると、太陽神は息をのんだ。
 来客は気高く美しい女性であり、太陽神と同じように尊き神だったからだ。

「太陽神様、こちらは雪と冬の女神様です」

 料理人に紹介された雪と冬の女神は、優雅に微笑んだ。

「初めまして、太陽神様。お目にかかれて光栄ですわ」

 花が咲き誇るかのような、あでやかな微笑。
 太陽神は挨拶をするのも忘れるほど、女神に見惚れてしまった。同時に太陽神の体温も上昇し、周囲まで暑くなってくる。

「あら、太陽神様ったら」

 惚けたまま体を熱くする太陽神の姿に、雪の女神は楽しそうに笑った。
 料理人は慌てて太陽神に駆け寄ると、そっと声をかけた。

「太陽神様、御挨拶しませんと」
「むむ。そ、そうだったな」

 料理人の声掛けにやっと正気を取り戻したのか、いつもの太陽神に戻った。

「ようこそ、雪と冬の女神殿よ。わたしは陽を統べる太陽神にございます。以後お見知りおきを」

 やっと挨拶することができた太陽神に、料理人はほっと息をついた。雪の女神は軽く会釈すると、うやうやしく挨拶を返した。

「お招きにあずかり、嬉しゅうございます。なんでも今日は、貴方様の料理人による最高級のアイスクリームをごちそうしていただけるとか。
わたくし、楽しみしておりましたの」

 にっこりとほほえむ雪の女神に、再び驚く太陽神であった。

 太陽神と雪の女神は円卓を挟んで向かい合わせに座った。
 朗らかに微笑む雪の女神と、女神と目が合うたび顔を赤らめている太陽神は対照的だ。

「お待たせしました。最上級のアイスクリームでございます」

 円卓に置かれたのは、雪山を模した山の形の巨大なアイスだった。山の頂上に溶かした飴を雲状に絡めており、きらきらと輝いている。

「まぁ、きれい。飴は雲をあらわしているのね」

 ぽんと手をたたいて女神は喜んだ。彼女の城がある雪山を表現していると気付いてくれたようだった。

「雪の女神様、仕上げをお願いしてよろしいでしょうか?」
「ええ、わかりました」

 女神はスプーンを手に取ると、雪山のアイスクリームからひとさじすくいとる。スプーンを口元にもっていくと、ふぅっと息を吹きかけた。雪の女神の息吹は凍てつく氷となり、アイスを氷の膜で覆った。

「これで、溶けないアイスクリームの完成ですわ。太陽神様、お口を『あーん』してくださいませ。食べさせてさしあげます」

 スプーンを差し出された太陽神は、太陽のように真っ赤になった。

「お、お客様にそのようなことを……」
「あら、これが一番いいと思いますわ。私の氷を溶かすことができるのはこの世で太陽神様だけ。ならばこうして食べさせてさしあげたほうが
確実に太陽神様のお口に入ります。それに、このほうが私も楽しゅうございますしね」

 雪の女神はいたずらっぽく笑った。その可愛らしさに太陽神の顔はますます赤くなる。

「太陽神様、お早く。太陽神様の熱で溶けてしまいますわ」

 促されて太陽神はおそるおそるスプーンに口を近づける。

「はい、あーん」

 女神の呼びかけに応じるように、太陽神も「あーん」と呟きながら口を開ける。氷の膜は太陽神の口の前で瞬時に溶け、アイスクリームだけを食べることができた。
 それは太陽神が初めて口にするとろけるような極上のアイスクリームであった。

「美味!」

 太陽神は叫んだ。

「なんと優しく、口の中で溶けていくのだ。この世にこのようなうまいものがあるとは。さすがはわたしの料理人だ」

 子どものように喜ぶ太陽神に、料理人も嬉しくなった。

「雪の女神様が、最後の仕上げをしてくれたからでございます。お力添えをいただき、まことにありがとうございます」

 料理人は帽子を取り、雪の女神に深々と頭を下げた。

「気にしないでちょうだい。私もアイスをいただいてますから」

 女神は太陽神が口に含んだスプーンで山のアイスクリームをすくい取ると、自らの口に放りこんだ。

「まぁ、美味しい。あなた、本当に最高の料理人ね」

 うっとりとした女神に、太陽神はもちろん料理人の顔も赤くなった。

「よろしければ、たまにこうして食事を一緒にしませんこと? お友達ができて嬉しいわ」
「お友達……。なっていただけるのですか? 雪の女神殿」
「ええ。もうなってるつもりですけどね」

 女神の言葉に、太陽神はぎゅっと目を瞑った。

「料理人……わたしは嬉しい。友とアイスクリームを食べることができるのだから」

 太陽神が絞り出すような声で囁いた。
 料理人は気付いていた。太陽神は人間と同じように、友や家族と仲良くアイスクリームを食べてみたかったのだ、と。

(太陽神様は、お寂しかったのかもしれない)

 料理人は思った。至高の存在として真面目に働いてきた太陽神であったが、彼とて寂しくなることはあるのだ。
 けれど、誇り高き太陽神が「寂しい」などと、どうして口にできようか。主の真の願いを汲み取ったからこそ、雪の女神の元を訪れ、招待したのだ。

「おまえは最高の料理人だ。わたしの心を見事に溶かしてくれた。これからもよろしく頼む」
「とんでもございません。私はただの料理人。これからも貴方様のためにお食事を用意させていただきます」

 料理人はうやうやしくおじぎをした。
 太陽神と雪の女神が談笑し、アイスを食べあうのを見守りながら、料理人はこれからも自らの職務に邁進しようと誓うのだった。

   
           了

 最期までお読みいただきありがとうございました。

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