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もうひとつの物語の世界19、 宙船・そらふね

宙船・そらふね


 神さまがおりたった高天原(たかまがはら)の、
 その岸辺のほとり。
 ふたりの子どもがあるいていた。
 おとこのこのなまえは「なぎ」。
 おんなのこのなまえは「なみ」。
 夜明けまえの、なみうちぎわ、
 風は、まだねむっている、
 淡い光だけが、水面(みなも)をてらしていた。

「おにいちゃん、あれは?」
 なみが、ゆびさした。
 なぎは、じっとみる。
 金色にかがやき、
 遠くで、小さく光っている。
「うごいてる?」
 淡い光につつまれ、
 水面(みなも)をすべるように、
 二人のほうにゆっくりむかってきた。
 だれものっていない。
「あっ、金色(こんじき)の小舟だ。」
 なみうちぎわにたどりつくと、
 金色(こんじき)の小舟は、しずかにとまった。
 なぎと なみが、のるのをまっている。
 どこからやってきたのか、
 どこへいくのか、
 ふたりには、わからない。
 なみが、おそるおそるつぶやいた。
「のってみたい。」
「のってみようか?」
 こうきしんに、まけて、
 なぎが、小さくこたえた。
 なぎが、まずのりこんだ。
 小舟のなかをたしかめる。
 つぎは、なみ、
 よこにこしかける。
 小舟は、まっていたように、すべりだした。
 鏡(かがみ)のような水面(みなも)に、
 船の波あとをえがいていく。
 なぎは、じっとまえをみた。
 風がふきはじめ、
 淡い光につつまれた。
「どこにいくんだろう?」
 そのとき、
 金色(こんじき)の小舟が、ふわりとういた。
「うわー、ういた。」
 なみは、びっくり。
 風にのって、ゆっくり上にのぼっていく。
「お兄ちゃん、とんでる!」
 不安そうに、下を見ている。
「おにいちゃん、こわい。」
 なにもわからないから、よけいにこわい。
「なんで?」
 なぎは、ひっしにかんがえた。 
 風が、ふたりを追いかける。
 淡い光が、のびていく。
 気持ちいい。
 こわいけど、なにかたのしい。
「おにいちゃん、なんでとんでるの?」
 なぎはおもいだした。
「おとうさんがいってた、宙船(そらふね)かもしれない?」
 なにかわくわくしてきた。
 大きな、雲にむかって、
 まっすぐとんでいく。
 宙)船(そらふね)は、大きな雲に、のみこまれた。
「うわー、 真っ白だ。」
 なにもみえない。
「なんで?」
 なみは、こわがり、
 おにいちゃんの手を、しっかりにぎっている。
 なぎは、まけない。
 じっと前をみつめている。
「ぜったいそうだ。
 おとうさんのいっていた宙船(そらふね)だ。」
 とつぜん、雲の上にでた。 
 ふたりは、びっくり。
 もうひとつ、空がある。
 あたたかい光が、
 どこまでもひろがっている。
 ここちよい風が、ふたりにふきつける。
 宙船(そらふね)は、雲の上をすべるように、ゆっくりすすむ。
 とおくで、だれかがまっていた。

 白いひげの老人。
 ふたりをみつけると、
 ちょっとおどろいて、首をかしげた。
「おやおや、ちいさな子どもが二人のっておる。」
「なぎと、なみだよ。ここはどこ?」
「ここは、天(あま)の国(くに)、
 わしは、空彦(そらひこ)をよんだつもりだが?」
「空彦(そらひこ)?」
 なみは、びっくり。
「空彦(そらひこ)は、おとうさんのなまえだよ。」 
「おとうさん?」
 こんどは、老人がおどろいている。
 この子たちは、わたしの孫?
「そうか、おまえたちのおとうさんか。」
 なっとくするように、もういちどつぶやいた。
「空彦(そらひこ)は父親になっておったか。」
「なんで、お父さんのなまえをしってるの。」
 なぎが、たずねた。
 なみも、しりたい。
「空彦(そらひこ)はなあ・・・。」
 老人は、なつかしむようにかたりだした。
「わしのむすこじゃ。
『高天原(たかまがはら)に自分の国を作りたい。』
 そういって、おりていった。
 それいらい、あっておらん。
 しかし、あたらしい手伝いがひつようになって、
 宙船(そらふね)をむかいにやったのだが、
 まさか、空彦(そらひこ)の子どもたちが、やってくるとは。」
 うれしそうに笑っていた。
 白いひげの老人は、
 空彦(そらひこ)の話をはじめた。
 ふたりは、しんけんにきいていた。
 なみは、おかあさんの話をした。
「そうか、空彦(そらひこ)は、海姫(うみひめ)と、
 高天原(たかまがはら)でくらしておるのか。」
 老人は、しばらくかんがえていたが、
「それでは、空彦(そらひこ)のかわりに、
 ふたりにてつだってもらおうか。」
 なみは、むじゃきにたずねた。
「なにを、てつだうの?」
「あたらしい国作りじゃ、たのしいぞ。」
「国作りってどんなことするの?」
「それは、こんどきたときに、おしえてあげよう。
 空彦(そらひこ)と、海姫(うみひめ)がしんぱいするから、
 きょうはもうかえりなさい。」
 うながされて、なぎと、なみは、宙船(そらふね)にのりこんだ。
 ふたりは、振り向いて、白いひげの老人に手をふった。
 老人は、優しく微笑みながらみつめていた。
 宙船(そらふね)は、
 すべるようにうごきだした。
 ゆっくりと雲の上をはなれ、
 雲の中をとおりぬけ、
 下にむかって、おりていった。
 なぎと、なみは、わくわくしていた。
 国作りって、なんだろう?
 新しい遊びをみつけたように、
 目をかがやかせていた。
 光も、風も、わくわくしながら、
 ふたりをみまもっている。
 宙船(そらふね)は、どんどんおりていく、
 下に、小さく高天原(たかまがはら)がみえてきた。
 宙船(そらふね)は、水面におりたつと、
 ゆっくり岸辺にむかった。
 海姫(うみひめ)はびっくり。
 宙船(そらふね)に、子どもたちがのっている。
 ふたりもびっくり。
 岸辺につくと、
 宙船(そらふね)からとびおり、
 母親にだきついた。
 そよ風が、ふたりをつつみこんでいた。
 淡い光がふたりをてらしていた。
「雲の上で、ひげのおじいちゃんにあったよ。」
 なぎがさけぶと、なみもさけぶ。
 いっぱいはなしたくてしかたない。
 海姫(うみひめ)は、おどろきながらも、
 うれしそうにふたりの話をきいていた。
 遠くから父親の空彦(そらひこ)が,
 岸辺をあるいてきた。
「どうして?」
 宙船(そらふね)をみつけ、おどろいている。
 なぎと、なみがかけよってだきついた。
「雲の上のおじいちゃんにあってきたよ。」
「宙船(そらふね)に、のったのか?」
「うん。」
「そうか、おじいちゃんは、げんきだったか?」
「うん。
 あたらしい国作りを、てつだってほしいって。
 また宙船(そらふね)にのって、くるようにいわれた。」
 空彦(そらひこ)は、びっくり。
「あたらしい国作り?」
 そのことばに、心にひびいた、
    
 その夜、空彦は、二人にあたらしいなまえをさずげた。
「あたらしい国作りには、
 新しいなまえがひつようだ。 
 なぎは『いざなぎ』
 なみは『いざなみ』
 これから、このあたらしいなまえで、
 あたらしい国作りをはじめなさい。」
 ふたりは、なまえをもらって、
 きゅうに大人になった気分。
 空彦(そらひこ)は、ふたりにきいた。
「いざなぎと、いざなみは、どんな国をつくりたい?」
 ふたりは、おたがいの目ををみあわせて、
「日の出がうつくしい『日(ひ)の国(くに)』」
「いつもあかるい『光(ひかり)の国(くに)』がいい。」
 空彦(そらひこ)と海姫(うみひめ)は、
「そうか、『日(ひ)の国(くに)』と、『光(ひかり)の国(くに)』、
 どちらも、『日出(ひい)ずる国(くに)』かな。」
 おかしそうに、いつまでもわらっていた。


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