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もうひとつの童話の世界12, はにわの『花子』1/3

はにわの『花子』

 タケルは、小学校の図工室で『はにわ』とにらめっこしていた。
  おかしいな?
  こいつぜったい動いたぞ。
 棚に飾られた、粘土細工の高さ二〇センチほどの『はにわ』。
 ずんぐりして、ゆうれいみたいにのっぺりした顔に、くりぬいた目と口が わらっている。
 そして、あげた両腕が、一瞬動いた。
 なんで?
「タケル、どうしたん?。」
 おくれてやって来たナギサが声をかけた。
 タケルは 振り返ると、
「ナギ、こいつ、おかしないか?」
「なにがおかしいの?
 たしかにへんな格好やね?」
「それもあるけど、こいつうごいたんや。」
「なんで、粘土細工やのにうごくわけないやん。
 あれ、汗かいてるよ、おもしろい。」
 ナギサが、手を伸ばしてさわろうとすると、
 とつぜん、はにわが叫んだ。
「さわるな!うごくんはおれの勝手やろ!」
「うわー!『はにわ』がしゃべった。」
「しゃべったら悪いか!だいたい、こいつとはなんや。
 おれには、『花子』というちゃんとした名前があるんやぞ。
 うそだと思ったら、おれの背中を見てみろ。
 ちゃんと書いてあるやろ。」
 えらいけんまくでおこっている。
 タケルが見ると、はにわの言ったとおり、背中には『花子』と竹ベラで書かれている。
「『花子』って、おまえ女の子か?」
 タケルがおどろくと、
「れっきとした男子だ!
『花子』のどこが悪い?」
 ますますむきになってしゃべってくる。
 ナギサはおかしそうに、
「はにわの『花子』が男の子。へんな名前。」
 すると、はにわの『花子』が、
「おまえだって ナギって変な名前やないか。」
 ナギサは一瞬むっとした。
「あたしの名前はナギサです、『花子』よりずっとましや。」
 と、ぷんぷん怒っている。
 タケルは、どっちもどっちやけどな、と思っているが、
「それより、おまえ、なんで話せるんや?
 おまえは、粘土細工の『はにわ』やろ?」
「おまえとちがう!『花子』や。
 どうしても聞きたいなら、話してやってもいいぞ。」
「聞きたいけど、なんでそんなにえらそうなんや?」
「おれはなあ、大和 花子先生が、生徒に見せるために作った、教材なんや。」
「大和 花子先生?」
「そうや、前にいた図工の先生や。」
「あーあ、それで背中に『花子』と書いてあるんか。」
 タケルもナギサも、やっと「花子』という名前の意味がわかった。
 はにわの『花子』は、きゅうにしんみりとはなしだした。
「昨日の放課後、女の先生二人が図工室にやってきてな、大和花子先生の話しをしてたんや。
 もうあんまり長くないというてた。」
「何が、長くないんや?」
「大和花子先生が、病院に入院したんやけど、医師からもう手術ができひんって言われたんや。
 だからもう長くないんや。」
 はにわの『花子』は悲しそうになみだぐんでいる。
「おれは、はにわやで。
 はにわは作ってくれた人のお墓に一緒に入るものなんや。
 そやから、先生が亡くなったら、先生のお墓にはいりたいんや。」
 ナギサは、はにわの『花子』の気持ちがやっとわかった。
「『花子』はやさしいんやね。
 さっきはからかってごめんね。
 でも、どうやって先生のところまでいくつもり?
 『花子』は先生の住所を知ってるん?」
「しらん。」
「じゃあ、どうするの?」
 『花子』は、黙っている。
 気持ちだけが先にたって、行く方法までは考えていなかった。
 タケルは見かねて、
「じゃあ、おれが連れていってやろうか?」
「つれていってくれるか。
 おまえ、ええやつやなあ。」
 はにわの『花子』はいっぺんにえがおになった。
 するとナギサも、
「あたしも一緒にいってあげる。
 でもどうやっていくの?
 先生の住所は知らんよ。」
 タケルは、うでをくんでかんがえてた。
 はにわの『花子』も、タケルといっしょにうでをくんでかんがえている。
「あんたら、兄弟みたいやね。」
 ナギサがわらってた。
             ーつづくー


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