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「初鳴き」(愚痴日記 第1日)

ほんと、嫌だ!
こんなはずじゃなかった!

やっとの思いで女子アナになった。
情報番組でグルメレポートしたり、バラエティ番組で、タレントさんたちと、楽しく進行したりするつもりでいた。
でも、言い渡されたのは、経済番組のサブキャスターだった。

今日は最初のオンエア。
スタッフルームで、番組で読む原稿を渡された。
新人アナウンサーが最初にオンエアに登場する、記念すべき「初鳴き」だ。

原稿のタイトルは「日銀総裁が交代」だった。

「物価の番人」とも言われる日本銀行の第32代総裁に、経済学者の植田和男氏が就任しました。前任の黒田東彦氏が続けてきた大規模な金融緩和政策を、どのように引き継いでゆくのかが、最大の注目点です。

さあ、下読み開始・・。
ところが「東彦」が読めない。
「とうひこ」?「あずまひこ」?
クビをかしげている私を見ていたのがM。
一緒に番組を進める先輩キャスターで、経済報道のエキスパートだという。
初対面の時、意地悪そうに見えたけど、実際に意地悪だった。

「読めないの?」とM。
「すみません・・・」と私。
「『はるひこ』だよ。10年間も日本の金融政策を引っ張ってきた総裁だよ。その名前を読めないなんて、呆れてものが言えないな。」
Mは冷たく言い放った。

知るわけないじゃん。わたし文学部卒だし、お金に困ったことないし、日銀なんて私の生活に何の関係もなかったからさ。

「もっとまともなヤツはいなかったの?」
Mは傍らにいた、番組のプロデューサーSに言った。
「経済音痴だけど、我慢してよ。アナウンス部長に掛け合ったんだけど、彼女しか出してくれなかったんだ」とS。

みんな、私を馬鹿にしてる。ホント、腹が立つ。

オンエアでは、原稿を噛まずに読めた。
でも、内容は全く分からなかった。
「大規模な金融緩和策」って何??
それがどうなるかなんて、まったく興味なし。
そんな心の内を見透かされたのか、番組中、Mは冷たい目線を浴びせ続けた。泣きそうになった。
私の「初鳴き」は、「初泣き」だった。

 





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