クリエーティブの力を信じています。

■日本が好き


今年は桜の開花が早くて、もう満開は過ぎてしまいましたね。
この季節になると、日本人でよかったなあと思います。

桜が美しいと思うのは、日本人特有の美意識。
四季がある日本。一瞬で散ってしまう桜に「もののあはれ」という、 日本人が古来から美しいと感じる感覚です。

私は、昔から大相撲が大好きで国技館に見に行ったりもします。
お互いの呼吸を合わせて始まるスポーツは相撲だけです。
他にも、所作や弓取りなど、日本の伝統文化や美しさが凝縮されていて、そこを気にしながら見ると、また別の見方ができて面白いんです。

日本人は「曖昧さ」だったり、「侘び寂び」「儚さ」といった 目に見えない余白を美しいと感じる人種です。

WBCは日本が優勝して、大いに盛り上がりましたが、 スポーツの時だけは「ナショナリズム」という強い言葉が薄れて、一体感が生まれます。
でも、普段「日本が好き!」っていうと、右寄りに思われたりして、なんとなく言いづらい雰囲気がありますよね。

日本が好きな理由は、日本人独特の感性や文化を素敵だと思っているからで、 私は、自分が日本人であることに誇りを持っています。

■クリエーティブが弱くなった?


ここからが本題です。

最近、広告会社の中でクリエーティブ(CMプランナーやコピーライター)に行きたいという人が減っているという話を聞きます。

私がこの業界に入った20年前は、広告会社のクリエーティブ部門は花形というイメージで、もともと私もCMプランナー志望でした。

なぜ、この20年でクリエーティブの人気が落ちてしまったのか。

様々な要素があると思いますが、私は単純に、
映像が誰でも作れる時代になったからだと思っています。

しかも、その映像がテレビだけじゃなく、デジタルで発信できるようになったことで、わざわざ高い制作費と媒体費を払わなくてもいい。

結果、10年くらい前からWEBムービーの制作が多くなり、クライアントのニーズも格段に上がりました。一種のブーム的な感じで、どんどんWEBムービーが増えていきました。

そして同じ時期から、広告会社を通さず、クライアントから直接プロダクションが受注する、いわゆる「クラ直」案件も増えていきます。
結果、クリエーティブの力がなくても映像はできるじゃんという風潮になりました。

確かに、映像をただ作るだけなら、制作プロダクションだけで完結します。
でも、その結果、同じような広告映像が氾濫して、映像を作ること自体が目的となっていないか?と思うこともありました。

やっぱりクリエーティブは「頭脳」なんです。

人の心に響かない映像をいくら作っても、自己満足で終わってしまい、広告効果としても意味がない。本当に心に刺さる企画や、映像のクオリティ・本物感が、逆に目立つようになるはず。

私は、もう一度、クリエーティブの時代が来るとずっと思っています。
そして、それは少しずつ現実になってきている気がします。
違いを出せるクリエーティブの方が徐々に重宝されていると感じているからです。

■調査の結果が全てなのか


もうひとつ、クリエーティブの話で避けられないのが、
ここ10年でブームになっている「事前CM調査」です。

オンエアする前に、何百人に見せてそのCMを調査する。
調査の結果を受けて、編集を修正したり、数字が悪いとオンエアしないこともあります。

クライアントの立場にたったら、高いお金をかけて作るCMなので、なるべく結果を出したいし、実際にそれで売上も上がっているから調査が増えているという事実があります。

調査は、単純にどう思ったか。社名認知があがったか。など感覚的な感想から、画面のどこを見ているか。笑顔がどのシーンで増えたか。という表情解析も合わせて行います。

調査の結果が悪ければ、クライアントから広告依頼が減るかもしれないので、 クリエーティブは、その調査を意識して企画をすることもありますし、 物理的な修正に四苦八苦することもあります。

プロダクション的にも、監督・カメラマンその他多くのスタッフが頑張って作り上げた映像を、調査の数字だけで、パズルのように編集を変えられたり、シーンが削除されてしまうことは、非常に心苦しく思います。

調査の結果で修正して、さらに再調査して、また修正して、、という流れは仕方ないと思いますが、効率や数字を絶対的な「正」として本当にいいのだろうか。

目に見えない余白や流れが、調査の結果に現れない、一番大切な視聴者の心に残るかどうかという部分で損してないかなと考えることがあります。

調査自体が悪だとは思いません。
広告が投資である以上、なにも問題ないと思います。

でも、クリエーティブの力を信じて、定数調査の結果では出てこない「なんかいいよね」という、左脳では説明できない感情や美意識を、もう少し大事にしてもいいんじゃないかと思っています。

そして、それがクリエーティブの大切な役割だとしら、
それは本当に大変な仕事だと思います。

■プロダクションにとってのクリエーティブ


本来、広告は視聴者にとって邪魔なものであり、 スキップしたいものです。
今の時代、さまざまな映像、そしてデジタルで言えば、いきなり挟まれる広告に日々触れている視聴者もバカじゃない。
広告然とした瞬間に飛ばされてしまう。という印象です。

個人的に、少しでもそれを解消するために必要なのは、クラフト力だと思っています。

「ザ・広告」が飛ばされてしまうなら、すこしでも「みてよかった」と思わせることが必要で、それは丁寧に、ちゃんと作られているものかどうか。
特に、嘘やフェイクには視聴者は敏感になっていると思います。
つまりクラフト力にかかっています。

こんな話があります。

今、広告制作費が減っていることと、合成の技術もあがってきたことで、ロケでタレントを撮影することが少なくなりました。スタジオでタレントを撮影して、背景を合成したCMが大半です。

コスト効率を考えると、雨が降った場合の天候予備日(タレントの拘束日数やスタンバイが増える)だったり、最悪の場合、雨が続くと撮影できないリスクがあるからです。

某アルコール飲料のお仕事で、今までスタジオグリーンバックでタレントを撮影して、背景を合成していたものから、リスクを負ってでもロケ撮影でやりましょうという判断をした仕事がありました。

パッと見、これがロケなのか合成なのかは視聴者もわからないし、そもそも、そんなこと気にしてない視聴者が99%です。

でも、ロケでやったCMを放映した結果、あきらかに数字がのびました。

合成って結局、嘘なんです。
ちゃんとリアルでその場で撮影したことは意味がある。
ちょっとした所作や、感情の機微は、リアルでやったものとは明らかに違いが生まれます。

目に見えないなにか。説明できないなにかが、売上に寄与したお話です。
伝わるものってある。

■広告はクリエーティブでジャンプする。


あなたが覚えているCMってなんですか?と聞いた時に、思い浮かぶCMは多分2つか3つくらい。 それくらい、みんな広告になんて興味がない。
でも、せっかくお金をかけて、広告を打つならその2つか3つの中に入れば最高だし、せめて覚えてもらいたい。

予算の多寡による部分も大きい(出向量だったり、媒体だったり)ですが、 それを超越できる、唯一お金のかからないことは、結局アイディア=クリエーティブです。(※企画費やフィーのことではありません。)

前会社の上司、古谷さんが若手プランナーに言っていた言葉。

「本当に面白い企画だったら、プロダクションもスタッフも、どんなにお金がなくてもやりたいと思う。だから、〇〇さんはそういう企画をただひたすら考えればいいんですよ」

これこそがプロダクションの矜持だと思います。
人の心を動かすことができる(可能性がある)広告業界という場所で、 これはいい!と作り手が思えば、きっと視聴者にも届く。

私たちプロダクションはその感覚に従うし、制作するプロクション・スタッフみんなが楽しい!と思ってくれるものが、昔の広告業界が元気だったころのマインドだと思います。

そんな純粋な思いが、フェイクまみれの映像を見てきた視聴者に、今こそ効くんです。たぶん笑。

■おわりに


自分が一番好きなCMをあげるとしたら、アイシティのCMです。

今から15年以上前のCM。今の時代にはオンエアできないCMですが笑
クリエーティブ力とクラフト力が完璧にマッチしたCMだと思っています。

全ての広告がこういう面白CMをやればいいということではありません。
クライアントの規模や立ち位置、いま必要なこと、伝えるべきこと。
状況によって全然違います。

クリエーティブを含めた広告会社の方々も、それを重々承知の上で、 クライアントの成長のために、企画を考えています。
自由に、印象に残りさえすればいいということでは決してない。

電通の澤本さんが、広告はそういったクライアントの条件・制限があるから面白いというお話をしていました。その条件の中でいかに最大限の効果をだせる企画を考えられるかどうか。

私たちプロダクションも、同じように予算やスケジュールといった条件があります。 そんな中で、いかにクラフト力でその企画を上げていけるか。

広告費がどんどん縮小し、制作費も下がっていっている今、 条件も厳しくなりますが、効率や数字に捉われすぎて、日本人がもつ本来の美意識=なんかいいなを蔑ろにはしたくないと思います。

クリエーティブの力は、まさに今必要とされていると思います。

今回も長文読んでいただき、ありがとうございました!!

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