ACC審査員をやってみて

※ACCの結果は明日11/2(水)16:45に発表になりますが、ネタバレ要素は一切ありません。もちろん、審査過程に関しての記述も一切ありません。

※すでに発表されているショートリストの中から、私が好きだと思ったCMを紹介することがメインで、受賞結果に基づいてのものでもありません。
私が推していたものと、結果がどうなったのかの比較を楽しんでもらえたらと思っています。

■カンヌってやべえ


私が初めてカンヌ広告祭に行ったのは、2010年。
正直、広告賞に興味があったわけではなく、会社のお金でフランスに行ける!仕事でもないしラッキー!としか思っていませんでした。
(もちろん名目上は視察です笑)

ところが、、蓋を開けてみると、完全に仕事でした苦笑
しかも、相当ヘビーな、、

日中は広告会社の方々への営業活動で、レストランの手配やアテンド。
夜は各プロダクションのパーティーに顔を出して、朝まで飲み会。
毎日二日酔いで、会場へ行ったのは初日のパスをもらった時と、最後の表彰式だけでした苦笑

私は、新しい広告会社の方々と知り合ったり、美味しい食事を楽しんだり、その営業活動が楽しかったので問題なかったのですが、単純に体力だけが付いていけませんでした。

そして、電通グループのプロダクション所属だった私は、他のプロダクションの営業活動の凄さに面食らったことを覚えています。「あ、もっと自分たちも必死にならないとダメだな」と肌で感じました。
(※10年以上前の話なので、今はそういった過剰な営業活動はないことを付記しておきます。)

特に、今でも記憶に残っているのは、そこで出会った同い年のクリエーティブの方と、最終日に部屋飲みで夜通し、広告について語ったこと。
いつかカンヌで広告賞とって、また一緒に来たいですね。と。
そしてお互い20代だった2人が、今年一緒にACCの審査員として参加できたことは本当に嬉しかったです。

■ACCとは


「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」は、テレビ・ラジオCMの質的向上を目的に、 1961年より開催されてきた広告賞です。(旧:ACC CM FESTIVAL/2017年より、審査領域を広げ、現名称に)
名実ともに、日本最大級のアワードとして広く認知されており、総務大臣賞/ACCグランプリは、 クリエイティブ業界で活躍する関係者の大きな目標となっています。(ACC HPより抜粋)

日本最大の広告賞の審査員に、唯一プロデューサーとして参加させて頂きました。

かねてから、「ACCの審査員にプロデューサーが1人もいないのはおかしい!!プロダクション軽視だ!」と密かに怒っていたのですが、審査委員長の細川さんが、去年から審査員にプロデューサーを入れてくださり、「よかった〜!」と思っていたら、まさか次の年に自分が審査員になるとは思ってもいませんでした。

■審査にあたって大切にしたこと


単純に自分の好き嫌いでの審査にならないように、
自分の中で明確に3つ、基準を設けました。

1. 企画力

企画が大好きな私にとって、まず私自身が思いつかないアイディアがあることは大前提として笑。

そのアイディアが、ただ面白いというだけじゃなく、ちゃんと商品(or 企業ブランド)に落ちているか。この企業にしか言えない企画になっているか。という部分を重視しました。

意外とプロデューサーが、この業界で一番多くの企画を見ているんじゃないかと思っています。僭越ながらも、企画の良し悪しに関して自分の基準で審査させて頂きました。

2. 演出力

監督の技術力に関わるのですが、特に重視したポイントは「尺」です。

その尺の中でいかに計算された演出になっているか。無駄なカットがないか。編集が気持ちいいか。音楽の使い方など、CMならではの「尺」という制限の中で、最大のパフォーマンスが発揮できているかを重視しました。
(Bカテゴリーは尺が無制限なので、そこは尺が適切かどうかをみました)

3. クラフト力

今回プロデューサーとして参加した自分にとって、このクラフト=プロダクションワークは、絶対に評価軸に入れようと思っていました。

自分が考えるクラフト力は、大きく分けて2つ。

ひとつは、カメラマンの画作りや美術の精度等、そのCMが丁寧に作られているか。 つまり、プロフェッショナルなスタッフの力を最大限に発揮できているかという点。

自分の好きな言葉に「魂は細部に宿る」という言葉があります。
元ネタはドイツの建築家ローエの言葉で、「神は細部に宿る」の言い換えですが、 この言葉の通り、緻密に計算された作品は、人々の心を打つと信じています。

もうひとつは、チャレンジングな企画をOKしたクライアントの理解と勇気、 クライアントとパートナーシップを築き、様々な交渉に尽力した広告会社の営業さん、 大規模な撮影や厳しいスケジュールの中で完成させた制作会社の努力(特に年間キャンペーン)など、目に見えない裏方の頑張りも、クラフト力として評価したいと思っていました。

なぜなら、そんなクラフト力がCM全体の熱量を上げる大切な要素であり、視聴者にもそれが伝わるんだなと、今まで何度も体感してきたからです。

ひとつのCMが完成するまでに、本当に多くの人たちが尽力しています。
ひとつの受賞で、関わる人たちが喜んでくれる=プロデューサーとしては恩返しができるので、その視点も広告が元気になると言う意味で大事だと思っています。


■自分の推しCM(ショートリストより)とその理由


そんな基準を持って、自分の推しCMを6つ紹介したいと思います。
※Aカテゴリーのみ/サムネイルは全部一緒ですがクリックで見れます。

・サントリー/ほろよい飲んで、なにしよう?

率直に、このCMは「やられた〜!」と思いました。
アニメCMかな?と思ったら、実写で完全に再現するというアイディア。
そして、トーンや音楽が「ほろよい」という商品にマッチしていたこと。

特に1枚絵のクオリティという点でクラフト力も素晴らしいと思いました。さらに客観的な視点で、特筆すべきことがあります。
それは、このCMは広告=邪魔者という概念を変えた作品だったこと。

若者がこのCMを見たくなる・見にいくCMだったという点は、広告と世の中を近づけた作品だったと思います。


・松屋フーズ/みんなの!マツベンサンバ

ただのマツケンサンバの替え歌と言ってしまえばそれまでなのですが笑
松屋の弁当をマツベンとネーミングして、マツケンとマツベンを限りなく近づけたことが企画の勝利だと思いました。
一瞬、原曲と同じように聞こえて、あれ?という違和感。

案外マツケンを使うとチープな仕上がりになりがち(笑)なところを、坂道のロケ地をうまく使って期待感を煽る演出。エキストラの演技や衣装も緻密に計算されているという点で、実は完成度の高いCMだと思っています。


・コインチェック

クライアントの言いたいことを詰め込むCMが増えてきている昨今、静止画1枚という、これ以上ないシンプルなやり方は、今までありそうでなかったと思います。しかも具体的な商品特性はなにひとつ言っていないという笑。

結果、オンエアでもかなり目立っていましたし、引き算のクリエイティブをやり切った感。 15秒という短尺で、しっかりオチをつける企画の面白さ。

有名タレントの顔に文字をのせる・大御所カメラマンの写真にいたずら書きをするなど、タブー視されてきたことを実現できたのは、チーム全体への信頼感・パートナーシップがないとできなかったことだと思います。


・日本マクドナルド/ちょいマックシリーズ


「スパイ!」「シー!」でスパイシーという商品に落とすというただの駄洒落CMと思いがちですが、それも含め、他の商品もすべてちゃんと商品に落としているという企画の秀逸さ。

そしてなによりも、木村拓哉さんのキャラクターを存分に生かしつつ、ゲストタレントの個性も尺の中で無駄なく掛け算している演出の素晴らしさ。

さらに、木村拓哉さん含め、複数のビックタレントで年間キャンペーンをこの本数、しかもロケでやりきったというプロダクションワークに対しても、最大級の賛辞を送りたいと思いました。


・大和ハウス工業/#2 萌芽/#3 秘密

住宅メーカーのCMなのに、家のことを一切語らない。家族を描けば必然的にその舞台となる家を描くことになる。企業広告ってこういうことだと思いました。

自分の稚拙な文章だとうまく伝えられないのですが、とにかく、このドラマの奥行きや空気感を演出した大森歩監督の力に感動しました。

おそらくノンタレ・長尺という点で、メインのCMよりもかなり予算が少なかったことが推測されます。そんな中でもこのクオリティを守ったスタッフたちの、このCMへの愛情がクオリティに表れていると思います。


・サントリー/人生には飲食店がいる

コロナ禍の中、このコピーだけで自分は泣きそうになりました。
ナレーションは新聞広告のボディコピーとして成立するものだと思うのですが、それを誰かが読んで、音楽が流れて、映像で見た時。このコピーの力が何倍も威力を増したと思います。まさに映像の力。

さらに、このCMは名作映画のお酒を飲むシーンを繋いでいますが、この許可をとる苦労は想像を絶するものだったと思います。

各所の権利やタレントの肖像など、クライアント・営業さん・プロダクションの頑張りによって実現できたCMです。

このコピーを最大限いかす映像がこれだったのだと思います。結果、誰も見たことないCMになっていると思います。


■審査員をやってみた感想


いろいろ思うことはあるのですが、個人的には反省と後悔です。
自分が思ったことをうまく言語化することができませんでした。
なので、今日ここで改めて文章にしたいと思いました。

いままでは、ACCに対して「なんでこれが選ばれてるの?」という疑問が常にあったのですが、今回審査員として参加したことで、府に落ちるところもたくさんありました。

「ACCの賞なんて何の意味もない」
そういう意見もたくさん聞きます。

確かに、広告は商品を売るため(もしくはブランド価値を高めるため)の手段でしかありません。ただ一方で、みんながずっと記憶に残っている広告もあります。広告から生まれた流行語大賞もたくさんあります。

広告は文化を作ってきた。

批判される方もいると思いますが、自分はその志に賛同します。
CM=強制視聴というメディアでしかできないこと。
つまり、それだけ作り手の責任が重いと考えることもできます。

つまらないCMが強制視聴で流れたら、そりゃ、広告は邪魔者になって、価値も下がっていきます。でも広告は、アイディアや作り手の努力次第で、その価値=効果は何倍にも跳ね上がります。

広告の可能性を信じて、その価値を向上させていきたい。
自分を育ててくれた広告業界が素敵な場所になっていてほしい。

そういう思いが、審査員のみなさん全員に感じられました。
立場は違えど、そこは共通認識だと。
私はその点が、とても嬉しく思いました。

だからこそ、私個人の意見としては、ACCが世の中一般の感覚とズレてはいけないと思っています。プロフェッショナルな技術を評価したり、ACCという歴史や賞の意義を大切にすることも大事ですが、まずは世の中の人たちにとって、印象に残ったかどうか。印象に残らなければ、「広く告げる」という広告としての原点が成立していないんじゃないか。

ACCが閉じた世界にならないように。
そのためにも、自分含め、多くの人間が関わる広告制作の人たちも称えてあげてこそ、視聴者へ開かれる広告賞になっていくのではと思います。

これはあくまで私個人の意見ですが、今回審査員として参加させて頂き、本当に勉強になりました。結果として、自分は不完全燃焼に終わりましたが、様々な思いと熱い議論を経て、2022年度のACC賞が決まりました。

いよいよ、明日発表ですが、ぜひみなさんに感想を聞きたいなと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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