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同窓会で面影をさがして、そして大人になっていく

 中学の時、カリスマ的にモテる人がいた。
その人は、かっこいいわけではなくて、頭もいいわけじゃなくて、運動は上の下くらい、でも、なぜかみんな彼のことが大好きだった。クラスをこえて、学年をこえて、生徒と先生という立場をこえて、みんなの心を惹きつけていた。今振り返ってもなぜなのかわからない。ただ、私の中学の思い出の中には彼がいた。

 授業中に大きい声で面白いことをいう。先生の質問に的確にズレた答えを言う。先生にいじられたら適切にボケる。でも絶対に失礼なことは言わない。汚いことも言わない。下ネタも適度なものに限り、反応に困るほどのことは言わない。

 クラスの不良を豪語する子たちとつるんでいた。その頂点にいたと言ってもいいと思う。その子たちが輪を乱したり、問題を起こしそうになると、「おい、なにやってんだよ。俺はもうできたぞ。おせーな。ワハハハハ」てな感じで、空気を乱さずにみんなを輪に戻す。自分ができない時は人一倍騒いで「お前うまいな!教えろ」「わかんねーーーー…誰か教えて!」とみんな巻き込んでいく。もちろん彼以外にもできない子はいたし、だからみんなで授業に真剣に取り組める空気を彼が率先して作ってくれていたように感じる…意図していなかったとしても。

中学生って、まじめに、真剣に、何かに取り組むって恥ずかしいときがある。変な自意識過剰だたり。そいいうのを、彼みたいな不良の代表格がキッパリ切り捨てて、一生懸命に取り組んでくれると、それが恥ずかしいことはなくなる。空気を変えてくれた。そいうところがみんなの心を惹きつけるところだったんだと思う。

 みんなが彼を見ていた。話し方や笑いかた、照れた時に髪をぐしゃぐしゃってするところ、ズボンの後ろに両手を突っ込んでダルそうに片足に重心をかけた立ち方とか。だから彼が好きな子もみんな知っていた(笑)

 その頃の私といえば、カーストの中の中。ものすごく一般人。そんな私も例にもれず彼の魅力に惹きつけられていた。同じ学年でよかった、同じ時間を過ごせてよかったと思うくらいに。いわゆる「好き」ではないんだけど、でも彼がいない学生生活は想像できないくらいに「好き」だった。卒業したくなかった。楽しい学生生活だった。卒業したらこのクラスと、彼とも、みんなバラバラになるなんて信じられないくらい。私にとってそれくらい大きな存在だった。

 北国だったけど、1月に成人式だった。大学の冬休みの最後、故郷に帰り成人式へ出席した。翌日からテストがあったけど、ギリギリまでみんなと一緒にいたくて、夜通しみんなで飲んだ。朝一の新幹線で帰ればテストには間に合うから。

 みんなで騒いだ。思い出話をして変わらない空気を感じながら、でも、みんなが大人になり、知らない世界で生きているのを感じながら。
 そろそろお開きになる頃に、彼が代表してまとめてくれた。みんなの中心で話している。面影をみんなが探しているのを感じた。
ーー照れながら、髪をぐしゃぐしゃってして、ズボンの後ろに両手を入れるいつものスタイル!

みんながほっとするのを感じた。変わっていなくてよかった。
自分はどんどん変わってしまう。多分彼も変わっている。
でも、共通の思い出があること、共通の憧れがあること、それが今も変わっていないこと、みんなが安堵した。そんな瞬間だった。

もうあれからだいぶ時間が経ってしまったけど、
いま、私はたくさんの思い出を抱えつつ、しっかりと大人を歩んでいる。

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