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社員戦隊ホウセキ V/第24話;五つの宝世機

前回


   四月四日の日曜日の正午過ぎ、港に三体の巨獣、カムゾン、ギルバス、ヅメガが出現した。これを受けて、十縷 = レッドは独断で出撃した。
 レッドを追って、時雨たち四人も現場へ急行するべく、白いキャンピングカーを駆らせていたが…。


 その道中、急に光里は閃いて、立ち上がって天井に左手を伸ばした。

「できるんだね……。だったら来て、ヒスイ!」

 この行動に、時雨たち三人は驚いたが、次の瞬間には更に驚かされることとなった。

「何だ、あれ!? まさか、神明も……!!」

 思わず運転手の和都が感嘆した。反応は薄いが時雨も驚いていたし、居室の伊禰も堪らず息を呑んだ。
 車のフロントグラス越しに彼らは見た。空に皹が入り、それを突き破って緑のイマージュエルが飛び出してくるのを。和都は堪らず車を止め、時雨と伊禰も眼前の光景に見入った。

 驚く彼らの前で、緑のイマージュエルは光を放ちながらその姿を変えていく。その形は、宝石で作られた巨大なF1カーとでも言うべきか。翡翠で作られた車体に、光沢の弱い銀のラインが入り、紫金石で作られたタイヤが四つ備えられている。実際のF1カーと異なるのは、車高がキャンピングカーより高く巨大である点と、運転席に相当する部分が紫金石の半球で覆われている点だ。
    緑のイマージュエルは新たな形を得て、地上に降りてきた。【ヒスイ】という宝世機の姿となって。

 この光景は眼前で見ていた時雨たち三人だけでなく、寿得神社の離れでリヨモのティアラ越しに見ていたリヨモと新杜も驚愕させた。

『凄い……。やりましたね、光里ちゃん。イマージュエルが宝世機になりましたよ』

 ブレスから聞こえるリヨモの棒読みな声は、彼女自身が発する鈴のような音に掻き消されそうになっていた。対して、光里の方は至って冷静だった。

「私はあの宝世機……ヒスイで現地まで行って、ピジョンブラッドの援護に当たろうと思いますが……。宜しいでしょうか?」

 光里は業務上の手順を踏み、まずは時雨に出撃の許可を申請した。問われた時雨は、すぐブレスを使ってその旨を新杜に伝える。その新杜は、時雨に言われる前から答を決めていた。

『勿論だ。グリーン、ヒスイで出撃してピジョンブラッドを援護しろ!』

 光里のブレスは、新杜の即答を伝えた。上司の了承を得ると、光里は速い。車内でグリーンに変身し、そのまま車外へと飛び出した。
 駆けて来るグリーンに、ヒスイは黒いコクピットから木漏れ日のような光を発し、それでグリーンを照らして内部に吸い込んだ。

 グリーンは、気付いたら壁も床も天井も一つの翡翠でできたような部屋の真ん中に立っていた。そして、まともに考えたら外は見えなそうだが、何故か先刻まで自分が乗っていたキャンピングカーがはっきりと確認できた。

「先に行ってきます。皆さんも、宝世機で追って来てください。強く念じればイマージュエルは応えてくれるので、大丈夫です」

 グリーンはブレスを通して仲間たちに伝えると、緑の透明な石の半球に両手を乗せた。正面に静置された、直方体の大理石の台に乗った半球に。
   するとヒスイは、アスファルトを切り裂きそうな勢いで車輪を高速回転させ、もの凄い加速度で発進した。キャンピングカーの時雨たちには、ヒスイは走り出すや瞬時に彼方へと走り去ったようにしか見えなかった。


 港での戦況は余り変わっていなかった。ピジョンブラッドは三体の巨獣に集られたままだ。その様子の撮影を続けるゲジョーを乗せた観覧車は、頂上から四十五度ほど下がった所に達していた。そろそろ、全景が見にくくなるその時だった。戦況が変化したのは。

「何だ、あれは!? 緑の光……!? まさか……」

 ゲジョーは見た。遠方から緑の光が地を駆けてきて、交戦するピジョンブラッドや巨獣の脇をすり抜けていったのを。
    噛みついていたヅメガは咄嗟の跳躍でそれを下にやり過ごしたが、蹴っていたカムゾンは反応できず、軸足を払われる形になって天を仰いだ。

「レッド。魚は自力で振り払って!!」

 緑の光が横を通過する寸前、記憶にある女性の声がレッドのブレスから聞こえてきた。
 その瞬間、地を駆る緑の光にヅメガとカムゾンはピジョンブラッドから離され、ピジョンブラッドに噛みついているのはギルバスのみとなった。
    レッドは宝世機を急速にバックさせながら、未だにギルバスが噛みついている梯子を一回転させた。激しく振り回されたギルバスは堪らず口を放し、そのまま遠心力で吹っ飛ばされた。

「助かった……。でも、今のは一体……」

 何が起きたのか、レッドはまだ理解できていなかった。そんな彼に説明するかのように、緑の光はスピンターンで派手に切り返して、ピジョンブラッドに寄ってきた。

「え……? 光里ちゃんの宝世機!? F1カーなのは、フォーミュラの影響!?」

 宝石でできた大きな緑のF1カーの全貌が視認できた時、レッドは思わずそう口走った。すると、すぐにグリーンはブレスから指摘してきた。

「ミッション中はグリーンで。あと、ミッション外では神明でお願いします」

 どうやら十縷に名前で呼ばれたくないらしく、レッドは萎えそうになった。そんな彼に、グリーンがすぐに檄を飛ばす。

「蛙と魚が来る! 亀も立った! 油断しないで!!」

 確かに、飛び跳ねるヅメガと空を泳ぐギルバスが迫っていた。その後方でカムゾンが、裏返った重い体を起こして立ち上がっている。
    これを見たら、レッドもすぐに意識を切り替える。巨獣たちを迎撃するべくレッドとグリーンは身構えたが、意外にもその必要は無かった。

「あれっ!? 次は、伊勢さんと祐徳先生と隊長さん!?」

 レッドとグリーンには、いきなり三つの巨大な宝石が空中に出現したように見えた。黄、ピンク、青の三つの宝石が。これらがイマージュエルであることは言うまでもない。
 巨獣たちの方からは、いきなり空に皹が入り、それを突き破って三つのイマージュエルが飛び出してきたように見えた。この出現は完全な不意討ちで、ヅメガとギルバスは飛び出してきたイマージュエルに激突して、吹っ飛ばされた。

「グッドタイミング! さすが、皆さん!!」

 ヒスイの中で、グリーンは黄色い声を上げた。その声はブレスを通じて、出現したイマージュエルの中に居るブルーたちに届く。

「大して待ってないなら良かった。お前に追いつけるのか、不安だったからな」

 まず返答したのは、左側に配した黄のイマージュエルの中に乗ったイエローだった。

「で、イマージュエルの召喚と転送はできました。次は宝世機への変形ですが……。当然、できますわよね。ブルー、イエロー」

 右側に配した紫のイマージュエルの中から、マゼンタが二人を鼓舞するように声を掛ける。
    ブルーとイエローはしっかりと頷いた。

「ああ。イマージュエルを宝世機に変形させ、カムゾン、ヅメガ、ギルバスに総攻撃を仕掛ける! 行くぞ!!」

 中央に配する青のイマージュエルの中で、ブルーは号令を掛けた。これを合図に、三人は脳裏に浮かんだ名前を叫ぶ。
    イエローは【トパーズ】、マゼンタは【ガーネット】、ブルーは【サファイア】と。彼らの声に呼応するように、三つのイマージュエルはそれぞれ眩い光を放ち、姿を変えていった。

   ブルーたちはイマージュエルに乗って駆けつけてきたが、そこに至った経緯は少し複雑だった。

    光里が緑のイマージュエルを召喚し、更に宝世機へと変形させたことは、時雨たちに少なからず衝撃を与えていた。
   そして衝撃の受け方は、人によって違いがあった。

「宝世機で追えとか簡単に言いやがったけど……。簡単にできるかよ……」

    キャンピングカーを再発進させた後、和都は愚痴っぽく呟いていた。彼には、十縷と光里が高みに行ってしまったように感じられて、仕方がなかった。
   そんな和都を励ますように、居室から伊禰が言った。

「そうですか? 強く念じればいいと、光里ちゃんは仰っていましたわよね。宝世機への変形は、意外に簡単なのではありませんか? 私には、そう思えますが」

    伊禰は物事を良い方向に捉えることができる。そして、これは根拠の無い楽観ではなく、一定の根拠がある。今回の場合、光里の言葉がその根拠になっていた。
   しかし和都には理解し難い話で、眉間に皺が寄る。
   そんな二人の中間に居るのが時雨だった。和都の表情を助手席から確認しつつ、彼は言った。

「イエロー、次の角を右折しろ。あの看板のコインパーキングに入るぞ」

   駐車の指示が入り、和都は驚く。対する時雨は表情を変えず、指示の理由を語った。

「これから宝世機への変形を実行する。俺たちもやるぞ」
    時雨は前を見据え、小さな声で力強くそう言った。和都は目を大きくして驚いていたが、伊禰は納得したようにニッコリ笑っていた。
   なお、時雨は伊禰に「移動中も色で呼べ」と、彼女が思わず「光里ちゃん」と言ったことを指摘することも忘れなかった。伊禰はむくれたような顔で、「ごめんなさーい」と返した。
―――――――――――――――――――――――――
    かくして、キャンピングカーはコインパーキングに停められた。
   時雨と和都は居室に移動し、伊禰と向かい合って立つ形になった。二人の顔を見上げつつ、伊禰は言った。

「私たちが求めれば、イマージュエルは求めた分だけの力を授けてくださいます。今までの戦いでも、そうでしたわよね? ですから、それを念じればいいだけです」

 自分が掴んだ核心めいたものを、伊禰は二人に語った。そう言われて過去の戦闘を振り返り、和都は納得できたようだ。

「確かにそうですね。イマージュエルは俺たちが思ったように、力をくれる。それを強く思えば、その分だけ力をくれるのか……」

    和都は思ったよりも素直だった。真っ直ぐと伊禰の方を見て、力強く言った。

「そうだ。そして、前回のレッドが思っていたこと。さっきのグリーンが思っていたこと。そして、今の俺たちが思っていること。それは同じ筈だ。だから、俺たちにもできる。そう言いたいんだろ?」
    時雨は伊禰と和都を交互に見ながら、そう言った。
   もう三人の心は一つだ。キャンピングカーの中、彼らは目を閉じて念じた。

(港に居る人たちを、何とか助けたい! ジュエランドと同じような悲劇を、絶対に繰り返させない! 誰も傷つけたくない!)

   その心の声がイマージュエルに届くのに、時間は長くかからなかった。

「来ましたわ! イマージュエルに願いが届きましたわよ!」

    伊禰がはしゃぐように指した車窓の向こうには、空を割って飛び出してくる三つの巨大な宝石がはっきりと見えた。
    これを確認した三人は、変身して車外に駆け出した。するとイエローには黄のイマージュエルから、マゼンタには紫のイマージュエルから、ブルーには青のイマージュエルから、それぞれ木漏れ日のような光が伸び、彼らを中へと吸い込む。
    それからイマージュエルは再び空を突き破り、彼らを目指す場所へと連れて行った。

   

 以上の経緯を経て、三人はイマージュエルで港に駆け付けた。そのイマージュエルは、光を放ちながら姿を変えていく。その光景を目の当たりにしてレッドとグリーンは感嘆する。

「おおっ! トパーズはショベルカーで、ガーネットはヘリコプター。サファイアはホバークラフト艇。どれも個性的だ!」

 それぞれの姿は、レッドが感嘆した通り。三つのイマージュエルはそれぞれの形を得て、ピジョンブラッドとヒスイの前衛となるような形で、三体の巨獣と対峙した。


次回へ続く!

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