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社員戦隊ホウセキ V/第15話;力の差

前回


 四月二日の金曜日の正午頃、スケイリーがショッピングモールに出現し、猛威を振るっていた。これを受けてピカピカ軍団こと対ニクシム特殊部隊は出動した。

 彼らは現場に着くと、何の訓練も受けていないレッド=十縷を車に残し、ブルーら四人だけでショッピングモールの建物に突入していった。

(悪いことが起きなきゃ良いけど…)

 一人で車内に残った十縷は、祈るような思いでブレスが投影する画像を見つめていた。


 ブルーたち四人がショッピングモールに突入して来ると、二階より上で吹き抜けを見下ろしていた者たちが騒ぎ始めた。

 その時スケイリーは、一階のロビーでぐったりした茶髪男の首を掴み持ち上げていた。そして「死んじまったか」と呟き、後方の噴水へと彼を放り捨てる。似たような服を着た金髪男が斃れ伏す噴水に。

「そこまでだ、ニクシムの壊猛ゾウオ! もう破壊活動は止めろ。要求に応じないなら、武力行使を強行する!」

 死体を弄ぶスケイリーに、ブルーが警告した。
 対するスケイリーに動じる様子は無く、放漫な動きで彼らの方を振り向く。勿論、スケイリーには彼らの警告に応じる気など無い。

「やっと来たか、地球のシャイン戦隊。壊猛ゾウオと言ったが、それは昔の名前だ」

 スケイリーは喋りながら骨貝のような武器を杖の先端に装着した。そして徐に、その杖の先端をブルーたちの方に向ける。

「ニクシム将軍・スケイリー。これが今の俺の名前だ!!」

 スケイリーは吼えた。するとその咆哮に呼応して、骨貝の殻は多数の突起を全て発射した。
    この攻撃を予測していた四人は、ブルーの指示で四方に散らばった。すると放たれた突起はそんな彼らを追って、不規則な軌跡を描きながら飛んでくる。その突起が自分に直撃しそうな所まで迫ると四人は振り返り、技の名前を叫びながらホウセキブレスを前方に翳した。

「ホウセキディフェンダー!」

 ブレスの宝石部分がそれぞれの光を放ち、空中にブリリアントカットのダイヤモンドのような、無色透明の像が投影される。突起はこの像に達すると、まるで対象物に当たったかのように爆発した。そのお蔭で、像の後方に居るブルーたちは無傷だった。

「次はこっちの番だよ!」

 やはり全ての突起を発射し終えたスケイリーの武器から、すぐに次の突起が生えることは無かった。段取りに従い、グリーンがその隙を突く。
    グリーンは短刀の形にしたホウセキアタッカーを右手で逆手に握って駆け出すと、一瞬でスケイリーの眼前まで迫った。そして、すかさず短刀を真横に薙ぎ、スケイリーの胴体に斬撃を繰り出す。対するスケイリーは、全く避けようとしない。かくして刃は帷子のような鱗の上を走り、火花を散らした。しかし…。

(傷もつかないとか、何こいつ!?)

 スケイリーの鱗は堅牢で、グリーンの斬撃を受けても無傷だった。大打撃を与えることは期待していなかったものの、ここまで戦果が上がらないのは予想外だった。

 しかしグリーンは驚きながらも、視界の隅に向かって来るマゼンタの姿を確認した。

(だけど、お姐さんの技ならノーダメは無いよね…?)

 そんな淡い期待を胸に、グリーンは身を翻して後方に移動。入れ替わる形でマゼンタがスケイリーの眼前に躍り出た。

(花英拳奥義・打法・日々にちにち!……いばら!)

 マゼンタは正拳突きを八発、高速でスケイリーの胴体に叩き込んだ。それから間髪入れず上から見て反時計回りに回転し、その勢いを乗せた右の前蹴りをスケイリーの胸に直撃させた。
    そう。今回もスケイリーは避けようともしなかったのだ。

(避けようともしないとは、舐めてくださいますわね。尤も、全く効いていないようですけど…)

 マゼンタの連撃を受けても、スケイリーは少し後退しただけで全く苦しむ様子を見せない。そして、嘲笑うように呟いた。

「緑の戦士は速ぇし、紫の戦士は良い所を殴りやがる。並みのゾウオなら、殺されるわな」

 この様子を見て、拳銃に変形したホウセキアタッカーを構えるイエローは思った。

(この調子だと、怯ませるのも無理かもな…)

 イエローの銃にはイマージュエルの力が多量に込められ、銃身が黄の光を放っている。もう攻撃準備は万端だった。

「イエロー、撃て。敢行するぞ」

 ホウセキアタッカーを刀の形にして構えるブルーが、イエローにそう告げた。ブルーの武器もまた、刃が青の光を放っている。こちらも準備万端だ。
 ブルーの指示に、イエローは頷いた。

「二人とも下がれ!」

 イエローは敵に接近しているグリーンとマゼンタに叫んだ。その声に応じて二人が二方向に散ると、彼は引き金を引いた。すると銃口から、その口径に不釣り合いに大きな黄の光球が発射される。光球は多量のイマージュエルの力が形を得たものだ。その光球をホウセキアタッカーから発射するこの技の名が、【ガンフィニッシュ】である。
 大きさ察すると、この光球の破壊力は非常に高そうだが、この攻撃すらスケイリーは避けようとせず、向かって来る光球を悠然と眺めていた。

(燐光ゾウオを仕留めた技だな。さて、どんなモンか?)

 かくしてスケイリーはガンフィニッシュの直撃を受けて爆煙に包まれた。その光景に二階より上の観衆たちが感嘆する。
    それと同時に、ブルーは光る刀を振り翳して走り出した。

「これで決める……!」

 ブルーが繰り出そうとしていた技は【ソードフィニッシュ】。多量のイマージュエルの力を刃に込め、斬撃の威力を増す技だ。
 ブルーは戦闘前にも言っていた通り、イエローの攻撃で損傷した箇所にこの斬撃を見舞おうと思っていた。煙の中に突入した彼は、強化された視力でスケイリーの姿を捉える。
 しかしその時、ブルーは驚愕させられた。

(ガンフィニッシュすら通じないのか!?)

 ブルーも、スケイリーが重傷を負っていることは期待していなかった。それでも、微細な傷は付くと思っていた。しかし、実際にはそんな傷すら付いていなかった。なまじ視力が優れているので、ブルーは相手の防御力の高さを見せつけられてしまった。

(だが、やれることはやる!)

 ブルーは怯まず突撃し、剣道の右胴打ちの要領でスケイリーの左脇腹に斬撃を繰り出した。煙に包まれるスケイリーは、相変わらず避ける素振りを見せない。
    かくして、ブルーの斬撃はスケイリーの腹を捉えた。しかし刃は甲高い音を立てただけで、スケイリーの腹を斬り裂くには至らなかった。

(ソードフィニッシュでも無理か!?)

 煙が晴れて、スケイリーの腹に刃を当てているが斬り裂くに至れないブルーの姿と、ただ立っているだけでブルーの刃を止めているスケイリーの姿が明らかになった。

「この程度か? ガッカリだな」

 スケイリーはそう呟くと、自分の腹で止めたブルーの刃に左の肘を振り下ろした。刃は側面を叩かれ、呆気なく折れてしまった。

 この様にブルーだけでなく、マゼンタら三人も息を呑んだ。

 スケイリーは刀を折ると、すかさず追撃。左の正拳突きをブルーの胸に叩き込んだ。ブルーの体は浮き上がり、大きく後方に吹っ飛ばされた。
 その様にマゼンタら三人、そして二階より上の観衆は悲鳴に似た叫び声を上げた。


 スケイリーとブルーたちの戦いは現場だけでなく、石の力を通じて遠隔地でも確認されていた。



 まず、地球から何光年も離れた小惑星の地下空洞には、ゲジョーがスマホで撮った映像が送られていた。その映像は、銅鏡に映し出されている。

「本当は赤の戦士の力を見たかったが…。まあ、これはこれで良いな」

 マダム・モンスターは満足そうに微笑んでいる。発言からも明らかだが、彼女はスケイリーの勝利を確信していた。

「赤の戦士、出て来い。このままでは仲間が全滅だぞ」

 マダムの隣で、ザイガが微かに鈴のような音を鳴らす。やはり彼は、赤の戦士の力量を知りたいようだった。


 JoJoタウンから小惑星に映像を届けるゲジョーは、スケイリーの強さに感嘆すると言うよりは、周囲で騒いでいる者たちに眉を顰めていた。

「お前ら、状況を理解しているのか? 何故はしゃげる?」

 ゲジョーが白い目を向ける先には、吹き抜けの下で繰り広げられる戦闘をスマホで撮っている者たちがいた。楽しそうな大声を上げている者たちが。


 寿得神社の離れでは、リヨモが外したティアラがちゃぶ台の上に置かれ、現地の様子が投影されている。
    リヨモは凍りついたように無言でそれを見ながら、ずっと雨のような音を響かせていた。その隣で、愛作社長は愕然としている。

(ザイガ…。俺の知っているお前が本当のお前なら、このゾウオを止めてくれ。頼む!)

 愛作社長は心の中で叫んだが、その声が何光年もの距離を超えて、ザイガの元に届くなど有り得ない。この辛い光景が、もう暫く続きそうだった。


 そして十縷は、キャンピングカーの中でブレスの映像を見て震撼していた。

「これがゾウオの力? 強過ぎだろ……」

 堅牢なスケイリーには、ブルーたちの攻撃が全く通じない。この現実が、出撃前に時雨や愛作が言っていたことに説得力を与える。

「俺たちがどんな苦戦しようと、助けようとなど思うな。残念だが、今のお前にその力は無い。犠牲者を増やすだけだ」

『危なくなったら、逃げ出しても良い。と言うか、お前だけでも生き延びてくれ』

  

 その言葉が脳裏を過った時、十縷は思った。

(隊長さんたち、こうなるかもって思いながら向かって行ったの? そんな思いで隊長さんたちが頑張ってるのに、僕は…)

 今、十縷の中で気持ちが大きく動こうとしていた。


次回へ続く!

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