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社員戦隊ホウセキV/第7話;イマージュエルの力

前回


 訳も解らず、戦場へと同行させられた十縷。現地に着くと、「外に出るな」と告げられた。
 そして先輩四人はホウセキブレスの力でリクルートスーツを模した煌びやかな戦闘スーツに身を包み、戦場へと飛び出して行った。


 車外に出た四人が校舎組と体育館組の二手に別れる直前に、ブルーが言った。

「ウラームの声が二つの校舎から聞こえる。渡り廊下から移動して、運動場から遠い方の校舎にも移動したらしい」

 ただ騒然としているだけにしか思えないが、ブルーは詳細に聞き分けができるらしい。
    この伝達を受けて、マゼンタはグリーンに運動場から遠い方の校舎に行くよう指示。自分は運動場に近い方の校舎へと向かっていった。そしてブルーとイエローは校舎を通り過ぎて、運動場を挟んで校舎と反対側にある体育館へと走っていった。

 車で待つ十縷には、この映像が音声付きでブレスに届けられる。それを視聴しながら、十縷は思った。

(ブルー…北野さんは耳が良いのか)

 これから始まる戦闘に十縷は恐怖心を抱いていたが、同時に特殊部隊の面々への興味も湧いていた。


 分散した後、現場に最も早く着いたのは、最も足の速いグリーン。

 悲鳴や咆哮の聞こえ方から対象は二階以上に居ると判断し、まずは階段を駆け上がった。そして二階の廊下に踊り出ると、すぐに三体のウラームを目撃した。
 窓ガラスを割って教室に入り込もうとしている者、壁際で腰を抜かす二人の生徒を追い詰めている者、そしてこちらに向かって逃げて来る数名の生徒を追いかけている者の三体を。
    それを見たグリーンは、すぐにベルトの右側のホルスターに収めた拳銃を手に取った。先端にバヨネットと思しき突起を付けた白い銃を。

「ホウセキアタッカー、ソードモード」

 グリーンが呟くと、彼女の手の中で銃は自ずと変形を始める。
 砲身が垂直に起き、続けてバヨネットが光りながらその長さを伸ばして、三日月状に沿った刃となる。拳銃はたちまち、中東風の短刀に姿を変えたのだ。

 短刀となった武器を逆手に持ち、すぐにグリーンは走り出す。常人には、「消えた」と思われる程の高速で。
    次の瞬間、グリーンは三教室分進んだ場所に居た。すると三体のウラームのうち、生徒を追いかけていたものと壁際に生徒を追い詰めていたものが、「フグッ!」と叫びながら泥状に溶け始めた。

「ホウセキアタッカー、ガンモード」

 二体のウラームを倒したグリーンは、すぐ次の標的を見据える。ホウセキアタッカーと呼ばれたその武器は彼女の声を受けて、ホルスターに収まっていた時と同じ拳銃の形に戻る。
    その銃を、グリーンはすかさず発砲。狙うは、更に教室を一つ分進んだ先に居る、割った窓から教室に入ろうとしているウラームだ。彼女が引き金を引くと、銃口から緑色に光る弾丸が高速で飛び出し、割った窓に半身を入れたウラームの腰に炸裂した。
    弾丸の当たった箇所は石のように割れ、ウラームは「フグッ!」と叫びながら天井を仰いで廊下側に倒れ込んだ。倒れたウラームにもう一発、グリーンは発砲した。二発目の弾丸は倒れたウラームの頭に炸裂した。撃たれたウラームは頭を砕かれ、動きを止めて泥のように溶け始めた。
    ウラームたちはもともと腐敗臭に似た臭いを放っているが、泥と化すとその臭いは更に強まる。廊下はたちまち、激しい異臭に包まれた。

 十縷がブレス越しに見た最初の戦闘の映像は、これだった。グリーンの早業に、彼は息を呑んだ。

(光里ちゃん、速い……。さすが日本記録保持者。それにしても、速過ぎるよね。イマージュエルの力とやらで、体力が強化されてるのか?)

 驚きながら行った十縷の分析は合っていた。彼らは想造力でイマージュエルから力を引き出し、その力を受信して己のものとしている。

 その力を受けたグリーンは、三角跳びで逃げる生徒を飛び越えて後方のウラームの背を斬り、着地と同時に床を蹴って駆け出し、壁際の生徒を襲おうとするウラームの脇腹をすれ違いざまに斬ったのだ。一瞬で。

(他の人たちも、同じくらい強いのか?)

 十縷は更なる興味を持ってブレスが投影する映像に食い入る。その映像は、その想像が正しいと証明するものだった。


 次に十縷が見たのは、体育館に突入したブルーの映像。

 彼もグリーンと同様に、ベルトの右側のホルスターから拳銃の形をしたホウセキアタッカーを取り出すと、すぐ剣の形に変形させた。
     しかしその形は短刀だったグリーンとは異なり、日本刀を思わせる反りと刃文の入った長い刃をしていた。

 その刀を手にブルーは体育館の玄関から、一階の重いドアを開けた。
    ドアを開けると、数体のウラームが鉈のような武器を手に、逃げ惑うバスケ部員とバレー部員を追い回していた。逃げ回る中、転んでしまった部員に一体のウラームが迫る。「シーアー」と嬉しそうな声を上げながら、鉈を振り上げて。
   だが、この個体が鉈を振り上げるより先に、ブルーは走り始めていた。そして滑り込みながら部員とウラームの間に刃を突き出し、これで振り下ろされた鉈を止めた。

「早く逃げろ!」

 ブルーは部員にそう言いながら止めた鉈を弾き上げてウラームの胴を空にすると、そこに斬撃を叩き込んだ。
    救われた部員が後方を振り返った時、既にウラームはブルーに斬られて、強烈な異臭を放ちながら溶け始めていた。その光景と刺激臭は、助けられた部員が発しようとした礼の言葉を止め、代わりに悲鳴を上げさせた。
    救ったブルーはそのことには余り頓着しておらず、残りのウラームを倒すべく刀を手に館内を走り回った。

 十縷はブルーの活躍を見ながら思った。

(ブルー隊長は光里ちゃん程のスピードは無いけど、充分強いな。さっき声を聞き分けしたし、目や耳が良いんだな。目と耳のお蔭で、相手の動きを先読みできるのか?)

 十縷は決して剣技に精通している訳ではないが、それでも覚ることができた。ブルーの剣技は、優れた感覚に支えられていると。
   更に知った。何の能力が強化されるかは、個人によって異なることを。十縷は更に他のメンバーの戦いも気になってきた。


   イエローは体育館の二階に向かい、卓球場で戦っている。和都が変身したこの戦士は、予想通り筋力が増強されていた。

「備品を壊すかもしれないが、緊急事態だから勘弁してくれ!」

 イエローは右手で卓球台を押し、これで二体のウラームを壁に押さえつけた。腹を卓球台に、背面を壁に挟まれたウラームは、身動きが取れない。相手の動きを封じると、イエローは左腰のホルスターからガンモードのホウセキアタッカーを左手で抜いた。そして、そのまま拘束した二体のウラームに発砲。至近距離から放たれた二発の黄に光る弾丸は、それぞれ二体のウラームの頭を砕き、悲鳴を上げる暇すら与えず泥と化させた。

「シーアー!!」

 卓球場にはもう一体ウラームが居た。その個体は鉈を振り翳して、背後からイエローに奇襲を敢行する。しかし叫びながら突っ込んでは、奇襲の甲斐など無い。

「ホウセキアタッカー、ソードモード」

 イエローの言葉を受けて、ホウセキアタッカーは変形。彼の剣は、中国の朴刀を思わせる幅広の片刃剣で、重量もかなりありそうだ。
    しかしイエローは左手一本でこれを難なく振るい、奇襲を敢行したウラームを振り向き様に迎撃。横に薙いだイエローの刃が、防御を忘れていたウラームの胴に炸裂し、そのまま上半身と下半身を泣き別れにした。両断されたウラームの体は力なく床に崩れた後に泥のように溶けて、嫌な体臭を周囲に気付かせ始めた。

 イエローの戦いっぷりもまた、十縷を感嘆させていた。

(やっぱり、この人は怪力だよね。で、左利きだからホルスターも左側なんだ。ところで、銃弾で壁に二つも穴開けちゃったよ。良いの?)

 しかしイエローの怪力は予想通り過ぎるので、申し訳ないがグリーンやブルーよりは感動が薄い。十縷は他の点がいろいろと気になっていた。


     マゼンタは理科室にて恐怖に震える理科部員に見守られる中、二体のウラームを左右に見据えていた。彼女を挟撃するべく、二体のウラームは鉈を振り翳して走り出す。

(右の方が少し速いようですわね。なら、こちらから対処しましょう)

 落ち着いた様子でマゼンタは左側のウラームに背を向け、右側のウラームの方に走り出す。そして距離を詰める前に右手を実験台に掛けて体を浮かせ、更に空中で胴を伸ばして、走ってくる右側のウラームに開脚した両足を突き出した。鉈の間合いにマゼンタを捉える前に、ウラームはこの足の間に駆け込んでしまい、両足で首を挟まれた。

花英拳かえいけん奥義おうぎ極法きょくほう蠅地獄はえじごく

 相手の首を両足で挟んだマゼンタは、足の動きの勢いも加えて腰を捻る。この動きでウラームは首を曲げられ、そのまま理科室の床に這わされた。

    かくしてマゼンタは鮮やかに一体目を沈めたが、すぐ二体目が迫ってくる。だが、これは織り込み済みだ。
    一体目を沈めたマゼンタはしゃがんでいたが、体は二体目の方を向いている。そして突進してくる相手の動きを見据え、適切な技を返すべく動く。

花英拳かえいけん奥義おうぎ打法だほう鳥兜とりかぶと

 マゼンタはしゃがんだ体勢から静かに立つと円を描くように足を進め、突進に乗せた相手の斬撃を左にやり過ごす。更に避けると同時に、マゼンタは左腕から肘撃ちを、すれ違った相手の盆の窪に叩き込んだ。
    回転運動に乗せたその一撃は強烈で、食らったウラームはすぐに両膝を折り、そのまま力なく前のめりに倒れた。二体のウラームは倒れてから数十秒後に、泥と化した。


 ウラームを倒した後、マゼンタはすぐ移動せず、この場にいる生徒たちに目を向ける。

「足を挫いていますわね。少しお待ちください」

 理科室の端で怯えていた理科部員に寄り添ったマゼンタは、その中の一人、男子生徒が足を傷めていることに気付いた。すると彼女は、ベルトのバックルからピンクゴールドの指環を取り出した。この指環は宝石を備えておらず、代わりに十字型の装飾が施されている。

「ヒーリング、装着」

 ヒーリングというこの指環をマゼンタは右手の薬指に装着した。指環を着けた彼女の右手はピンク色をした渦輪のような柔らかい光線を連発する。その光は怪我をした男子生徒に当たり、中に吸い込まれていく。
    すると、それまで痛みに歪んでいた彼の顔は次第に表情が晴れてきて、やがて彼は「痛くなくなった!」と歓喜の声を上げた。

 個人ごとに何が強化されるか、また武器などがどう変化するかは大きく異なる。今までの映像からもそれは読み取れたが、マゼンタはそれを最も強く印象付ける存在だった。

(武器、使わないの!? 拳法が得意だって社長が紹介してたけど、だからって相手は武器持ってるのに、素手って……。怪我人の治療もできるんだ! ベルトに武器はぶら下げてないけど、怪我を治す指環は持ってる……。さすが産業医!)

 マゼンタの活躍を見て、十縷は感激に近い驚きを覚えた。


   ブルーたち四人は強かった。学校を悲鳴で包んだウラームたちを次々と撃破し、現着から十五分後には全個体を撃破した。


次回へ続く!

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