見出し画像

社員戦隊ホウセキV/第8話;ニクシム

前回


 四月一日の木曜日の夕方、佐浦中学・高校に多数のドロドロ怪物ことウラームが出現し、放課後の生徒たちを襲撃した。しかし、駆け付けたピカピカ軍団こと対ニクシム特殊部隊によって、ウラームは全個体が撃破された。救われた生徒たちは、感激の声を上げていた。

 しかしそんな中、全く喜んでいない生徒が居た。

(少しは苦しみを得られたが、これでは損失の方が大きいか? ウラームの力では、地球のシャイン戦隊には到底及ばない)

 それは一人の女子生徒。彼女は、紺色のブレザーに灰色のプリーツスカートと、この学校の制服を着ており、髪型も黒い長髪を一つ縛りしている。この点だけ見れば至って普通だ。スカート丈が短いのも、他の女子生徒と同様。
    しかし、アメジストのような紫の宝石を備えた小さなピアスを両耳に堂々と付け、首からはエメラルドのような宝石が光る金のペンダントを下げている。この点は、明らかに他の生徒とは異なっていた。

    煌びやかな宝飾品を付けた彼女は戦闘が行われている時から校内を悠然と歩き回り、紺色のカバーを付けたスマホでグリーンたちとウラームたちの戦いを撮影していた。


 そして戦闘が終わった頃、彼女は校舎から出て正門の方に向かった。その時、構内に駐められたキャブコン型の白いキャンピングカーが、彼女の目に留まった。十縷が乗っている、キャンピングカーが。この車は搭載したイマージュエルの力で、中を見れないようになっている。
    しかし、彼女には中が見えるようだ。車窓を見た時、驚いたように目を見開いた。

「あのブレスレット……。まさか、赤のイマージュエルの戦士か!?」

 彼女は震えた声でそう言いながら、スマホを車の方に向けた。

    その気配を十縷も覚ったのか、ふと窓の方を見た。すると必然的に、こちらにスマホを向ける少女が目に入る。これを見ては流石に十縷も危機感を覚え、その感情を顔にも表した。

    少女にはその顔が見えたのか、すぐにスマホをブレザーのポケットにしまい、一目散に正門の外へ駆け出していった。

(撮られたけど、まあ大丈夫だよな? ところで、なかなか美少女だったな)

 相手を単なる女子高生と思っていたからか、十縷はこの件を大事と認識しなかった。だから、ブルーたちにもこの件を報告しなかった。


 それから程なくして、ブルーたちは車に戻ってきた。彼らは車内で変身を解くと、急いで車を出してこの場を後にした。そして彼らと入れ替わるように救急車やパトカーが学校に到着し、怪我をした生徒たちなどの対応に当たった。


 ブルーたち特殊部隊の戦いと十縷の乗っていたキャンピングカーをスマホで撮影していた少女は何者なのか?

 正門から校外に抜け出した彼女はその足で学校の最寄り駅付近に向かい、人通りの少ない裏通りに辿り着いた。

「地球のシャイン戦隊は追って来ないな。気付かれてはいないようだ」

 もう空が朱から濃紺に変わろうとしていたこの時間帯、彼女は周囲を見渡して人がいないことを確認し、ほっと胸を撫で下ろした。

    そして呟いた次の瞬間、彼女の姿は揺らぎ、一瞬で様変わりする。
    ピアスやペンダントはそのままだが、服装はブレザー制服から、ゴスロリ調の黒いドレスになった。黒地に白いフリルが特徴的で、スカート丈も一気に伸びて足は殆ど見えなくなった。
    服装以外にも変化はあり、髪型は一つ縛りからツインテールに。しかもその先は縦に巻かれ、光沢のある水色に染められた。そして、毛先と同じ色のリップとアイラインを差していた。

 随分と独特な井出達に変化すると、彼女はドアをノックするように拳で虚空を叩いた。すると拳を当てた空間に皹が入り、そのままガラスのように割れてしまった。
    かくして、彼女がギリギリ通れるくらいの穴がその場にできた。その穴の中には、七色の光が禍々しく渦巻いている。その穴を彼女は潜り、この場から姿を消した。

 因みにこの穴、彼女を後方から見ると確認できたが、前や左右から見たら確認できない。しかも彼女が潜ると穴は一瞬でその姿を消し、風景を元通りに戻す。一体、何が起きたのか、途轍もなく不可解だった。


 彼女が開けた穴は、長距離を渡航する為の通路。何光年もの隔たりをも、この穴で解消できる。

    彼女が向かったのは、地球どころから太陽系から遥か離れた、何処かの小惑星。その小惑星の地下にある空洞に、彼女は一瞬のうちに移動していた。空洞の岩壁には松明のような炎が燈されており、意外に暗くなかった。

「ゲジョーです。只今、戻りました」

 畏まった口調で彼女はそう言うと、頭を下げて跪いた。その先には、三つの人影と大きな岩がある。
    岩の高さは5 mはあろうか。岩の周囲は白い注連縄の結界で隔離されている。御神体のように祀られたこの岩をよく見ると、青黒い靄のような光が立ち上っていた。

「ご足労であった、ゲジョーよ。其方が無事に戻ってきて、何よりじゃ」

 ゲジョーと名乗った彼女が跪いた三つの人影のうち、真ん中の者がそう言った。この者はゲジョーと同じく外観は地球人と酷似しており、ドレスを着た五十代の女性という風貌だ。そのドレスは十六世紀のヨーロッパの王家を思わせるようなデザインだが、基調は黒で装飾が白。胸にはエメラルドのような宝石をあしらったブローチを、頭にはアメジストのような宝石をあしらった金色のティラアをそれぞれ付けていた。

「良くねえ! ウラームじゃシャイン戦隊には勝てねえ! 苦しみだって、大して集められてねえ! ゾウオを送り込むべきなんだよ! マダム・モンスターよぉ!!」

 ドレスの女性、マダム・モンスターの左側にいる人影が、怒りを露わにして喚く。その容貌は人型の異形で、甲殻類に似た顔などはウラームに似ているが、両肩と背に備えた濃紺の巻貝のような装具と、胸や腕を覆う黒い鱗のような帷子が、ウラームとは異なる雰囲気を放っていた。そして額には巻貝の眼柄に似た角が生えており、眉間に当たる角の中央には腹側に鱗を備えた巻貝の金細工が埋め込まれていた。

「落ち着け、スケイリー。いかんせん地球は遠すぎる。ゾウオを充分に働かせるだけの力を送り続けるのは、今のニクシム神には厳しい。だから、今は少しずつでも苦しみを集め、ニクシム神を成長させるのが優先だ」

 マダム・モンスターの右側にいる人影が、スケイリーを宥めようとする。抑揚が全く無い、音の羅列のような喋り方で。彼が喋るとスケイリーは黙り、対して彼は語り続ける。

「既にこちらは、燐光りんこうゾウオと殺刃さつじんゾウオを倒されている。ニクシム神の力が地球まで届き切らなかったことが原因だ。これ以上、ゾウオを無駄遣いする訳にはいかない」

 厳しい現状を語る彼の喋り方は、何処までも棒読みだった。その顔を見ると、表皮は黒耀石のように黒く硬そうで、頭部からは金糸のような糸が伸びている。纏う服は、下がズボン様になったキトンのような服。マ・カ・リヨモの服に似ている。そして、右手には黒耀石のような黒い石をあしらった金の腕輪を装着していた。ホウセキブレスに似た腕輪を。

 ところでこの三者とゲジョーの間には丸い銅鏡が置かれており、三者の方を向いた鏡には先程まで繰り広げられていた、特殊部隊とウラームたちとの戦いの光景が映し出されている。
   その映像が鏡に映される最中、三者の会話が一時的に途切れたところで、跪くゲジョーは報告を再開した。

「ところで将軍様方。地球のシャイン戦隊ですが、赤のイマージュエルの戦士が現れたと思われます。戦いには加わりませんでしたが、同行はしておりました」

 ゲジョーがそう言った時、鏡にはキャンピングカーの中に控える十縷が映し出された。車外からは見えない筈の十縷の姿が。左手には、赤い宝石を備えたホウセキブレスが輝いている。

   これを受けて、将軍と呼ばれた三名はそれぞれの反応を見せた。

「赤の戦士だと……。五人揃ったとなると、少し厄介かもな。早めに潰した方が、得策かもしれん」

 黒耀石の肌を持つ者の声には相変わらず感情は籠らないが、代わりに耳鳴りのような高い音が生じた。まるで、十縷の存在を警戒しているように。
    その音を聞いて、ドレスを着たマダム・モンスターも顔を強張らせる。

「ゲジョーよ、貴重な情報をありがとう。ところでザイガよ。一人増えたことが、そこまでの脅威になるのか?」

 ゲジョーの労を労いながら、マダム・モンスターは黒耀石の男に訊ねた。するとザイガと呼ばれた黒耀石の男は、相変わらず棒読みのような喋り方でこの問に答える。

「赤のイマージュエルは、五色のイマージュエルの中で最強の力を持ちます。五色のイマージュエルはもともと一つの石だったと言われており、全てが揃った時に真の力を発揮するとも言われております。このニクシム神も太古、五人のシャイン戦隊を倒せなかったという事実もありますし」

 語るザイガは、後方にそびえる岩を見上げていた。マダム・モンスターは神妙な面持ちでその話に聞き入り、スケイリーは「なら、今すぐ俺が行く!」と騒ぐ。その三人を前に、ゲジョーは跪いたまま動かない。

    小惑星の地下空洞は、独特な雰囲気で震撼していた。


 彼らこそが愛作とマ・カ・リヨモが語っていた【ニクシム】。地球に尖兵を送り込み、人々を苦しめている張本人だ。
    そして、御神体のように祀られた青黒い靄のような光を放つ岩が、彼らの言う【ニクシム神】。
    ニクシムの尖兵はこの岩から送られる力を受け、肉体を強化する。その機構は、イマージュエルの力を受けて戦うシャイン戦隊と大差は無い。

 そんな力を使って、彼らが他の星を襲う理由……。現時点では、それはまだはっきりとは判らなかった。


次回へ続く!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?