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社員戦隊ホウセキ V /第19話;伝説と漫画

前回


 謎の特殊部隊に選ばれた入社初日、そして特殊部隊の隊員として初変身を決めた入社二日目を経て入社してから三日目。早々に休日の土曜日を迎えた十縷は、社長の新杜愛作に呼ばれて寿得神社の古墳を訪れていた。今回はリヨモも一緒だ。
 リヨモは一般人に姿を見られた場合の対策か、頭と口許に白い布を巻いた上でサングラスを掛けていて、まるで月光仮面のようになっていた。

 寿得神社の古墳に来るのは二回目だが、ずらりと並んだ大きな宝石たちを、前とは違う心境で十縷は眺めていた。

「赤のイマージュエル、元の形に戻ってますね。だけど、透明なイマージュエルの破片は、ホウセキャノンのままですね。どうして違いがあるんですか?」

 昨日の戦いで十縷はこれらのイマージュエルを戦地に召喚し、変形させた。直後に十縷が念じたら、石たちはこのように元の場所に戻ってきたのだが……。
 一方は元の直方体に戻っているのに、他方は大砲の形で固定されたのが非常に気になった。その疑問を受け、彼の右側に居たリヨモが抑揚のない喋り方で説明した。

「赤のイマージュエルが変化した姿は宝世機と言いまして、イマージュエルが交信者の精神の干渉を受けて変化したものです。赤のイマージュエルには損傷が無く、意思が残っていますので、元の形と宝世機の形には可逆的に変形させることができます。しかしホウセキャノンに変化したイマージュエルの破片は、細かく砕け過ぎては意思が宿っていません。ですから、一度変形したらその形で固定しまったのです」

 リヨモは丁寧に説明してくれた。
 愛作もそれに続けて、ホウセキブレスやリヨモのティアラなども、細かく砕けて意思が宿らなくなったイマージュエルから作られたと教えてくれた。
 一昨日からだが、解ったような解らんような、ボンヤリした話である。しかし十縷には、解らないなりについて行く意思があった。

「そう言えば社長の指環って言うか、このサンストーンみたいな橙色のイマージュエルって、ニクシムを感知できるんですよね? どういう仕組みなんですか?」

 話題を逸らすような形だが、十縷は気になっていたことを質問した。すると愛作は、嬉しそうに頷いて親切に説明してくれる。

「この石には【憎心ぞうしんりょく】に反応して、それを拒絶する性質があるんだ。それを応用して、ニクシムを感知している。【憎心力】とはニクシムが使う力だ。【想造力】も【憎心力】も心から生まれる力だが、少し性質が違う。【憎心力】は怒りや憎しみ、そういう負の感情が源の力だ。余り良いものではない」

 二度の戦いを見た今の十縷にとって、愛作の説明は実感できる内容だった。

(ウラームやスケイリーに感じた、あのヤバい雰囲気。あれが【憎心力】か。確かに、社員戦隊の皆さんとは全然違うよな)

 これは相手の暴れっぷりから、十縷が抱いた感想だ。それを思い浮かべれば、想造力と憎心力の違いは何となく解らなくもなかった。
 しかし気になることもあった。

(あの女の子はどうだ? あの子もニクシムなんだよな? だけど、あの子にはあの雰囲気が全く無い)

 それはゲジョーのことである。一昨日と昨日、それぞれ一瞬だけ姿を見ただけだが、彼女にはウラームやスケイリーから感じた憎しみや怒りのようなものは感じなかった。ニクシムが憎心力を使うと言うなら、これはどうなのか?
 十縷は猛烈に引っ掛かったが、この質問は難しいと思い、敢えて二人には問わなかった。そして十縷が黙っていると、愛作が話題を変えてくれた。

「それはそうと順序が逆になったが、明日は初訓練だな。朝八時に神社の鳥居の前で、北野と待ち合わせだ。あいつ、割とシビアだから遅刻だけはするなよ」

 愛作は笑いながら、十縷の背を叩いた。十縷は苦笑いする。
 実は今日になって初めて説明されたのだが、毎週日曜日は朝の八時から特殊部隊の戦闘訓練がここ寿得神社で実施されている。
    土日とも実施するべきという意見もあるようだが、土曜日には短距離走部の練習と剣道部の稽古があり、光里と時雨の参加が困難なので、全員集合は日曜日だけになっているらしい。

「お前は武道の経験が無いから、初回は習うだけらしい。祐徳が打撃や防御の型、北野が剣や銃の使い方を教えてくれるんだと。まあ、頑張れよ」

 十縷が緊張していると思ったのか、愛作は再び十縷の背を叩いた。しかしそれは取り越し苦労に近く、十縷は初訓練を余り怖がってはおらず、むしろ想像してニヤけていた。

(祐徳先生が武術の基礎を教えてくれるんだぁ……。なんか、やる気出るなぁ……)

 熱田十縷という人物は、少々危険なのかもしれない。優しそうなお姐さんに体術を教わると聞き、変に喜んでいた。


 その後話題は、まだ十縷がジュエルメンを読んでいない、という方向に逸れた。
    その話の成り行きで十縷は寿得神社の離れに赴くことになった。離れの二階、リヨモの自室にはジュエルメンの原作漫画が全巻揃っているからだ。

 と言う訳で十縷は本殿の地下から出た後、月光仮面のようなリヨモと二人で離れを目指す。愛作は前回と同じく、「親と話してくる」と言って二人と別れた。

 離れに向かう道筋に、リヨモはいろいろと話してきた。と言っても、話題は古墳で話していたことの延長だ。

「赤のイマージュエルが変形した宝世機が消防車の形になったのは、ジュールさんの “ 人々を助けたい ” という気持ちが具現化したからでしょう」

 そう語るリヨモは、鈴が鳴るような音を立てていた。十縷はそんな彼女を微笑ましく見守りつつ、同時に “ ジュールさん ” と呼ばれたことが少し引っ掛かった。

(ジュールって、祐徳先生がリンゴパーティで付けようとしてたアダ名だよな。もう定着してるの? いや、伊勢さんは “ 熱田 ” って呼んでたから、違うか?)

 しかし十縷はそれを肉声にしなかった。と言うのも、リヨモが喋りまくるからだ。

「イマージュエルを宝世機にできたのは凄いことです。ワタクシが知っているジュエランドのシャイン戦隊にはできなかったので。今回のことが切欠で、光里ちゃんや皆さんもイマージュエルを宝世機に変えます。そして伝説の想造そうぞうしんも甦って、必ずニクシムの野望を打ち砕く筈です」

 リヨモの声に感情は籠らないが、饒舌な点と鈴のような音が激しく鳴っている点から、喜びの余り興奮していることは容易に察しがついた。それはそうと、彼女の話にはいろいろと気になる点がある。十縷はすかさず質問した。

「他の人もイマージュエルを宝世機に変えるって……。どうしてそう思うんですか? それと、想造神って何ですか?」

 問われたリヨモは、良い質問だと言わんばかりに即答した。

「他の方もイマージュエルを宝世機に変えると思うのは、元々五色のイマージュエルが一つだったからです。元は一つだったので五色のイマージュエルは互いに通じ合っていて、影響を及ぼし合います。それは、石と交信する者たちにも及びます」

 リヨモの話は長いので、ここから先を要約すると……。

 想造神とは、宝世機となった五つのイマージュエルが合体した巨人型ロボット的なものらしい。
    太古、初代のシャイン戦隊は五つに分かれる前のイマージュエルを想造神と呼ばれる形態に変化させ、【伝説のダークネストーン】と呼ばれる魔石を使ってジュエランド転覆を狙っていた者たちを打ち倒し、その【伝説のダークネストーン】を封印したらしい。

 そんな想造神が甦ると思う理由も、先に述べた通りイマージュエルを通じた者たちが影響を及ぼし合うからだと、リヨモは語っていた。

 因みに、ニクシムはその【伝説のダークネストーン】の封印を解き、悪用しているともリヨモは語った。

 ある程度は情報を頭に留めた十縷だが、相変わらず実感は湧かない。結局、「ふーん」と聞き流すような形になってしまった。


 そんな風に話しているうちに、二人は離れに到着した。離れに入ると、リヨモは「漫画を取ってくる」と言って、二階に駆け上がった。
     十縷は、一階の居間に陣取った。程なくして、リヨモはジュエルメンの漫画を全巻入れた紙袋を手に、階段を下りてきた。
 ついでに、もう扮装する必要がなくなったからか、リヨモは月光仮面のようなサングラスとターバンなどを外していた。

「小曽化先生の漫画は全て面白いのですが、その中でもジュエルメンは最高傑作です。必ず読むべきです」

 鈴のような音を鳴らすリヨモは、棒読みな喋り方で熱くジュエルメンを十縷に勧めてきた。ところで異星人が地球の漫画を激推しして来るとは、なんともシュールである。一先ず十縷は言われたまま、一巻からジュエルメンを読み進めた。そして思った。

(南総里見八犬伝っぽいな。僕らとは違って、不思議な国は出て来ないのか……)

 実はジュエルメンの設定を詳しくは知らなかった十縷。
「もしかしたら、今の自分たちの状況を予言したのような漫画なのか?」と変な期待をしていたが、そんなに似てはいなかった。

   魔を封じる力を持つと言われる伝説の五つの宝珠が、大昔に散り散りになった。
    現代、謎の妖怪軍団【イカリー】が出現した。その猛威から人々を守る為、主人公の巫女さんが伝説の宝珠を探す旅に出て、宝珠とそれに選ばれた戦士と出会い、戦隊を結成する。

  

  というのが、この漫画の大筋だった。なお、最初に巫女さんが出会った戦士はレッドで、この点も自分たちの状況とは異なった。と、いろいろ裏切られた十縷だが、別の印象も抱いていた。

(だけど、純粋に面白いな。それと小道具のデザイン、かなり洒落てるな。この漫画家さん、ジュエリーデザイナーとしてもやっていけそうだぞ)

 作品として、ジュエルメンの完成度はかなり高かった。気付けば十縷は、社長やリヨモに勧められたという事情は忘れて、純粋にこの漫画の世界にのめり込んでいた。


次回へ続く!

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