見出し画像

123年間大人も子どもも魅了し続ける激強コンテンツ!ロンドン観劇記録(3)『Wizard of Oz(オズの魔法使い)』

「Over the Rainbow(虹の彼方に)」を一度も耳にしたことのない方は、いないのではないでしょうか。この音楽史上でみても大ヒットした楽曲を冒頭に擁するミュージカルが『Wizard of Oz(オズの魔法使い)』です。

ジュディ・ガーランド主演のミュージカル映画は1939年に公開。アメリカン・フィルム・インスティチュートの選定する「歴代名画ベスト100」で第6位、アメリカのバラエティ誌が選定する「オールタイムベスト映画100」では第2位に選出されるなど、アメリカエンターテインメント史だけでなく、映画史に残る名作として愛され続けています。ちなみにアカデミー賞は作曲賞と歌曲賞、特別賞(ジュディ)を受賞しています。この年の作品賞は『風と共に去りぬ』でした。なお監督賞は『風と共に去りぬ』のフレミングが受賞していますが、『オズの魔法使い』でも彼が監督を務めています。

その影響力の強さもあり、すぐに舞台化されるだけでなく、派生作品を多く生んでいきます。まず挙げられるのが1975年ブロードウェイで上演されたミュージカル『The Wiz』です。舞台を都会にしてアフリカ系アメリカ文化を背景にした本作は、全役を黒人出演者が占める作品のパイオニアとなりました。映画化の際にはダイアナ・ロスやマイケル・ジャクソンなどが起用され、話題となりました。

その次は世界的ヒットとなり、現在もブロードウェイ(ニューヨーク)とウエストエンド(ロンドン)の二大劇場街でも上演が続く2003年の『Wicked』です。日本でも劇団四季が上演していたのでご存知の方も多いかと思います。この作品は『Wizard of Oz』に登場する二人の魔女エルファバとグリンダの友情を描いた作品です。なぜエルファバは「悪い魔女」という役目を負ったのかが描かれ、より『Wizard of Oz』の世界観の奥行きが増して感じられること間違いありません。

2011年にロンドンで『Wizard of Oz』がリバイバルされることになりました。その仕掛け人は、あのアンドリュー・ロイド=ウェバーです。今回は本作のリバイバル上演になりました。まず驚かされたのは映像が多用されている点です。舞台の枠を超えるほどの液晶が舞台セットとして組まれており、没入感がありました。

開演前の舞台の様子

次にオーケストレーション(音楽)のポップ化です。1939年の映画のサウンドを好む人は多いと思いますが、今日の子どもたちには馴染みにくいと考えられたと想像します。各曲がポップスナンバー、ダンスナンバー感が増し、より耳に残りやすくなったと感じました。

そして劇中最も印象に残ったのが、主人公ドロシーの愛犬トトです。トトはパペットとして出演しており、一人の俳優が演じ続けます。ひとつひとつの動きがまるで生きている本物の犬のように感じられるほど愛らしく、惹きつけられた方も多かったのではないでしょうか。

ドロシーたちが、西の魔女の退治を告げられたところで休憩へ。

今回舞台作品として『Wizard of Oz』を観た時に、映画では感じることができていなかったメッセージを得ることができました。

一つ目は劇中歌「Over the Rainbow」に込められた想いです。現実社会が生きづらいと感じ、子守唄で聞いたあの場所、問題がレモンドロップのように溶けていくような場所、青い鳥は飛んでいけるのに、なぜ私は行くことができないの?と歌っているのです。家族や所属するコミュニティでの生きづらさからの脱出、解放を望むこと。どの時代、どの国でも存在する、願いというよりは、叫びなのではないでしょうか。

Somewhere over the rainbow
Way up high
There's a land that I heard of
Once in a lullaby

Somewhere over the rainbow
Skies are blue
And the dreams that you dare to dream
Really do come true

Someday I'll wish upon a star
And wake up where the clouds are far behind me
Where troubles melt like lemon drops
Away above the chimney tops
That's where you'll find me

Somewhere over the rainbow
Bluebirds fly
Birds fly over the rainbow
Why then, oh, why can't I?

Somewhere over the rainbow
Bluebirds fly
Birds fly over the rainbow
Why then, oh, why can't I?

If happy little bluebirds fly
Beyond the rainbow
Why, oh why can't I?

© Emi Feist Catalog Inc.

二つ目は、登場人物の多様性です。多くの登場人物が欠点を抱えています。抱えているというよりは、抱えていると思っているという表現の方が近しいかもしれません。かかしは「考える脳」を持たず、ブリキの兵隊は「感じる心」を持たず、ライオンは「勇気」を持っていません。しかし行動するうちに備わっていく、備わっていることに気づいていきます。「考える脳」がないから、「感じる心」がないから、「勇気」がないから何もしない。これではドロシーの救出はできなかったでしょう。それぞれが自分の弱さ、他者の弱さを認識した上で、協力して問題を解決していく。この姿は、模範的といえるのではないでしょうか。

演出のNIkolai Fosterもこのように表現しています。

It's about a girl who goes on an adventure and meets a group of diverse friends who have all been ostracised from their commnities, and they realize that the thing they were looking for was in them all along.

Wizard of Oz Programme

またビデオデザイナーのDouglas O'connellもNIkolaiとの共通認識についてこのように語っています。

Nikolai and I agreed that it's just a story about a young woman finding herself, which is universal.

Wizard of Oz Programme

時代を超えて愛される作品にはUniversalなテーマが欠かせない。ということは間違いなさそうです。原作の『Wizard of Oz』の出版は、驚くべきことに1900年。アメリカ人作家ライマン・フランク・ボームが執筆した本作は瞬く間にベストセラーになったそうです。事実、1902年にはシカゴでミュージカルが初演されています。この舞台もヒットし、1911年までアメリカ国内を巡回したそうです。

親から子へ、そしてまたその子から子へと愛され続ける『Wizard of Oz』。なかなかロンドンで観劇することは叶わないかと思いますが、映画を久しぶりに見直してみるのも良いかもしれません。

この記事が参加している募集

おすすめミュージカル

おすすめ名作映画

おすすめミュージカル

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?