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現地直送!BBCプロムス2023鑑賞記(2)

ロンドンで開催されている、クラシック音楽の祭典BBC Promsを、ほぼ毎晩楽しんでおります、SHNSKです。アルルからニースに向けての南仏の旅の後、8月4日にイギリスに入国。以来、最高の雰囲気の中、音楽を楽しんでいます。

一公演ずつレビューしていきたいと思います。
ご質問や感想、クラシック音楽談義等、コメントいただけると嬉しいです。

8月6日(日)は、二本立て。まずは朝の11時からの公演に向かいました。
未完成のモーツァルトのハ短調ミサ曲を中心に、バッハの楽曲が脇を固めるプログラムです。

PROM 29 Mozart Mass in C

Lucy Crowe (Soprano)Nardus Williams(Soprano)
Jess Dandy(Contralto)
Benjamin Hulett(Tenor)Robert Davies(Baritone)

Orch : Dunedin Consort
Conductor : John Butt

J.S.Bach/Sinfonia in D major BWV 1045
J.S.Bach/Singet dem Herrn ein neues Lied BWV 225
C.P.E.Bach/Heilig ist Gott
W.A.Mozart/Mass in C minor K427(compl.Clemens Kemme)

John Butt率いるDunedin Consortは1995年に創設された、古楽演奏へのアプローチと、そのノウハウを新しい楽曲の委嘱と演奏を生かすことを目的とした楽団。グラモフォン賞を2度受賞し、グラミー賞にもノミネートされる実力派です。

未完のモーツァルト作品の前に演奏された三曲は、Clemens Kemmeが完成させるために参考とした楽曲たちという贅沢なプログラムでした。

1789年、ライプツィヒのトーマス教会を尋ねたモーツァルトは、合唱団から敬意の印としてSinget dem Herrn ein neues Lied BWV 225を贈られたそうです。その際モーツァルトはこういったそうです。

Now, there is something one can learn from!!

Prom29 PROGRAMME

またモーツァルトの時代には既に亡くなっていたJ.S.バッハ以上に、モーツァルトが敬愛していたのがC.P.E.バッハといわれています。

He is the father, we are the children.
Those of us who do anything of value have learnt it from him.

Prom29 PROGRAMME

そのC.P.E.バッハが書いたHeilig ist Gottは、オーケストラと合唱団が”Angels(天使)"と"People(人間)"の2つに分けられた壮大な楽曲です。これは、1776年に初演されたハンブルクの聖ミカエル教会の構造が関係しているようです。バルコニーに”Angels(天使)"、オルガンに近い場所に"People(人間)"を配置することで、空間音響をデザインしていた驚くべき作品なのです。今から250年前の楽曲とは思えません。

今回の演奏でも、”Angels(天使)"と"People(人間)"が舞台の前後に配置され、ビジュアルとしてもサウンドとしても斬新な印象を受けました。C.P.E.バッハ自身は"Swansong"と呼ぶほど、非常にこの楽曲を気に入っていたらしく、かつ野心に満ちた作品であったことが次の発言からもわかります。

I have put the greatest and boldest effort in it to have an exceptional impact
私はこの曲に並外れた影響を与えるために、最大かつ最も大胆な労力を注ぎ込んだ。

Prom29 PROGRAMME

ただし野心的なサウンドを求めた結果、今日は演奏頻度が高くない作品になってしまいました。その楽曲を実力派の演奏で聴くことのできる貴重な機会になりました。

モーツァルトの創作の海を旅し、遂にMass in C minor K427へ。
フリーの作曲家として、教会音楽を書くことを強いられていなかったモーツァルトが、Massのような教会のための音楽を、なぜ書いたのか、いまだに謎に包まれています。通説では病気がちだった(のちの)妻の回復に対して感謝するためではないか、と言われています。そのため楽曲に込められているのは、モーツァルトの個人的な神への感謝と考えて間違いではなさそうです。その語り手の心が感じられるからこそ、親近感を得られるのかもしれません。

今回の演奏では、どこまでも届きそうなLucy Croweの歌声が素晴らしく、至福の朝となりました。

SHNSK

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