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今のままで大丈夫だと思っていませんか?医者余りと医師の選択肢

39歳で診療所を開設後、湘南の地で病院、介護老人保健施設、介護付有料老人ホーム、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所を展開する篠原先生に、これからの医師のキャリアについて伺いました。医師としてのセカンドキャリアをお考えの方、すべての若手医師に読んでいただきたいインタビューです。ぜひご覧ください!



まずは若手医師のと接点について教えてください。


神奈川県医師会理事として勤務医、女性医師支援、男女共同参画、地域包括ケアシステム、 介護保険、在宅医療トレーニングセンター、高齢者救急、 ACP、認知症施策を担当しました。同時に県内4大学の「医学生、研修医をサポートするための会」開催するなど、長きにわたり医師のキャリア形成においてのサポートを続けています。

また、クローバーホスピタルでは昭和大学4病院及び藤沢市民病院から地域医療研修として初期研修医を受け入れています。実は今日の話も研修医へのオリエンテーションでよく話していることなんです。

地域医療研修の終わりには食事をしながら研修医と今後のキャリアについて語るのが私の楽しみでもあります。勧誘などを抜きにして第三者の立場で教えてくれる人も少ないでしょうから、喜んでもらえていると思います。

篠原先生は「やりたい医療」ではなく「求められる医療」の提供を時代に合わせて続けてこられました。これはキャリア形成にも当てはまるのでしょうか。


それこそが「医者不足から医者余り」なんです。”高齢者の急増”と”現役世代の急減”は2大キーワードです。2040年に向けて、従来の病床を基準とした医療提供体制から在宅医療との連携・協力に大きく舵を切ります。それには介護保険制度への理解も必要となります。

日本は他の先進国と比較しても医師数は決して少なくありません。しかし、実際には医師の確保に苦しむ医療現場が多くある、これは地域と診療科目による偏在を意味しています。首都圏・大阪圏では開業医過多になっていますから、これがまた病棟の勤務医不足に拍車をかけているのです。

毎年約9000人が医師国家試験に合格している一方で退職医師数は6000人ですから、医学部定員が削減されるとはいえ、2038年には医者が余ると言われています。

地域による偏在は大学医学部の地域枠だけでは補うことが難しいと言われていますが、多角的な視点での取り組みが必要なのでしょうか。


人口10万人あたりの医師数が少ない都道府県は埼玉県、茨城県、新潟県がワーストになっていますが、埼玉県については都内へのアクセスしやすいという事情もあるでしょう。国民皆保険制度の中で患者が自由に病院・診療所を選ぶことが出来るフリーアクセスが日本の医療保険制度の特徴で、今もなお大学病院等の大病院志向が残っていることも大きな理由といえます。

2004年に新医師臨床研修制度が制定され、大学病院以外を選択する研修医が増加したことも都市部への偏在に繋がったと言われています。

一方で労働環境や子供の教育環境などにより若手医師が地方を敬遠するのも理解できるので、医師確保対策について、都道府県が主体的・実効的に対策を行うことができる体制を整えることが必要です。同時に医師の養成段階における地域定着策の充実や、地域での外来医療機能の偏在等を是正する仕組みも必要です。

4月からは働き方改革もいよいよ始まりますが、診療科による偏在についてはいかがでしょうか。


我々の時代と違い、いまは”3ない科”がん・当直・救急がない診療科に進む傾向があります。皮膚科や眼科、精神科では医師が増加傾向です。
外科、救急科では医師不足が顕著で、働き方改革への対応も大変厳しい状況にあります。

偏在対策としては”診療科の保険医定数制”や”開業規制”、”臓器別専門医抑制”が考えられますが、職業選択の自由もありますので、大きな障壁となります。

医師会の活動の中で女性医師の支援も行ってきましたが、女性医師の診療科偏在はどのような状況なのでしょうか。


産婦人科や小児科、皮膚科、麻酔科に女性医師が多い状況です。近年は外科系志望の女性医師も増えているようですが、男性医師の減少を補うまでには至っていません。

いまは医学部入学者、医師国家試験合格者における女性の割合が4割を超える時代です。なかには5割を超える大学もあるくらいですから、妊娠・出産・育児を経て医師が働き続けることのできない医療現場には根本的な働き方改革が必要です。

働き方に対する若手医師の意識も変わってきています。医者はあくまでもジョブでありQOLを重視する傾向もあるようですが…


結局は「何のために働くのか」ということだと思います。ひとつは”やりがい”です。患者さんの命を救いたい、医療発展の為に研究をしたい等、様々な想いを持って医師になられていると思います。
ただ、家族や報酬、生活の質を求めることも当然のですから、バランスをみて、若手医師には大いに悩んで欲しいと思います。

医師にはターニングポイントがふたつあります。ひとつめは卒後10年目。プログラムの中で転勤も多いでしょうから、専門医を取得後はどこかで落ち着いて仕事をしたいと思う時期です。
ふたつめは、その次の10年間、つまり結婚し子育てが始まると家族の幸せを願いキャリアを考える医師が多いものです。
どこで働くのか、子供の教育環境はどうか。勤務環境は家族とのかかわり方に直結しますから、ここでも”働き方”が問われます。

ターニングポイントでのキャリア選択にあたり、今後のトレンドなど見通しはいかがでしょうか


まず厳然たる事実として、今後、病院の機能分化が進むと、専門医が専門医として働ける場所は、高度急性期に限られます。つまり、専門医であってもある程度の総合診療的対応は必要となるのです。高齢者の複雑な身体変化、認知症には単科対応は困難ですから包括的な診療スキルが求められます。
 
救急搬送においても65才以上の中等症の割合が多く、肺炎や誤嚥性肺炎、脱水症、慢性心不全増悪、尿路感染症、脊椎圧迫骨折などに対応しなければなりません。確実に総合診療医のニーズは拡大しているのです。

医師のキャリアは非臨床を含めると非常に多くの選択肢があります。思いを貫く方もいれば、ライフステージの合わせた働き方をされる方もいると思います。ただ選択肢を狭めない為にも、総合診療の視点を忘れないでいただければと思います。



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