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ダブルスタンダードの世界に生まれて《Club with Sの日 第8回レポ》

Club with Sを立ち上げてすぐの頃。
まだ一度もミーティングを開催していなかった時期。
運営メンバーのエツとふたりでLINE通話をしていた。

ピカル「Club with Sの日は毎回テーマを決めて、それについてノンバイナリーの視点から語り合いたいんだよね」
エツ「うんうん」
ピカル「当事者同士だからこそ話せることもたくさんあると思うし。最初はコミュニティに慣れてもらうためにも、分かりやすくポップな感じで。ヘアスタイルとかファッションとか」
エツ「あと、メイクとか」

……!!!!!

この衝撃が伝わるだろうか。
エツはシスジェンダーの男性である。
そんな彼からサラッと“メイク”という単語が飛び出した。
男性だけではなく、ノンバイナリー当事者でもメイクをするかどうかは人それぞれ。
だからこそ、迷っていた。
ヘアスタイルやファッションのような身近なテーマと違って、扱いにくいジャンルなのではないか、と。
でも、やろう! と思えた。
エツの一言があまりに自然だったから。
価値観や常識は日々変化していて、ジェンダーに関係なく誰でもコスメに手を出せる時代。
男性だから、あるいは、ノンバイナリーだから、と避けるのではなく、今こそフラットな立ち位置で考えてみたくなった。

この感激が伝わるだろうか。
男性がメイクについて話す瞬間に出会え、しかも相手が自分の親友だったなら。
こんなに嬉しいことはない。
その後、エツとは好きなコスメブランドの話で盛り上がったり、それぞれのメイク術を教え合ったりした。
人生で初めて男性とお互いにメイクの話を共有できている、という高揚感。
Club with Sのメイク特集、クライマックスはこの時点ですでに起きていたのかもしれない。

8月11日夜。
Club with Sの日。
若者にとってかけがえのない夏の夜の一時間を、Club with Sに捧げてくれた参加メンバーの方、本当にありがとう。

「メイク特集」を掲げたけど、普段メイクをしない人、あるいは未経験の人もいることを想定して、“メイク”というものに対してどのようなイメージ、考えをもっているのか、自由に語ってもらうことにした。
できるだけ枠は取り除きたいし、ノンバイナリーの人を誰も排除したくない。
Club with Sは自由と尊重を大切にしている。
そして、その結果、おもしろい方向に話が広がったりする。
今回もそう。

ジェンダー・ニュートラルなコスメやメイク術が話題の中心になるかと思いきや、出てくる出てくるメイクアップに関する疑問の数々。
しかもそれがちょうどユース世代ならではのものばかりで、共感しかない。

例えば。

「高校ではメイク禁止です。学校は勉強をする場です」
→これはわかる。
メイクに興味がある子は休日や学校以外の場で自己表現することになるね。

しかし、卒業して社会に出た途端
「勤務中はメイク必須です。メイクは社会人としてのマナーです」
→わからん!!
禁止されていたことが突然義務になるのもわからんし、メイクのやり方もわからん(笑)
肌が弱い人や体質で化粧品が合わない人も無理してやらなきゃいけないの?

これもそう。

「女性はメイクをしましょう。ただし、ナチュラルメイクにかぎります」
→これはわかる。
礼儀とか印象を良くするためにメイクを用いるのは理解できる。
派手なバージョンはハロウィンやパーティーで挑戦しよう。

しかし、相手が男性になった途端
「メイクは男性がするものではありません。化粧をした姿で接客はさせられません」
→わからん!!
なんで男性だと規則が真逆になる!?
メイクって可愛らしさの表現だけじゃなくて、顔色を良く見せたり表情を明るくする効果もあるんだよ。
あと、ノンバイナリーはどうすればいい?(笑)

派生して、校則の話にも。

「髪を染めるのは禁止です。みなさん、地毛のまま、黒髪で登校しましょう」
→これはわかる。
メイクの時と同じ理由で。

しかし、地毛がちょっとでも明るい色になった途端
「地毛証明が必要です。それが無理なら黒く染めて来てください」
→わからん!!
染めるのは禁止だけど黒く染めるのはアリ!?
地毛証明を求めること自体が人権侵害だし、仮に地毛の色を許可されても周りからの偏見が付いてくる。
それも全部、黒髪を基準にした制度のせいだ。

Club with Sはダブルスタンダードの大喜利コーナーじゃないんだぞ!!(笑)

僕らはダブルスタンダードに満ちた社会を生きている。
昨日、メイクをして遊んでいた男子が周りの同級生にからかわれたり、親から止められたりしたかと思えば。
今日、ジェンダー・ニュートラルなコスメブランドが誕生し、男性モデルがアンバサダーに起用されたりする。
明日、かつて隠れてメイクをしていた彼は自由に個性を発揮できるようになり、そのユニークな表現をたくさんの人に称賛されるかもしれない。
基準は今この瞬間も確実に変化している。

僕らはダブルスタンダードに満ちた社会をどこか遠くから見つめている。
性別によって異なる校則、社内規定、制度、暗黙の了解。
それらはたいてい、“男・女”で分けられている。
“ノンバイナリー”は存在しない。
ことになっている。
自分のルールがない、のではなく、自分のジェンダーがない、ことがルールになっている。
ダブルスタンダードから取りこぼされた僕らは、何を指針にすればいい?

男女平等は大切だ、と考える人のどれだけがノンバイナリーを知っている?
クォータ制を意識する人のどれだけがノンバイナリーを考慮している?
性別欄の“その他”で片付けられた僕らに、Club with S以外の居場所はある?

ただ、守りたい、と思った。
ノンバイナリーというジェンダー・アイデンティティ、彼らのジェンダー表現、感情の機微、マイノリティゆえの他者を尊重し相手の立場に立てる優しさまでも。
ただ、守りたい、と思った。
ルールを設定するなら、僕らが僕らのままでいられるためのルールを。
Club with Sは掲げていきたい。

最後に。

《Club with Sの日 第8回》の数日前、小田急線車内で刺傷事件が発生した。
この事件は女性を狙った犯行であり、フェミサイドである。
「フェミサイド」という言葉や事件について耳にする機会はあまりなく、今回のニュースで初めて知った人も多いのではないかと思う。(自分もその一人だ。)
大きく取り上げられたニュースだったため、本事件に関連した記事や投稿に触れて少なからず当事者意識を持ち、考え込んでいるノンバイナリーの人がいるはず。
そう思い、Club with Sとしての意見を発信した。

ミーティングでは毎回テーマを設定しているけど、テーマは導入に過ぎず、それ以外は話してはいけないということではない。
タイムリーな話をどんどん持ち込んでほしいし、そのために週一回の頻度で開催している。
Club with Sは、今感じている複雑な想いを、綺麗にまとめたり、ベールに包んだり、あるいはなかったことにして片付けなくて済むように、生の感情をそのまま共有できる場でありたい。
いつでも相談を待っています。



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