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#50 剣道するということは道具を使うこと 〜生地胴のススメ

◼️生地胴とともに30年

私は「生地胴」という剣道具のオーナーズ倶楽部である「生地胴倶楽部®️」の管理人を務めています。
当倶楽部は2015年に立ち上げ、8年が経ちました。
そして私自身、10代でまだ三段だった頃から今日まで30年近く生地胴を使い続けてきました。

生地胴は、もともと「稽古で使い倒すこと」を前提に、コストがかからないように表面を漆で塗ることをせず、天然の素材そのままに作り上げられたものです。
しかし、手軽な化学製品の胴が出回ったことをひとつの機会にわざわざ生地胴を選ぶ必要性がなくなったことなど、さまざまな状況の変化のなかで一度絶滅寸前まで追い込まれました。
それが今は、市民権を取り戻す以上の人気を得るようになりました。
手前味噌ではありますが、生地胴倶楽部の影響は多少たりとも「ある」と思います。
 
生地胴の注目のされ方自体は、時間の流れとともに変容してきました。
しかしそれでも「生地胴はもともとは稽古用の道具」であるという事実は変わることなく、この先ますますその性質が良い方に作用してもらいたいと思っています。
つまり、生地胴はもっと気軽に手を伸ばし、使われる道具であって欲しいと願っているところです。

生地胴がメジャーになり何かしら一目置かれる存在になることが、再び手をつけにくいものになってしまうとなれば、それはとても残念なことです。

◼️この30年、生地胴がどう見られてきたのか

私は今日まで30年近く、生地胴を愛用し続けてきました。
そして30年の間、いろいろな人が「生地胴とはこういうもの」と発信されているものを見聞きしてきました。

「生地胴は稽古用。何も塗っていない=化粧をしていないものなのだから、出稽古や試合で使うには相応しくない」
もともとの生地胴のあり方に鑑みれば、そういう考えがあることは不自然ではないでしょう。

しかし、やがては「せめて拭き漆を塗ればOK」という発信に変わり「生地胴の中でも加工によってランクをつけてみたり」最近では「出稽古や試合で使うのが望ましい」という発信までされているそうです…

(私は最初から拭き漆がかかっていようがなかろうが、出稽古や試合で使っても良いものという見解です)

これらの情報を得た方々から、私のところに最近「何を信じたら良いですか?生地胴はどういうときに使うものなのでしょうか?」という類の質問がたびたび寄せられるようになりました。

私は「剣道具には正解はない」と思っています。
「Aは最高。Bはダメ」という人がいれば「Aは間違っている。Bこそが本物」という人もいます。
どちらも大切に使えば自分のものになっていく道具であることには変わらず、結局はその人が何を信じるか?に行き着くと思っているからです。

「何を信じたら良いか?」と言われたところで、あちこちで発信されるあの考えもこの教え?も、10代の三段の頃から生地胴を使い続けている身としては、「それって後付けでしかないよね?」と思えるような言葉でしかないように感じます。違っていたらすみません。

◼️剣道をするということ=道具を使うということ

濃藍の拭き漆がかかった生地胴

生地胴は天然の素材剥き出しの道具なので、使っていればさまざまな変化が生じます。
打たれたり藍染めの染料が色移りしたり、化学製品のものとは違い天候によっては革が変形するかもしれません。
これを味というか劣化と見做すかは人それぞれですが、その変化は、自分自身の継続による変化を映し出すものにもなり得ます。随分大袈裟な言い方かもしれませんが、剣道具とはそういうものです。
剣道をするということは、道具を使うということと同義なのです。特に生地胴はその象徴的な道具とも言えます。
そして剣道をするためにどんな道具を使うかを考えるというよりは、道具を使うことが稽古であると考えるようになると、色々とバランスが取れてくるのではないかと思っています。

◼️ 使ってこその生地胴

最近では生地胴も値上がり傾向にあるので、化学製品の胴台のようには気軽に手にできなくなっているかもしれません。
しかし、使い込むほどに自分のものとなり、人とは違う個性がますます強まっていく生地胴の「コスパ」は素晴らしいものです。

「剣道具は使ってこそ」です。
いまは安価な海外製、信頼の日本製(信頼できる海外製もあります)、さまざまありますが、どんなものであっても使い込んでこそ自分のものになっていきます。
どうか「生地胴の立ち位置」なんてあまり気にせずに、自分の剣道の上達のために、気軽に手を伸ばして欲しいなと思います。とにかく、まずは多くの人に使ってみて欲しい。
生地胴には、道具を使う喜びを感じさせる魅力があります。

いち愛好家として自ら生地胴を30年近く使い続けるオーナーズクラブ管理者としてそう思います…皆さんもいかがですか?

◼️今回のあとがき

私は生地胴愛好家が集まるグループのたんなる管理人です。
職人さんでもなければ他の剣道愛好家さんに何か決まっているものを押し付けるような確固たる知識もありません。

生地胴が好きで30年近くそればかり使い続けた経験と少しの知識、周囲の変化を見ながらあまりにもズレて行こうとしているのもがあれば「こっちの方がいいですよー」と私見を述べるのみです。
私一人がこういうことを発信してもやはり多勢には敵わない…のですが、とりあえず誰かが発信しなくては、ということで久々にこんな発信をしてみました。
50回目、ひとつの節目となるnoteの投稿、今日のところはこの辺で。


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