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#31 生地胴=ジーンズ論 vol.7

【11  拭き漆】

漆塗といえば一般的には剣道具よりも漆器が真っ先に思い浮かぶものといえよう。艶が深く鮮やかな色合いを携えた漆器は、大分して下地、中塗、上塗の工程を辿り漆を幾重も塗り重ね仕上げられる。 一方、木工細工などの「木地」に透度のある生漆を塗り、布で拭き取る作業を繰り返し、木目を生かして仕上げる技法が「拭き漆(ふきうるし)」であり、摺漆(すりうるし)とも呼ばれる。
塗膜を作らないことに大きな違いがあり、比較的手間が少なく安価な上、素材そのものの風合いを残しつつ質感を楽しむことができる。そして強度も高まることもあり、身近な家具や食器に用いられ、本漆とは違うカテゴリとして幅広く愛されている。素材を活かし、強度も高められる拭き漆の製法を、生地胴に用いることはあるべき流れだったのかもしれない。
牛の生革を拭き漆で仕上げた胴台は生地胴とは違うと考える愛好家もいるとは思う。しかし、木工細工に「木地呂(きじろ)塗」と呼ばれる仕上げがあるように、拭き漆によって素材の良さが活かされた生地胴があってもそれは不自然とは言い切れないというひとつの考察を残しておく。

拭き漆(塗)
木目が綺麗に浮き出るのもまた魅力
色味を混ぜることで元々の「目」を際立たせる

【12  ますます希少になる素地の胴台(当時)】


個人的な話題になるが、拭き漆で仕上げた胴を「これぞ生地胴」とすっかりほれ込み、またそのユーザーとなった事実に満足感を覚えつつ、約20年に渡り使い続けた。
手入れなどもさほど意識せずとも傷を気にする必要が小さな生地胴は、自分の剣道の相棒は他にないと思う程であった。稽古用のそれと解釈していたため、試合や審査、出稽古では別の胴を使っていたが、その時々で自分の主となる稽古場所では必ずこの生地胴を使うようにしていた。打たれることを恐れずに前に出ていくための防具として、自らの剣道のあり方と照らし、ある種の願をかけていたからである。その後、生地胴の定番は拭き漆仕上げのもので、素地のものはますます希少になっていく過程にあった。そこで稀に目にする色の明るい素地の生地胴に対し、私はやはりいつの日にか手にしてみたい、という思いを残していた。

明るいクリーム色の素地(塗り下)


◼️今回のあとがき

生地胴とは、生革のままで手付かずの素地の胴台を言います。
しかし、これに拭き漆という手法で漆を元の素地に擦り込んだような状態のものも生地胴として数えられています。
「貴方の運営する倶楽部では素地の台以外のものも扱っている。それなのに生地胴倶楽部と名乗るのはおかしいのではないか」と尋ねられたことが何度かあります。
しかし、拭き漆は、元々の素材の良さ生かしつつ、さらに風合いを際立たせると同時に強度も上げて長持ちさせるという技法です。故に生革の素地の良さはそのまま残っているということでもあることから「生地胴」を名乗っているものと思われます。
皮目の風合いが楽しめるものであれば生地胴ですよ、という考えのもとに当倶楽部も運営していますし、胴台の製作または販売元も同じように解釈しているケースが多いようです。
拭き漆という技法を剣道の防具に持ち込んだことの意味合いは大きなものであると私は考えています。

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