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#30 生地胴=ジーンズ論 vol.6

◼️9 広告の生地胴を買いに

学生だった20余年前。長期休暇中に短期バイトを詰め込んだところ、収入が思いのほか多く、ふと剣道雑誌の裏表紙の広告を思い出した。
上京したとはいえ、市外局番も03ではない都とは名ばかりのような東京の西の方から新宿は早稲田まで、慣れない電車を乗り継ぎ、地図を見ながらようやくその店にたどり着いた。出してもらった胴台は、期待していたものとほんの少し違い、柿の実のような色をしていた。もっと明るくクリーム色の胴台がないかと尋ねると、前は扱っていたが、今はこのタイプになっているとのことだった。詳しい事情もわからず、突き詰めることもなくそういうものなんだなとすんなり受け入れて、一番よさそうな台と胸を組み合わせ、仕立ててもらうようお願いした。
当時防具(剣道具)に関する知識がほとんどなかった筆者が、これは漆が掛かっているものなんだと改めて理解したのは、およそ1か月後に受け取ってからのことだった。
その後今日に至るまで、私にとって第1号となった「生地胴」を使い続けることとなる。

◼️10 拭き漆で仕上げた「生地胴」

私が生地胴を使い始めたその頃、生地胴を使っている人は身近にほとんどいなかった。郷里ではそこそこ愛用者を見かけていたので、どうやら地域差があるようだ。自分で着けてみて、まずその色合いに気恥ずかしさを感じた。そうではないとわかっていたはずなのに、生地胴を使うなんて生意気だと他人に思われやしないかとハラハラしながら稽古に臨んだ。しかしそれもほんの僅かな時間でしかなかった。三段、19歳の記憶だ。
やがて自分が生地胴を身に着けているという特別な感覚も薄らいだ頃、傷が付き始め、当初より胴台の色が明るくなっていることに気がづいた。明るさの変化は漆の変化。これは拭き漆仕上の胴台で、自分が長く憧れていた所謂素地とは違うもの。どうやら生地胴にも種類があるようだ。剣道具に拭き漆の工法が用いられることがいかに革新的な出来事であったか、各位ぜひ思いを馳せてみてはいかがだろうか。色々な気づきが得られるものと思う。

そして筆者が素地の生地胴を手にするのは、この時点からまだ先のこととなる。

山中武道具で購入した生地胴。当時税別50,000円。企画モノだったため、胸はかなり高品質のものが付いていました。

◼️今回のあとがき

私は大学時代、バイト代で憧れの生地胴を入手することができました。
これが竹刀などの消耗品を除くと初めて自分で稼いだお金で手に入れた「防具」です。
愛着は一入ひとしおで、この生地胴は今も現役で活躍してくれています。

購入したのは、新宿早稲田の山中武道具。身体を守ることができないような激安品は売らず、確りした造りのものを販売しアフターも責任を持ってみてくれる銘店でしたが、残念なことに2022年度を持って閉店されました。


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