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【短い物語】 ウェイトリステッド

 久しぶりに寿司を食べようと中嶋さんを誘って回転寿司屋に行くと、車を降りるなりエントランスあたりに待ってる人々が見えて、途端に寿司を食べる気分が失せてしまった。
 もう時間的に他の店を探す余裕は無かったから、胸の奥に引っ込んだ寿司の気分をかろうじて手繰り寄せて、ドア横のウェイトリストに〝ナカジマ〟と書いた。
 僕はこういうときに連れの名前を書く。

 飲食店で待つことを中嶋さんが嫌がるタイプなのかは知らない。僕は嫌がってないようにふるまっているけれど、中嶋さんもそうかもしれない。
 暇潰しに寿司ネタ縛りのしりとりを始めたけど、「ご」だの「ら」だので大変苦労して、途中から寿司屋にありそうな一品料理もOKにした。

 少し経って、僕たちはラッキーなことにテーブル席に通された。
 日の浅いアルバイト店員の辿々しさに、中嶋さんが愛おしそうに笑う。僕は好物の茶碗蒸しを注文して、早速メニューを手に取った。

「中嶋さん何食べます?」

「俺いか食べたい」

 注文票に〝いか 1〟と書いて、サビありに丸を付けた。〝生たこ 1〟〝真鯛 1〟そしてサビ抜きに丸をふたつ。

 いつ来ても仏頂面の店員にカウンター越しに注文票を渡すと、単調な口調で「はーい」と返事が返ってきたから、また中嶋さんが笑った。

 僕たちのテーブルに皿が十五枚ほど積まれた頃、カウンターの中から楽しそうな声が聞こえた。目をやると仏頂面の店員が笑顔で他の店員ときゃっきゃしていたから、僕は(なんだ、そんな顔できるんじゃん)とムカついた。なのに、中嶋さんは面白い物を見つけた子どもみたいに目を開いて嬉しそうにニカっと笑ってる。

 店員から赤貝を受け取ってテーブルに置いた時、これは本当に下品なことだけれど、僕は(女性器に似てるな)って思っちゃった。そんなことを考えてるって中嶋さんに気づかれたくなくて、急いで平らげたはいいものの、ちょっと馬鹿げてるなとも思った。
 中嶋さんはもう五年以上男として生活してて、体がどうなってるのかなんて僕には知りようもないけど、あんまりそういうの気にしてる様子はない。
 僕はたぶん気の遣い方を間違えている。

 最後に注文したウニを中嶋さんと僕とで一貫ずつ食べたら、古い桐ダンスみたいな味がして、僕はうげえっと顔を歪めた。

「古いタンスみたいな匂いがする」

 僕がそう言うと、これには中嶋さんもさすがに「ほんとだ」と眉を寄せた。「タンスっていうか、タンスに入れる防虫剤みたいじゃね?」
 それだ、と思って更に顔を歪めたら、中嶋さんが少し笑った。
 僕はたぶん、中嶋さんに恋をしている。