コンクリートのまとめ#4 ~2018年度上半期のまとめ~

ごぶさたしてます。
早いもので今日から2018年度も後半戦、というわけで2018年度前半のコンクリートニュースをふりかえってみたいと思います。
コンクリート業界の動向をただ追うのではなく、あくまで個人的に気になったところを中心に。

【本記事の目次】
① 数字で振り返るセメントとコンクリート
② 上半期気になったコンクリートニュース~国内編~
③ 上半期気になったコンクリートニュース~海外編~
④ コンクリートを見に行こう!〜アウトドア編〜
⑤ コンクリートを見に行こう!〜インドア編〜

※この記事の読み方:細かいところはNewsPicksリンク先の記事とコメントをご参照ください。

じゃ、さっそく。

① 数字で振り返るコンクリート

突然ですが、コンクリ―トとかその材料になっているセメントってどれくらい使われているか、皆さんご存知でしょうか?

セメントの国内販売量をセメント協会がまとめているので、そのデータベースから消費量をグラフにしてみました。

この記事を書いている10月1日時点で2018年度8月までの統計が出ているので、それから1年前までのデータをまとめると下の図のようになります。

よくわかりませんね。
よくわかんない理由ってだいたい3つあると思うんです。下の。
① セメントって何?
② 数字が大きすぎてイメージできなくない?
③ 結局多いの?少ないの?

というわけで疑問を一個一個つぶしていきましょう。

① セメント⇒コンクリートの材料
セメントはコンクリートの材料の一つです。コンクリートは①セメント、②水、③砂(細骨材)④石(粗骨材)を混ぜてつくられます。
品質を上げるために化学薬品や他の粉体を混ぜたりもしますが、基本はこの4つ。
セメントは石灰石(100%国産できる鉱山資源)を1400℃くらいの高温で焼成して砕いて成分を調整して作られるです。
これがコンクリートのメインの材料かと言われればそうでもなくて、コンクリートのうちを占める重さと体積の割合をグラフにするとだいたい下のような形になります。

なにが言いたいかっていうと、コンクリートを作るのに使われるセメントの量って割合的には大きくないんですよね。
体積でいうと7割とか8割くらいが石や砂の骨材で構成され、メインの材料はあくまでそっち。
1㎥のコンクリートを作るのに必要なセメントの量が300㎏少々なので、1tのセメントから3㎥(=約7t)のコンクリートができるという計算です。
(実際には地盤固化材に使用されるセメントもあるし、コンクリートにも生コンクリートとプレキャストコンクリートがあるわけですが)。
② 一人当たりの年間消費量⇒セメントなら330㎏/年、コンクリートなら2~3t/年
冒頭のグラフではだいたいセメントの月販売量は350万t、年間販売量は4000万t少々なので、これを人口で割ると一人当たりのセメント消費量は年間330kgだそうです。
身近なもので一人当たりの年間消費量を調べてみると、TOTOによると水は7万リットル、農林水産省によると米は53㎏だそうです。へえ。
なんてことを考えると、セメントはお米よりはよっぽど消費されている材料なわけです。
(消費量の割にセメントとかコンクリートが身近に感じられない理由は、コンクリートが木材などに比べて比較的新しい材料であるということと、石灰石という原材料を知らないから人工物のイメージが強いこと、最終消費者(家に住む人、橋を渡る人などの市民)に構造的以外の価値を提供することができないからだと思うけど、書くと非常に長くなるのでここでは割愛。)
③ 結局のところは、例年通り
能書きが長くなりましたが、セメントなりコンクリートの消費量は上半期はおおよそ例年通りでした。
これは、セメントなりコンクリートなりの使い先となる公共投資が年度計画がしっかり立っているものなので瞬発的な需要増減がもともと起きづらい物だからという理由が大きいです。
もちろん、自然災害への対応や原料高騰等の影響を受けて月ごとに微増減したりはしますが。

同じような理由で価格も変動します。

自然災害の多い今年は復旧工事に使用される量が増えてくるとは見込んでいますが、使用量そのものよりもそういった復興活動の中でコンクリートという材料がいかに再注目されるか、といった影響の方が大事だと思います。
コンクリートは短期的に見れば変動の少ない材料です。しっかり強度を発現するのに1か月や3か月も要する材料だから当然。
とはいえ、長いスパンでみれば緩やかに流れていく材料なので、そのトレンドを見るために以下の章に移りましょう。

② 上半期気になったコンクリートニュース~国内編~

上半期のコンクリートニュースをいくつかピックアップして、NPのリンクを貼っていきます。

・高品質なコンクリートって?
いちおうコンクリート技術者なので、最初はやはり技術的なところから始めようかなと思います。
セメントやコンクリートも、技術開発をして高品質化を図っています。
じゃあ、コンクリートの品質って何?と言われると、大きくいえば①使いやすさ(施工性)、②強さ(高強度)、③長持ち(耐久性)、④地球にやさしい(環境配慮)⑤かっこいい(意匠性)だと思います。
電化製品とか化粧品とか家具とか、他のモノとそんなに変わりませんね。④とか⑤は最近注目されるようになった要素です。

① 使いやすいコンクリート

①の使いやすいコンクリートってどうやったらできるんだろうって話ですが、方法としてはコンクリートそのものが取り扱いやすくなるアプローチと、コンクリートの使い方を工夫するアプローチがあると思います。

コンクリートっていうのは、ステークホルダーがものすごーく多い材料です。
設計する人と混ぜる人と運ぶ人と固める人と使う人が違うわけですし。
そうなると誰にとっても使いやすいコンクリートって大事だと思うんですが、その最もわかりやすい指標が「やわらかさ(流動性)」です。
コンクリートは混ぜられたときはドロドロでセメントの化学反応によって徐々に固まっていくんですが、混ぜられた直後はドロドロなほうが何かと便利です。
このドロドロ具合をコントロールできれば、工事現場で苦労することも少なくなります。
コンクリートをやわらかくするだけでも「省力化」とか「i-Construction」とか流行りのワードになるわけです。
コンクリートは運んでいるときにやわらかさの品質が変わったりしちゃうこともあるんですが、これをできるだけ楽にできたらいいよねっていう技術開発が前者のニュースです。

そうやって現場に運ばれたコンクリートをできるだけ効率よく型枠に打設することってとても大事です。
余った量は無駄になるのもそうですが、コンクリートの固まる時間を考慮しないと思いがけないひび割れが発生したりしますし、不慮のトラブルにもつながります。トンネルみたいに暗くて狭いところだと、コンクリ―トがしっかり行き渡っているかを知るのも難しいし。
これを打設方法を工夫することによって時間短縮しようというニュースが後者ですが、建設業界では「施工=工事の方法」も立派な発明です。

② 強いコンクリート
コンクリートを強くすることは、結局お金との闘いです。
コスト度外視で強さを上げることは簡単ですが、コンクリ―トは最も安価な(1キロ5円くらい)材料なので、安いコンクリートを強くするよりは、高いけどもっと強い材料を採用する方がよっぽどラクだし合理的です。
そのため、施工時間の短縮や現場作業の簡略化とか、工事全体のトータルコストまで考えないと強いコンクリートが現場まで採用されるのは難しいです。
こういった理由で技術開発と現場での適用までに時間が空きがちな高強度コンクリートですが、いま工業的に製造されるコンクリートで最も強いもので鉄道橋が作られました。

お時間のある方は下北沢まで見に行きましょう。(下北はBIG TIMEという古着屋がおすすめです)

③ 長持ちするコンクリート

コンクリートのセメントの部分をアスファルトに変えるとアスファルトコンクリートになります。道路に使われるアレです。
コンクリートでもアスファルトでも、自分でひび割れを直して「自己治癒」することができれば寿命が延びるのは当然です。
この技術開発をしているのが曾澤高圧コンクリートという北海道の企業ですが、本当にすごい会社です。
おそらく今日本でいちばん注目されているコンクリート業者だと思います。
材料の高機能化というのは、最もわかりやすいイノベーションです。

とはいえ、材料だけ工夫しても限界があるので、やっぱり設計とか施工とかトータルで考え直す時期にきています。
「分野横断」なんてワードはちょっと流行っていますが、コンクリートは分野の中ですら設計・施工・使用が縦割りされています。
それらをトータルで見直そうよ、という取り組みを北海道大学と清水建設がスタートしたそうです。

もちろん高級な材料を使うとか最新の技術を導入するとかもそうなんですが、どちらかといえばこの取り組みの本意はコンクリートのライフサイクルコストの考え方を縦割り型からシフトチェンジさせることじゃないかなとみています。

そうやって考えてくると、環境によっては多少高級でも高耐久な材料を使用するだけで割安になることは多々あると思います。
これを実証するのが難しいんですが、三井住友建設とネクスコ西日本が昔から試験を取り組んできた高耐久橋梁の「デュラ・ブリッジ:Dura-bridge」がいよいよ実用化ということで、感無量です。

将来的にはコンクリートの寿命を今よりもっと長く使ったり、あるいはもっと厳しい環境(たとえば宇宙や深海)で使うことも考えられます。
海洋研究開発機構が中心になってコンクリートの深海挙動に関する長期研究を開始したようで、個人的には今後が楽しみなニュースです。

「良いコンクリートを造るには、セメント、水及び骨材のほかに、知識と正直親切を加えなければならない。」ー吉田徳次郎

上記は日本のコンクリート工学の祖ともいえる大先生がのこした言葉ですが、僕らがいまライフサイクルコストだのなんだのと叫んでいる100年近く前に昔の人たちはその本質を見抜いていたわけです。
知識と技術と倫理をフル活動させて手間暇をかければ必ず強くて長持ちするコンクリートができるわけですが、それを産官学で達成しようとした山口県の取り組みが土木学会賞を受賞しました。
橋とかダムとかの構造物でなく、こういった無形の取り組みが評価されるのは異例なんじゃないかな。

④ 地球にやさしいコンクリート
コンクリートは自然破壊の象徴のように扱われることもありますが、少なくとも自然破壊を最も容易に行える材料であることは事実です。
使い方とか作り方を考えていかないと子供たちの未来が大変になるのは明らか。

というわけで最近国内ではセメントの使用量を減らしたコンクリートの開発が進んでいます。
セメントの代わりに高炉スラグという鉄鋼業で廃棄される副産物などを活用したコンクリートのことです。
リサイクル、と聞くと素敵に思えますが、注意しなければならないのはセメントを造る時点で高炉スラグなり多くの材料が原燃料代替としてリサイクルされているわけで、それをセメント製造時に足そうがコンクリート製造時に足そうが結果は同じだということです。

コンクリートの材料も枯渇しつつあり、例えば骨材。
骨材がたくさん使われることは上で述べましたが、これも近い将来限界がきます。
「再生骨材」や「回収骨材」など、リサイクル骨材の利用を促進しつつ品質を確保できるコンクリートにシフトしていくことがこれからは大事になりそうです。

⑤ かっこいいコンクリート
コンクリートは表面がのっぺりした作りになるので、黎明期の20世紀当初には意匠性に欠く材料と考える建築家もいました。
その一方で、そこに美しさを見出す動きもあります。

「よくつくられたコンクリートは、大理石よりも美しい」ーオーギュスト・ペレ

とは、鉄筋コンクリート造を大成させた一人である建築家の言葉ですが、実際にはこれを常に達成するのもなかなか難しいもの。

だけど、コンクリートは意匠性には伸びしろのある材料です。
練り混ぜ後はドロドロなので、型枠に凹凸をつければそれをそっくり転写して表面にテクスチャーをつけることができますし。
これを特殊インキで達成しようとするニュースがありましたが、コンクリート製品への活用が期待できますね。
将来的な予測をすると、3Dプリンターでコンクリートを直接造るのはいろいろ難しくても、3Dプリンターで複雑な型枠を作ったらあとはコンクリートを流し込むだけで複雑な形ができるかもしれませんね。
コンクリートが構造よりも意匠の道でもっと意味合いを持つようになったら「冷たい」というコンクリートのイメージも変わるかもしれませんね。

③ 上半期気になったコンクリートニュース~海外編~

先に断っておくと、コンクリートは国産材料で国産設計指針によって作られる非常にドメスティックな材料なわけで、僕自身海外ニュースまではあまりチェックできていません。が、あくまで日本語ニュースで知った範囲の情報でいくつか。

まあやっぱり3Dプリンターの勢いはすごくて、コンクリートも例にもれず。
コンクリートとの相性は必ずしも良いとは言えないと考えていますが(その理由の詳細はリンク先コメント欄で)、その開発と適応のスピードはすごいです。
そのスピード感とチャレンジ精神には感服するばかりです。

なんてことをやっていると、こうした思いもよらない付加価値も生まれてくるようです。
「鉄筋入れられないから3Dプリンターは無理かなあ」なんて頭ごなしに決めつけずにいないとなあと反省。コンクリートをやっていると頭までカタくなってよくないですね。

コンクリートって漢字で書くと「混凝土」で、その名のとおり混ぜてつくるから、どんな材料でも受容するのが良いところでもあり怖いところだと思います。
新しい材料を採用して強くしたり環境に良くしたりしようという取り組みは世界規模で行われています。
後者は火山灰を混ぜて環境性を高めようというものですが、国内編にも書いたようにトータルで考えることがポイントかなと思います。
火山灰って実はコンクリートの起源でもあるんですが、その辺の続きはコメント欄で。

④ コンクリートを見に行こう!〜アウトドア編〜

冒頭でコンクリートがものすごーく使用されていることを長々と書きましたが、身近なようで遠い材料です。(コンクリートの材料がわかる人が、世の中にどれだけいるでしょう?)
外に出ればすぐコンクリートに会えるわけで、予備知識があればありふれたコンクリートが少しでも面白くなるんじゃないかと考えています。
これらの記事がその一助になれば幸いですが、たぶんならないので、以下のニュースをご紹介。

コンクリートで作られる代表的構造物がダムです。人間が作れる構造物でもっとも巨大なのでは?
その魅力に触れるには、できあがったものはもちろん、作り途中のものを見に行ければ大きな刺激になると思います。
八ッ場ダムは本工事が本格化していますが、ツアーを開いていつ誰でも工事現場を見学できるようにしています。
おそらく国内で今後ここまで大規模なコンクリート工事を見れる機会があるかはわかりません。多分一生に一度のチャンスですので、流星群感覚で見に行ってはいかがでしょうか。

八ッ場ダムがここまで市民に対してオープンになったのは、計画が反故にされた経緯があるからです。
ダムって、計画発足から工事終了まで半世紀くらいかかることもあるんです。政治パフォーマンスで白紙になるなんて本来あってはならないことですが、それを防止するにはやっぱりこうした国民理解が一歩じゃないかなあと思います。

工場見学って新たな観光産業として流行りつつあるようですが、セメント工場はなかなかないんですよね。
鉄鋼だとけっこうあるイメージなんですが、残念。
数少ないオープンなツアーが開催される機会があれば、ぜひぜひ参加をご検討ください。(その魅力などはコメント欄で書きました)

コンクリートの材料と考えれば、「セメントのある風景」は都市そのものなわけですが、普通に暮らしててセメントを意識することはありませんね。
日刊工業新聞が上の記事で何点かピックしてくれていますが、どれもおすすめです。身近なところで探したたいという方は、まずはコンクリート工学会が公開している「四季の散歩道」から探してみましょう。

ちなみに、コンクリートの甲子園は7月のコンクリート工学年次大会と8月の彩湖で行われます。

⑤ コンクリートを見に行こう!〜インドア編〜

コンクリートって建設物に使われるのが大大大多数なんですが、たまにヘンテコな使い方をする取り組みもあります。
それが個人的にはすごく面白いなあと思うんです。
コンクリートって「実用」の極地に存在する材料で、文化的・精神的・抽象的な付加価値を持つことが許されすらしなかった材料なわけで。
ここではそういう取り組みをご紹介。

いやあ、すごいです。
全部いらないですよね?
でも、全部めちゃくちゃほしいです。

もうちょっと真面目に書くと、景観工学者はこう指摘しています。

「真のインフラストラクチャーは都市を機能的のみならず文化的にも支持する」ー中村良夫

一方で物理学者であり随筆家は、戦前にこう書き残しています。

「近来は鉄筋コンクリートの住宅も次第に殖えるやうであろう。(中略)まだ幾多の風土的試練を経た上で、はじめてこの國土に根を下ろすことになるであろう。試練はこれからである。」ー寺田寅彦

最近考えるのは、コンクリートは文明はつくったけど文化はつくったのだろうかということです。
鉄筋との組み合わせがあまりに工学的に実用的すぎて、共に成長する間もなくおそろしいスピードで普及したこの材料に対して、われわれはまだ違和感を抱えているんだと思います。
「コンクリートジャングル」などというあまり印象の良くない表現も、コンクリートが文化や自然からは遠い位置にあることを裏返しているんだと思います。
鉄筋コンクリート工学ができて、まだ100年ちょっとしか経っていません。
この20世紀の材料がわれわれの生活に真に溶け込めるかには、まだまだ試練が待っていると思いますが、こうした遊び心のある取り組みが実はすごく大事なんじゃないかなと思います。


以上、駄文でした。
またどこかで。

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