見出し画像

常套手段?

 (かつての勤務先の話)

 タイは事業年度を1月から12月に設定している企業が多く、この時期経理課は年次決算と会計監査で多忙になる。年末、歳入局の担当官を表敬訪問した際も、企画したセミナーへの参加者が思いの外少ないと嘆いていらした。

 当社も例外ではないが、今年が例年と大きく異なる点はタイ人監督者の突然の退職であった。自分より年上の部下との軋轢、キャリアパスの不明確さ(これは会社の問題)など理由あっての決断であろう。驚きはしたが慰留は最小限に留めた。一度離れた気持ちはなかなか戻らないし、聞けば彼女は過去に2回同様の手口(?)、つまり決算期に退職を申し出て破格の昇給と進学費用を戦利品として得ているらしい。2度あることは3度ある・・・決算の度に今年は何をおねだりされるのか?と戦々恐々とするのは御免だ。最も私はこの手には絶対に乗らないけれど・・・。

 私が彼女の退職の意思を尊重した最大の理由は、経理業務の最大のイベントの直前に、部下を残し辞めて行く彼女に経理マンとしての資質はないと判断したからだ。週末は大学院へ通いながら仕事と両立する勉強家であったし、私の話は一語一句たりとも聞き逃すまいと真剣にメモを取っていた。おまけに私の殴り書きのメモまで「下さいと」言ってデスクで読み返していた。しかし勉強熱心と仕事はなかなか上手く繋がらないようだ。

 最終出勤日に引継ぎの確認も含め面談を行った。彼女は「xxxさんは私の上司ではありません。」とキッパリ言い切った。そうだろうね、大したことしてないもんな・・・と反省した瞬間意外な言葉を聞いた。「xxxさんは私の先生です。」くすぐったい気持ちを抑え、『新天地でも向上心と野心を持って頑張りなさい!それがあなたらしいわよ。』と言って見送った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?