サッカーと勉強と思春期と..
※個人情報が特定されないように、情報を改変しているので、このお話はフィクションのようなものと捉えてください。
お尻を腫らした大学生がきた。
サッカーの試合中、正面から向かってくる相手選手をすり抜けようとするも、足が引っかかって派手にこけたらしい。
触った感じがかたくて血腫だろうなぁと思っていて、エコーやCTでも案の定そうだった。
IVR(血管をつめて血を止める手技)するほどじゃないことを確認して、圧迫止血することにした。
(やっちまったぁー)
みたいな顔をしてるので、色々話を聞いてみると、1ヶ月後に院試を控えたわたしの母校の農学部4年生だった。
「この1ヶ月でやろうと思って、まだなんも手つけてないんすよ」
と笑っていた。
ヘラヘラしてるけど、なんとなくそれで受かりそうなスマートさをもった男の子である。
「あんまり前からやっても忘れるもんね」
「そうそう!」
同じ学部出身ということで、検査を待ってる間に就職や試験の話をしていたら、他の研修医(その大学生と同じ大学の医学部を卒業した)が2人ほど来て、同年代3人+ちょっとシニアな私の合計4人で雑談をしていた。
「医学部って凄いっすよねぇ。やっぱり医学部の人達見て、農学部とは違いますか?」
この中で両方経験してるのはわたしなんだから、わたしに対しての質問だろう。
「わたし自身は編入生で、一般の人とは違う試験で入ってるから、傍観してて思うことだけど...」
両者に配慮した回答しなきゃなと思いながらも、素直に浮かんだ言葉がでてきた。
「色んな人がいるけど、思春期のあの時期に、あれだけ勉強に時間や労力を割くようにもっていけたのは凄いなと思う」
医学科というのは、たまたま勉強ができたしノリできた人もいれば、産まれた時から医者になることを両親から運命付けられて、頑張って頑張って頑張ってきた人もいる。そして極少数の純粋に医学に興味があってきた人達もいる。
そのどのタイプの人も、他の学部に比べて科目数も多く(最近は理科二科目だけでいいのを先週知った)、その到達レベルも高いところを求められるゲームを、あの多感な時期にこなしてたのが凄い。
「思春期ってw」
24歳くらいの優秀な同期の女の子が笑っていた。
ピンとこなくて当然だと思う。おそらくまだその最中にいるんだから。
思春期は、嵐を呼ぶ人になる。
全く関係ない誰かが顔をしかめてるのに不安になったり
草木と話したくてももう話せなくなってる自分にショックを受けたり
病院の待合室の椅子が等間隔にならんでいるのにムシャクシャしたり
曇りの日に世界がドーム状の一体感に包まれてるのを感じたり
大きなビルの一つ一つの窓の向こうに、昼間だけ人が犇いてることに震えたり
誰かの気まぐれに振り回されてこの世の終わりを体験したかのように感じたり
自分の中に時限爆弾のような悪意があったことに絶望したり
肥大化したり矮小化したりする自我に面食らったり
・・・
とにかく漠然とした色んな知覚に追われて勉強どころじゃない、そんな時期に一定の時間や労力が必ずいるようなタイプの試験を突破するっていうことは、(そのスペックで比較的楽に乗り越えてたとしても)素直に尊敬できる。
同期の2人は「ふーーん」って顔をしていたけど、その農学部生は「なるほどな」と頷いていた。
その流れで、医学科を賞賛するような流れが続いたので、彼の診療の終盤くらいに、勤務医の平均年収と彼の大学院卒のサラリーマンの平均年収をそれぞれ時給換算して教えてあげると、同期の2人が項垂れていた。農学部の彼は笑っていた。多分もともと知ってたんじゃないかな。
院試が終わるまではサッカーしないことを宣言するのを聞き届けて、終診とした。
人生って面白い。
thank you as always for coming here!:)