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『頬に増えたシミってマスクのせい?』そのウワサを検証しました

約3年続いたマスク生活も、3月からは個人の判断へと委ねられ、TPOに合わせて外している人も増えてきましたね。
ただ、久しぶりにマスクを外すとなると気になる肌のアレコレ…

今回は、30代以降で上位に挙がるシミについて、マスク着用に関与しそうな興味深い内容を見つけたので、解説と検証を行っていきます。


シミが気になる部位

突然ですが、みなさんがシミが気になる部位ってどこでしょうか?
コロナ禍で顔のシミが増えた気がするという女性841名に対し、『シミが増えた部位』を調査したところ、頬が74.4%とダントツで多く、次いで目の下(36.6%)という結果になりました¹⁾。

図1 シミが増えた部位
引用:セプテム総研 アンケート調査¹⁾ Fig.19-2 シミが増えた部位より転載

さて、頬部位になぜシミが多いのでしょうか。
頬にシミが目立ってしまう原因を、皮膚科学の観点から解説していきます。

・頬にシミが多い理由

『シミはなぜそこにできるのか? -皮膚深部に潜むシミ形成の決定要因-』の研究²⁾では、皮膚内部に存在する神経の分布も影響していると報告されています。

具体的には、以下の3つのことが確認されました。

  1. メラニン色素を作る細胞であるメラノサイト神経を一緒に培養するとメラニン色素が増えて色が濃くなる

  2. シミ部位ではメラノサイトと神経が接触していることが多い

  3. 頬の皮膚内部には神経が多い

これらのことより、頬にシミができやすい原因は、皮膚の内部に多く存在する神経がメラノサイトに接触して直接刺激している可能性があると考えられ、結果、メラノサイトからメラニン色素が多く産生されてシミが多くなっていると推察できます。

図2 シミのできやすい部位と神経の関係
引用:ポーラ化成工業株式会社 ニュースリリース²⁾ p.1の図1より転載

・マスクの影響

この研究を読みながら、ふと疑問に思うことがありました。
「シミが出来やすいとされている頬って、マスクが接触する部位とも同じ。マスクによってシミが増えた気がするのは本当かもしれない…!」

この研究での神経とは、温度や感触などの皮膚上の感覚を受け取る神経のことを指しています。
つまり、マスクによる擦れ(摩擦)や温度により、感覚神経が活性化し、メラノサイトとの接触を増やすことになると考えたのです。

図3 シミリスクのイメージ

今回、そんな疑問を解消すべく、マスクの着用がシミに影響するのかを検証することにしました。
ただし、シミの形成を観察するためには相当な時間が必要だったことから、今回はその前段階である『マスクと肌が擦れると炎症(赤み)が起こるのか』『炎症(赤み)が起こりやすいマスクはあるのか』について検証することにしました。

実験

・実験方法

  1. 洗顔し、約15分間安静に過ごし、実験環境に肌を順化。

  2. 顔画像解析装置(VISIA® Evolution)を用いて、顔面の紅斑の個数・面積を解析。

  3. 試験担当者が赤みの濃淡を5段階で目視評価し、被験者による刺激の感覚判定を実施。

  4. 1日マスクを装着し、8時間後にVISIAでの画像解析、目視評価、感覚刺激判定を実施。

  5. 上記、同様に5種類のマスクで実施。

【対象マスク】 ※各パターン:n=3

1.不織布プリーツタイプ (A)
2.不織布ボックス立体タイプ (B)
3.不織布立体タイプ (C)
4.コットンプリーツタイプ (A)
5.コットン立体タイプ (C)

図4 マスクタイプ

・実験結果

VISIAでの画像解析の結果を表1にまとめ、そのうち赤みが大幅に増加した対象者のVISIA画像を表2に示した。
マスク装着前後の目視評価、感覚刺激判定について、表3にまとめた。

表1 マスク装着による紅斑解析の結果
表2 マスク装着により紅斑が大幅に増加した例
表3 マスク装着前後の目視評価・感覚刺激判定の結果
※目視5段階評価
1:認識できない 2:やや認識できる 3:認識できる 4:やや目立つ 5:目立つ
感覚刺激5段階評価
1:なにも感じない 2:わずかに違和感(ヒリヒリ・ピリピリ・チクチク・かゆみなど)らしきものを感じる 3:確かに刺激(ヒリヒリ・ピリピリ・チクチク・かゆみなど)を感じる 4:強い刺激(ヒリヒリ・ピリピリ・チクチク・かゆみなど)を感じる 5:我慢できないくらいの強い刺激(ヒリヒリ・ピリピリ・チクチク・かゆみなど)を感じる

・考察

VISIAでの解析結果から、同じマスクの形を素材別に比較すると、不織布よりコットンの方が赤みが出にくい傾向がわかりました。
しかし、マスクの形別に比較すると、どのタイプが赤みが出やすいのかを確認することはできませんでした。

図5 プリーツタイプでのマスク素材比較

目視評価と感覚刺激による自己判断は関連性が見られ、自己判断で刺激を感じている場合は、見た目でも赤みが確認できることがわかりました。
ただし、VISIAの解析結果との関連性は見られず、目視や自己判断の方が、微かな赤みについても捉えられるのではないかと考えます。

以上の結果から、マスクによる摩擦や温度が刺激となり赤みを誘発することが確認できました。また、マスク素材を赤みのできにくさという観点で選ぶとすると、コットンの方が不織布より適していると考えます。
しかしながら、形状については、この実験では結論を導き出すことはできませんでした。

まとめ

今回の研究報告と実験結果を踏まえると、マスクがきっかけとなり炎症を引き起こす可能性があることがわかりました。
しかし、それらの炎症の起こりやすさはマスクの形、素材によって変動する可能性が示唆されました。
また、顔の大きさや骨格などにより、マスク装着時のフィット感が異なります。私自身も被験者となり実験を行った感想としては、肌にマスクが触れる面積が多いほど赤みを誘発しやすいのではないかと感じました。
マスクが肌に触れることが多かったなと思った日は、積極的に炎症ケアを取り入れたいと思います。

今回は短期的に肌への影響を確認しましたが、長期的影響が炎症だけにとどまらず、シミに直結するかまでは解明できておりません。
長期的使用による影響の解明に興味のある方はぜひコメントをお願いします。続報があるかもしれません。
次回にご期待ください!

(執筆:甲斐)

参考文献)

  1. 長期マスク着用による女性の顔のシミの変化 セプテム総研 SPTM調べ

  2. シミはなぜそこにできるのか 皮膚深部に潜むシミ形成の決定要因,ポーラ化成工業株式会社,ニュースリリース