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熱くて痛かった


あーちゃんは同じクラスで、移動教室もお弁当も休み時間も一緒に過ごす、仲のいい友達。
あーちゃんは可愛くて、おしゃれで、スタイルがいい。さらさらの黒髪と色白のほっぺたも持っている。おしゃべりが好きで、私はあーちゃんのことならなんでも知っていた。
彼氏のたくみくんは、年上で、背が高くて、あーちゃんの自慢の恋人なこと。誕生日にディズニーでデートしたこと。映画の時間に遅刻したたくみくんとケンカしたこと。カフェでバイトを始めたこと。そのカフェの店長がイケメンなこと。そして、あーちゃんがたくみくんと別れて店長と付き合い始めたこと。

「だってさ、仕方なくない?」
あーちゃんはいつもの、少し舌足らずな甘えたような口調でそう言った。
たくみくんは仕事が忙しくて全然かまってくれないし、すぐわがまま言うなって怒るんだよ。でも店長は大人で優しくて私のこと全然わがままじゃないって言ってくれたんだ。もっとわがまま言っても良いって!それに店長も奥さん出てっちゃって寂しそうだし、なんかアイシュウがあって、私が守ってあげたくなっちゃうの。それにね、店長の子ども、ゆうくんも私にすごく懐いてくれてるんだよ。すっごくかわいいんだよ、見て見て。
あーちゃんが差し出したスマホにはひげを生やした男性と、3歳くらいの男の子、そしてあーちゃんがピースをしている画像があった。
素敵だね、と微笑みながら言うと、
「そうでしょ!やっぱりマキは分かってくれると思ってた」
カフェオレを飲みながら満足そうに笑うあーちゃんの顔は、やっぱり可愛かった。

可愛くて移り気なあーちゃんは、大学に入ってから1年足らずで恋人が4人もできた。そのすべての恋人に紹介されてきた私には、友達の元恋人、という今後関わることのなさそうな関係の人が増えていた。
たくみくんと会うときはいつもあーちゃんと一緒だったのに、「少し話せない?」という連絡がきて、はじめて二人きりで会った。
たくみくんはみるからに落ち込んでいて、つんつんとがっていた髪の毛が今日はしおれていた。
なんで、どうして、あの男に騙されてるんだ、おれのほうがあいつを幸せにしてやれるはずなのに…というようなことをずっと喋りながら、アイスコーヒーに刺さったストローでぐるぐる氷をかき混ぜていた。
私も、そうだね、そう思うよ、あなたは悪くないよ、という毒にも薬にもならないことをつぶやきながらオレンジジュースをすすった。
そして2時間後には手をつないでホテルに行った。
お互いの体の熱を感じながら、たくみくんは熱に浮かされたように私にすき…とささやいた。
私はたくみくんのことがあーちゃんに紹介されて初めて会ったときから好きだった。初恋で一目惚れというやつだった。だらしがなくて快楽に弱いどうしようもない人でも、好きだった。
ホテルを出てたくみくんの車に乗ってすぐ、「付き合ってほしい」と言われた。
ほとんど条件反射で頷くと、たくみくんは嬉しそうに笑って、また連絡する、と言ってキスをした。彼の車ではあーちゃんが好きだと言っていたアーティストの曲が流れていた。

その一週間後に、私はたくみくんにフラれた。
やっぱりアヤカとやり直そうと思う、あいつも寂しくてふらふらしただけって言ってたし、まだおれもあいつのこと・・・
長々と続く言い訳は、結局私よりあーちゃんがいい、という宣言だった。
アヤカには何も言わないでほしい、という最後まで自分勝手なたくみくんを見て、泣くこともできずに分かったと答えた。

たくみくんと別れたあと、ようやく涙が出てきた。止まらなくなった。
あーちゃんも、たくみくんも、わたしも、みんな消えてしまえばいい。
こんな気持ちになるなら、好きになんてなりたくなかった。ホテルなんて行くんじゃなかった。
恥ずかしいのと、悲しいのと、怒っているのと、すべてが混ざってどろどろになった野菜ジュースみたいだった。

その更にひと月後、あーちゃんはたくみくんと別れた。あの熱を知らなければ、今も無邪気に思っていられただろうか。
初めてキスしたときの、かさかさの唇だけ覚えている。



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