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【科学夜話#22】はじめ人間用マンモスの肉(本物!)

 園山俊二のマンガ「はじめ人間ギャートルズ」を見た人はみな、あの骨付きマンモスの肉を食べてみたい、と思ったはず。
 ご要望に応えてギャートルズ肉は人用、犬用など各種売られており、レシピもいろいろあります。
 ところが、ここにきて本物のマンモス肉が登場しました。いったいどうやって作ったのでしょうか? 
 また、この技術はどのようなことに使えるの? といった疑問について調べました。
(見出し画像はイラストACより)

https://totalnews.com/scientists-create-woolly-mammoth-meatball-but-are-too-scared-to-eat-it/

マンモス肉の作り方

 マンモスの肉は培養肉の技術で作られた。
 生きている動物ではなく、体組織の細胞を組織培養することによって得られる。

 培養肉とはあまり聞き慣れないかもしれないが、70社以上のスタートアップ企業が培養肉に参入している。
 そこで作られるのは、ブタや鶏肉などのポピュラーなものから、子羊、鴨、うずら、魚、甲殻類、はてはウナギまで。
 さらにフォアグラやホタテなども、研究中とのこと。

 マンモスの培養肉を作ったのは、オーストラリアの企業ヴォウ(Vow)社。同社はすでに、アルパカ、バッファロー、クロコダイル、や各種の魚など50種以上の培養肉を作ることに成功している。
 2018年には、他社が同じくDNAから古代の象マストドンの肉を作っている。

 共同研究者であるクイーンズランド大学のErnst Wolvetang教授と彼のチームが、マンモス肉の風味に関して重要なミオグロビンのDNAを取り出し、他の部分は象のDNAで補った。

 英国の"The Guardian”誌WEB版の、環境問題担当編集者ダミアン・キャリントン(Damian Carrington)氏の記事等に拠った。
 余談だが、日本とちがい海外ニュースは、記事にした人がどのような経歴をもち、これまでにどんな記事を書いたかすぐ参照できる。

 日本では国営放送や大新聞社ですら、各分野の専門解説委員や記事文責者がどのような経歴で、どのような事績をもつか参照しにくい。

PhotoACより

マンモス復活計画

 培養肉は、動物の組織細胞を体外培養法で増やして作る。
 DNAから培養肉を作るには、羊の筋芽幹細胞にDNAを注入して組織培養する。培養フラスコ、シャーレのなかで、無菌操作によって培地成分を取りこんで、肉の細胞が増えていくのだ。

 だからできた肉が本当にマンモスの肉なのか、には議論がある。米国CNNなどは、象DNAのなかに一片のマンモス遺伝子を入れて培養した羊肉、と辛辣なコメントを出している。
 現時点では安全性検査を行っていないので、食用にはならないが、ワニ肉のような香りだそう。

 マンモスそのものを復活させる方法としては、顕微授精、体細胞クローン、遺伝子編集などの方法がある、とされる。
 しかし、現状ではどれも実現できるレベルの話ではない。

 シベリア凍土から発掘された状態のよいマンモスからは、DNAを解析できた。しかし細胞そのものが、生きているわけではない。
 体外受精させるための精子細胞や、体細胞クローンを作るための細胞を冷凍保存するには、ただ凍らせればよいのではないからだ。

 人工的に細胞を凍結保存するには、細胞を破砕しないように凍結するためにDMSOという溶媒を添加する。永久凍土で凍った細胞だから生き返る、というのは架空世界だけの話なのだ。

 2008年にはマンモスの全ゲノム解析が行われており、象とのちがいは1%以下だとわかっている。
 象のゲノムを編集してマンモス化するためには、臓器移植用のブタを作製した技術が使えるらしいが、実現してはいない。

イラストACより

恐竜の肉は食える? 

 動物の遺伝子から動物そのものを作るには、受精卵の作製よりもその受精卵を人工孵化もしくは、仮親の戻して胎児にするまでのほうが、はるかに難しい。

 ニワトリなどでは、この方法が確立していて 卵殻の一端を切り取り、ラップで封をして人工孵化できる。
 家畜改良センターのホームページに掲載されている画像から、その様子が窺える。

 ニワトリの卵殻の端を切り取り、中の有精卵にマイクロインジェクションによって遺伝子を注入し、あとは孵卵器で孵化させるのだ。

信州大学農学部の中継画像から

 だいたいこんなカンジ。ちょっとグロだけど。
 黄身の表面に心臓ができ、鼓動を始め、雛の形状になって孵化するまでを透明なラップ越しに見ると圧巻だ。無生命から生物を作り出す錬金術師になったような気がする。
 この技術、鳥でできるのなら、鳥のご先祖である恐竜ではできないだろうか?

 恐竜の場合、マンモスとは生きていた時代がケタちがいに古い。
 当時のシダ類や恐竜化石から、DNAに似た物質が発見されている。しかし、映画「ジュラシック・パーク」のように、琥珀に閉じ込められて保存された「蚊(恐竜の血を吸っている)」を含め、恐竜DNAが解析された事例はない。

 もし恐竜のDNAが読み取れれば、末裔であるニワトリ卵殻を使う方法で、孵化できる・・・かもしれない。だが、到底実現は難しい。
 ただDNAの一部でもわかれば、前述の方法で培養肉を作ることは出来るだろう。

 恐竜の肉は、チキン風味かもしれない。

イラストACより

ハンニバルの世界!!

 SF映画のディストピアもの、人間の肉を食らう未来世界がしばしば登場する。
 現在多くの生物種の培養肉が研究されているが、人間の肉もラインナップに加えることができるかもしれない。

 傑作サイコ・ミステリ映画「羊たちの沈黙」に出てくるハンニバル・レクター御用達になりそうだ。
 この映画、というかもはやサイコの象徴とも言うべきなのが、登場人物のレクター博士。彼が人肉食(カニバリズム)に走ったのは、幼少期のトラウマが原因、という設定らしい。

 原作者のトマス・ハリスによれば、このレクター博士には実在のモデルがいるとのこと。このモデルに関しては、信じがたいような逸話をトマス・ハリスが語っているが、ここでは触れない。

 ふつうの培養肉は、シンガポール政府が2020年に販売承認している。一部の屋台やレストランで、培養鶏肉のナゲットが売られているそうだ。
 動物を屠殺せず犠牲を減らせることや、牛一頭を約2年かけて育てるところ、2か月で培養できて生産効率が良く、環境負荷が低い。などの利点がある。

 2020年にはこの分野へ3億5000万ドル(約370億円)投資され、急成長しているそうです。
 現在はふつうの肉よりも高価になってしまうが、2030年までには畜産由来と同等になるとの予測もあります。

 消費者の意識も変わってきている、との調査結果もあります。将来の食糧不足を見据えて昆虫食なども模索されるなか、代替肉や培養肉も選択肢のひとつになってくるのかもしれません。
 生産の管理面では、培養肉ははるかに清浄環境で作られるので、将来は培養肉を食べていることが、ステータスになる可能性もある・・・かも?

#培養肉 #マンモス #ギャートルズ #恐竜



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