ボランティア一人ひとりと向き合う

雲月山の山焼きが再開してから最初の6年くらいは、ボランティア募集は「クチコミ」だけで展開した。山焼きに参加したことがある人にだけ募集案内を送り、「知人を誘って参加してください」と書き添えたのだ。再開初年の2005年に参加した150人に案内を送ったところ、翌年の参加者は180人に、その翌年の2006年の参加者は250人に増加し、その後ゆるやかに減少した。誰かを連れて来たら特典があるわけではなく、単純に知人を「誘いたい」という気持が反映された結果だ。参加費が必要なボランティアイベントに知人を誘う事は、それなりのリスクが伴う。参加したイベントが面白くなければ、その友人からの信頼を失うことになりかねないからだ。それでも、多くの人が知人を連れてリピートしたのはなぜだろう。

参加者が受け取る、山焼きの価値

ボランティア参加者には、毎回の実施後に、アンケートによる調査を実施している。アンケートは閉会式の直後に用紙を配布し、その場で回収している。山焼きが再開された2005年の「今回の山焼きで良かった点」を自由に記入する質問の回答のうち、最も多いのは「山焼きという作業を経験したこと」であり、「参加者同士の交流」がこれに次ぐ。以下は「進行に関すること」、「自然に親しんだ」、「山焼きの技術を見た」、「雲月山の価値を知った」、「山焼きの価値を実感した」と続いた。この結果から、参加者は山焼きという作業そのものに興味があり、その一方で作業を通じての、地域住民や参加者との交流に価値を見出していることが分かった。

山焼きのリスク管理

ボランティアの満足度を計るために、別の質問もしている。「次回もこの活動に参加しますか」と言う問いに対しては80%以上の人が参加すると回答した。さらに「次回の活動に知人を誘いますか」という問いには60%程度の人が誘うと答えている。この結果は、8割以上の人が、自分自身がまた参加したいほど満足し、半数以上の人が自分の友人に対して誘いたいと思ったということだ。参加した人にだけ、案内を送ることにした。その背景には、山焼きは危険な作業であるため、安易な気持で参加してほしくない、というリスク管理の側面がある。

自由

意志を尊重する仕掛け

もうひとつ、クチコミにこだわったのには、所属している職場や団体からの動員による「参加させられている人」を生み出したくないという気持もあった。一人一人のボランティアに山焼きの意味を理解してもらい、自分の意志で参加してもらいたい。そのために雲月山の山焼きでは、当日の活動を安全で満足いくものにするのに合わせ、参加費の設定や募集の方法が「個人の自由意志を尊重するための仕掛け」として、デザインされてきた。

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