嗅覚音痴
「夏の匂いがする」
湿気に混じった草木の香り。
土の香り。人の汗、煙。
絡みに絡まって香ってくる。
「好きな香り?」
と問われたならば、
「良い香りだね。」とは言えない。
でも、口から、鼻から全身に夏を感じるこの感覚が、日本の四季という素晴らしさ思い出させてくれる。
しかし、その感覚が近年薄れてきているのではないかと感じる。
「春はあけぼの」で始まる「枕草子」
清少納言は、「春は明け方が良い」と言った。
春は有名だが、彼女が続いて読んだ「夏」を知っているだろうか。
「夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。」
ー夏は夜が良い。月が輝いている満月のころは言うまでもなく、月が出ていない新月のときでも、ほたるが飛びかっている光景がいい。また、ほたるが1匹2匹と、ほのかに光って飛んでいくのも趣きがある。雨など降るのも趣きがある。
電気もガスもなかった平安時代。
彼女は暗闇の中で輝く蛍をみてどんな気持ちになったのだろう。
灯りもない夏の夜は恐ろしささえ感じるはずだ。
そこに蛍が放つ小さな光にどれほど救われたのだろう。
そう考えると、四季なんて無くなってしまったのではないだろうかとすら感じる。
忙しなく恵まれた環境にいると、四季の素晴らしさなんて考えることが無くなる。
そんな事を思いながら、夏の湿った空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
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