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【書籍】「競争原理」という人類史最大の嘘【全文公開 ⑨】

   新しい世界

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。この本の内容に共鳴してくれる人が現れたなら、どんなに素晴らしいことでしょう。その人は私にとって、新しい時代をともに切り開く友人と呼ばせていただきたいです。
 本書を手にとっていただいた人のなかでも、ここまで読みすすめていただける人はほんとうに少ないだろうと考えていました。その理由は、本書で様々な普通では分かり得ないような内容でありながら断定的な書き方をしてきたため「この男(私)は何の権威があって決めつけているのだ、どんな経験をもとに書いているのか」と反発する感情が起こるだろうと考えていたからです。

 私が人生の師に出会ったのは高校生のころですから、もう四十年近く前のことになります。私の人生とは、師の教えをもとに「世界の真理とは何か」を探るためのものでした。そんな師の教えのなかに「人に履歴を聞くのは愚の骨頂」というものがあります。知の道を歩む実践者としての真意は置いておいても、一般的に本を読む際には著者の経歴や人となりが気になるものです。それはある意味「閉じた頭」として、学術的な権威や希少な経験を持ち合わせていなければ読むに値しないという考えにも繋がります。
 私は師の教えに従って自分が何者かを明かさずに書いてきて、それをあなたは先入観なしに読み進んでいただきました。その作法こそが、新しい時代に相応しい在り方になるだろうと感じています。人を権威や経歴の色メガネで見るやり方は「閉じた頭」の時代で終わり、新しい時代には目のまえの在りのままの人と接する。どこの馬の骨とも分からない私の文章をここまで読んでいただいたこと、ただただ感謝です。

 少なくとも数千年に渡って人類を魔法にかけてきた「競争」を、解いていこうというムーブメントがこの日本から起こる。それは素晴らしいことであると同時に、運動が起こること自体は必要不可欠なことだろうと考えています。
なぜなら世界はどうしようもなく「新しい時代」を希求しているし、真の新しい時代は「競争」からの離脱なしでは到来し得ないからです。まだ多くの人が気づいていないですが、競争を私たちの生活から無くしてもなお、より豊かに社会は運営できるのだと理解が進むステップを迎える時がくるだろうと思っています。人類全体の意識が気づくのに何十年かかったとしても、それが人々の変容する適切なスピードだといえるでしょうから、何かを無理強いすることなく、自然な変化を見届けていきたいものです。世界は常にあらゆることがグラデーションですから、人類の意識的な気づきを濃淡のグラデーションで表せば、人類意識の先端に立ったあなたが競争の呪縛を解きほぐして意識の拡大を実践していくなら、後につづく意識たちは気づきの色へと階調を変化させていくことでしょう。
 
 前章で瞑想のことに触れたので少し付け加えますが、瞑想は何のためにすると思われるでしょうか? 現世において瞑想の第一段階の目的は、この物質世界から抜け出すことです。リアルな物質世界を最近では仮想世界だ、幻だ、3Ⅾホログラムだ、パラレルワールドだなどとも言われますが、私からすれば当たらずとも遠からずという感想で「リアルでありながら、リアルでない世界」だと考えています。
物質世界から抜け出すという目的は一般の人には無縁であり、私のような知の道を実践する者の目的といえますが、物質世界から抜け出す方法は2つだけです。死ぬか、内的沈黙によって物質世界の描写を止めるか、どちらかになります。
人が死ねば、物質世界の上位法則である意識体に注意力が移って、現世から抜け出すことになる。これは通常の死の過程です。もう一方の内的沈黙とは、物質世界を知覚するシクミとして理性による一覧表をもとに内的対話で物質世界の描写を支えているので、要である内的対話、心のおしゃべりを止めることにより物質世界の描写を止める、世界を知覚する連鎖を止めるという技術です。内的沈黙というのは実践者のなかに蓄積していくもので、実践者の心の静寂、心のおしゃべりを止め蓄積した「沈黙」が閾値を超えたとき、世界が物質世界であることをやめる瞬間が訪れることになります。死ねば当然に悟ることとなる意識状態に、生きたまま到達する。それは意識の進化という観点から、ひとつの大きな到達点ともいえるでしょう。

 なぜ知の道を歩む実践者にかかわる分野のことに触れるのかといえば、情報化された社会のなかで瞑想についても様々な方法がいわれているからです。「心の思考を止めることは不可能なので」や、なかには「心を静めてひとつの考えに集中して」などと教えているものまであります。思考や考えは「内的対話」によるもので、瞑想の目的に適っていないということになります。仮に意識の成長の過程として「心の整理」をするための内観という瞑想の位置づけは考えられますが、その先の目的地には「内的沈黙」が必要だということを踏まえておくことで、瞑想メソッドという「迷いの世界」で彷徨われるのを少しでも避けることができればと触れさせていただきました。

 私たちの文明は世界を有限と捉える閉じた頭の思考によって競争を繰り返し、富は限られていると考えるから奪い、ため込み、貪欲な者が世を動かすシクミで運営されてきました。医療業界は人を救うという使命から離れ、いかに病人を増やして儲けるかの制度づくりに精力が注がれてきました。もの作り業界は消費者の安い物至上主義によって丁寧なもの作り文化が絶え、マスメディアのジャーナリズムは複雑な権力構造のシンプルな帰結として真実を伝えないことが仕事になっています。そして政治は思想や体制に関わらず、誠実さとはもっとも乖離した世界でありつづけています。
それぞれの分野で奮闘する現場の人が、人間精神の本来あるべき誠実さを実現しようと試みても線香花火のように消えていってしまう、それが欲望と競争心で転がりつづける巨大な現代社会という名の車輪です。誰にも止めようがありません。
 これらの現状は、競争による富と権力の集中が引き起こした現象といえます。この誰にも止めようのない巨大な車輪ですが、私は転がりつづける車輪から降りることを決めました。人里離れた世捨て人とならず、競争でまわる社会のなかを競争なしで泳いでいこうと思います。
 私は喜びを原理とした「自発」で突き動かされています。競争原理から喜び原理へ。強制から自発へ。選挙での一票は、個人の無力さを痛感させるものですね。社会がどうであれ、環境がどうであれ、あなたが世界をサバイブする道は、あなたにしか選べません。何千万票のうちの一票ではないですよ。あなたの感じ方と、思考と、感情と、あなたの意志が「すべて」なのです。
あなたは「あなたの人生」という作品を制作中のアーティストです。吹く風に振り回される木の葉のような人生から、あなた自身にコントロールを取り戻すことができます。「強制」は自らの考えを消して誰かの言われたままに動くこと、「自発」は自らの内から沸き起こる喜びによって思いのまま自由に動くこと。
 喜びの原理を取り入れた人が「自発」によって、誰かに喜んでもらいたくて、誰かを笑顔にしたくて自ら考えて行動する世界、そんな人たちが描いていく「新しい世界」は、あらゆる分野で想像もしなかったセンスが芽生え価値観の転換が起こるのだろうと思います。例えば「美しさ」って現在ではとても画一化されていますよね。雑誌やインターネットで美しさの基準や流行の設定が共有されています。そして画一化された基準に合わない自分のパーツを適合させたいと、美容整形が動機付けられています。
新しい世界に適応した人たちのなかでは、美しさの画一化がなくなるだろうと想像しています。自分の顔の個性をさらに際立たせる方向に、それぞれ独自の文様をいれたり、電子ペイントで皮膚を間欠ライティングしたり、それは「超個性」と呼ばれるような人たちが現れるのじゃないかなと考えたりします。

意識の認知領域を拡大していく道は、世界の謎と神秘に気づく道でもあります。人生は先の読めない冒険に満ちていて、それでも常に調和されているのだから、なるようになる流れに確信をもって身を任せる。捉えどころのない抽象的な力が指し示し、導いてくれる。その奇跡が、生活のなかに起こってゆく。
新しい世界に生きる人たちが注意しなければならないことは、生活のなかに起こる奇跡が当たり前になって、奇跡慣れしてしまうことでしょう。はじめは小さな奇跡に驚いて、物質世界を超えたところに自分の意識があるんだと確信を深めていく過程で、起こる奇跡に慣れて、驚きや感動を無くしていってしまう。これはどういうことかというと、未知を既知に変えてしまうという症状です。世界の謎と神秘は「未知」であり、日ごろ私たちが知覚している物質世界は「既知」だとしましょう。開けた頭の人として「未知」を発見し感動と驚きを覚えていたのに、慣れてくると「未知」を閉じた頭のやり方で「既知」に組み込んでしまう。
これを避けるには見つけた「未知」を説明しないことがいいだろうと思います。「未知」は私たちの日常世界を超えてはいるけれど、認識可能性の範囲内にある知覚可能な世界です。説明不可能な「未知」を閉じた頭の作法で、言葉による説明で分かったつもりになり、あなたの一覧表の一項目に加える。これによって「未知」を「既知」としてしまうのです。コツは、言葉を介さずに「未知」を神秘のまま、体験の総和としてその特徴を知る、といった感じに留めておくことでしょう。
ちょっと深入りし過ぎたでしょうか。先をゆく人のために書いておきました。

本書を要約するなら、競争社会にはもう飽きあき、といった感じです。どこかでお会いできたら素敵ですね。ありがとうございました。

               宮下 陽一

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