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灰色の水平線

人生は、問答無用で素晴らしい。それをどうしても認めることができなかった頃、私は「生きる」とは悪あがきなのだと思い込んでいた。望まずして自ら築き上げた檻の中に囚われ、狭い世界でうずくまっていた。

通りすがりの人の舌打ちに怯え、怯える自分に苛立っていた。苛立ちはちっとも私を応援してはくれなかった。

「水平線が見たい」
土曜日だから。涼しくなったから。理由はなんでもいいし、なくたってよかった。私が伝えたときに隣にいる君が、
「鵠沼海岸はどう?」
と提案で返してくれた、それだけのこと。 

ここで誰かが舌打ちしても、波音が打ち消してくれる。

私の視界には灰色がかった水平線が雲の切れ間から差し込んだ光と遊んでいて、それを今、君とふたりで見ている。

私は、私たちは、大丈夫だ。理由はない。満員電車の中でスマホしか見ない人たちの人生だって、間違いなく素晴らしい。だから、私たちの人生もまた。

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