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『ユーフォリア/EUPHORIA』カル・ジェイコブスの憂鬱

2020年代最もツイートされたテレビシリーズとして名高い『ユーフォリア/EUPHORIA』について、配信中であるシーズン2まで観ました。
かなり強烈な青春ドラマなので『ユーフォリア』を観てしまうと、他のドラマが色あせてしまうかもしれません。

製作は『ゲーム・オブ・スローンズ』のHBOと『ミッドサマー』のA24が強力タッグを組んでいます。
製作総指揮には、ラッパーのドレイク。主人公はアメリカで人気爆発中のゼンデイヤが、ドラッグ中毒の女子高生を演じています。『スパイダーマン』シリーズのハツラツとした感じではなく、陰鬱でダウナーな演技の方向性です。評価も高く、エミー賞の主演女優賞を2回も受賞しています。(史上最年少!🤗)

ちなみに『ユーフォリア』は、メイクアップ賞・オリジナル歌曲賞などの栄冠にも輝いています。

【STORY】
幼い頃から不安障害を抱え、ドラッグによる一時の安らぎを覚えてしまった17歳の高校生ルー・ベネット。どれだけ家族に心配されようとも、ドラッグを“キメた”直後わずかの多幸感(ユーフォリア)を求めずにはいられなかったルーは、転校生のジュールズとの出会いによって依存症から脱しようとするがー。ドラッグ、セックス、バイオレンス、アイデンティティ、トラウマ、ソーシャルメディア、恋愛、友情…さまざまな問題を抱える若者たちの物語が絡み合いながら激しく加速するー。

https://www.unext.co.jp/ja/press-room/euphoria-s2-announce-2022-03-31

『ユーフォリア』は映像や音楽がとにかくスタイリッシュです。お金の掛かったミュージックビデオを観ているような感覚になります。とはいえ、10年後は陳腐化している可能性もあります。10年前のヒット曲はフォーエバーグリーンではないですよね? 耳にするとどこかこそばゆい感覚にもなります。映像作品も同様です。しかしながら、それだけ「今」を描こうとしています。刹那的でも、ありったけのリソースを注ぎ込むその意気や良しです。

また、トランスジェンダーのハンター・シェイファーが、劇中でもトランスジェンダーのジュールズ・ヴォーンを演じています。演技経験がなかったとは思えないほど芸達者です。今後、何らかの賞を獲得する予感もしています。なおジュールズはゼンデイヤが演じるルーの恋人です。ポジション的にも重要ですね。

ジュールズ・ヴォーン(ハンター・シェイファー)
https://www.star-ch.jp/drama/euphoria/sid=1/p=c/

ジュールズについてはトランスジェンダーであっても、それだけで悩んだりしないキャラ設定なのが実に現代らしさを感じさせます。
映画『ブックスマート』と同じような世界観です。だからこそ、アメリカのZ世代から猛烈に支持されているのでしょう。

さて多種多様なキャラクターが登場する『ユーフォリア』ですが、自分的に一番グッと来たのは、エリック・デインが演じるカル・ジェイコブスです。

カル・ジェイコブス(エリック・デイン)
https://www.star-ch.jp/drama/euphoria/sid=1/p=c/

<ここからネタバレありです>


カルは、ルーたちの同級生であるネイトの父親です。ネイトは唯我独尊である一方、情緒不安定です。サイコパス的なキャラクターとして描かれていますが、背景にはカルの秘密を知ったことにありました。

社会的地位があり「男らしい」人物である一方で、カルはネイトに対して厳しい父親です。ですが、カルには秘密がありました。
高校生の頃に同性愛に目覚め、今は未成年も含む若い男性などと頻繁に性的関係を持ちます。その中には、トランスジェンダーであるジュールズもいました。暴力的で倒錯した性にのめり込み、ビデオを隠し撮りするほどの変態です。

この秘密を息子であるネイトが知ってしまい、そのせいでひねくれた性格になってしまったわけです。

カルは、シリーズ屈指の嫌われキャラクターでしょう🤣

ではどうしてグッと来たかというと、数々の欠点がありつつも、息子を大事にする。家族を大事にする。たとえ表面的であっても、「理想の父親」をまっとうしようとしていたからです。

しかし最後には、人として壊れてしまいます。
ネイトから、カルの裏の秘密を知っていたと告げられ、自暴自棄に😨

シーズン2の第4話「親父の反乱」では、飲酒運転をし、かつて高校時代にボーイフレンドとキスを交わしたバーへ。ここで半裸になり大暴れ。つまみ出された挙げ句、何かを悟ったように帰宅します。
玄関では、性器を露出しながら大笑いしています。妻から咎められると「俺は一人ぼっちだ」と述べます。
その場に息子たちも集まりますが、相変わらず性器を露出しながら笑っています。

散々悪態をついたあとに、
「こうなってしまった原因は、この家族にある。心の繋がりを持てなかった。俺には必要なのに、お前らは俺を追いつめた。でも、そのおかげで解放された。だから、これでお別れだ……」
――と恨み言を述べて家出します。

あまりにも勝手過ぎます。

しかし僕には、どうしようもない人間くささを感じ、全否定はできません。

更にシーズン2のラストエピーソードでは、息子であるネイトによる警察への通報により、カルは未成年との性行為により逮捕されてしまいます。

カルにとっては最悪の結果です。実の息子に裏切られたのですから。
一人もがき苦しんで、最後は逮捕。悲劇です。でもこれも人生の一側面です。
逮捕されたカルは、もう今後のシリーズには出てこないかもしれません。ですが確実に『ユーフォリア』の中で、大きな爪痕を残しました。Z世代の若者からは理解されないかもしれませんが、歳を重ねると理不尽なことを背負い込むことも多くなります。カルも一緒です。色々あっても何とか生きていく。カルの行為には嫌悪感を憶えつつも、人生について考えさせられたキャラクターでした。

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