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アニメ業界におけるアニメーター不足の考察

先月、日経新聞の取材を受け、少しだけですが僕のコメントも紙面とWEB版に掲載されました。

元々、アニメ業界はアニメーター不足に悩まされ続けておりますが、近年は特に危機的状況です。企画(&お金)があっても、制作になかなか入れない状況が続いています。
そうした中で、アニメ制作会社も直接、アニメーター育成に乗り出している……という記事です。

※アニメーターの卵よ育て 東映アニメが作画アカデミー

では、なぜアニメーター不足と言われているのでしょうか。
日経新聞の記事の補足になりますが、原因を3点考えてみました。

①高度な作画技術が求められる作品が増え続ける

2021年の日本のTVアニメタイトル数は、310作品でした。しかし、20年前の2001年は167作品に過ぎません。およそ2倍近く作品数が増加しています。

※アニメ産業レポート2021(日本動画協会)

一方、アニメーターは増えているのでしょうか?

2020年の記事にはなりますが、「日本アニメの原画アニメーター5200名超」とあります。

以前はどうだったのでしょうか。
色々と探ってみたのですが、定量的なアニメーターの数はわかりませんでした……。

とはいえ、日本アニメーター・演出協会(JAniCA)による「アニメーター実態調査2019」では、アニメーターの声として、以下のようなものがあります。
http://www.janica.jp/survey/survey2019Report.pdf

"アニメの制作本数が多すぎる"と常々感じています。(中略)ただでさえ少ない時間・資金・人手が作品の乱立によって分散され、業界内だけでなく社内ですら人手の奪い合いになり、お客を奪い合い、とても効率が悪いと思います。
[女.30代.作画監督]

https://animecolor.com/entry/animejittai

アニメーターの数に比べて「アニメの制作本数が多すぎる」とのことです。
定性情報なので、エビデンスとしては弱いですが、僕自信も頻繁に作品数が多すぎるという悲鳴にも似た声を聞くことがあります。

また、ひと昔前のTVアニメは、毎回主役の顔などが多少異なることもありました。それでもアニメって「そんなもの」だという感じで受容されておりました。
今となっては、アニメーターの「個性」が出ていたということなのでしょう。僕も、気にせず視聴していた記憶があります。

しかし現在は、SNSの発達でファンが容易に発信ができる時代です。「ヤシガニ」という言葉もありますが、作画の乱れには特に敏感です。
更に作画の負荷が高い、大人の鑑賞に耐えうるアニメ作品も増えています。

これほどまでに高クオリティのアニメが量産される時代はなかったと言えましょう。

②海外があてにならない

国内での制作が難しければ、海外で展開すれば良いのでは?
という考え方もあるかもしれません。

製造業などは、オフショア化しているところも多数あります。

アニメ制作においても、動画・仕上げなどはアジア各国を中心に業務を回しています。

ですが肝心の原画作業においては、やはり日本国内が中心です。
なぜならば、海外のアニメは3DCGアニメが中心だからです。

アニメ映画の世界歴代興行収入ランキングTOP30でも、日本のアニメの主流である2D手描きアニメ作品は一切ランキングされていません。

手描きのアニメは手間が掛かり、世界的に見るとレアな存在です。
必然的に成り手も少なくなり、結果として日本がある種ガラパゴス化して、手描きアニメが発展していったわけです。

そうした中で、手描きアニメ制作を海外でお願いしようとすると、かなり高くつきます。

以下の記事では、「アニメーション制作会社に頼まれて見積書を出すことがあるのですが、CGは高くて作画は安い。海外は逆なんですよね」とカナバングラフィックス・富岡聡さんのコメントが紹介されています。

東映アニメやスタジオ雲雀、OLMなどは海外の制作スタジオもあります。
ただ、年間300作品以上制作されている日本のアニメ業界においては、ほんの一部でしょう。

なお、動画・仕上げ作業においても、アジア⇔日本の制作ラインは脆弱です。

2022年末、中国ではゼロコロナ政策解除に伴い、コロナ禍が再び首をもたげました。

2022年末~2023年頭に放送が予定されたアニメ作品が次々と、延期に追い込まれてしまったのです。

過度な海外依存は、やはりリスキーな面があります。

③テクノロジー技術でカバーできていない

2023年の流行語大賞のトップ10に「生成AI」も入り、アニメ業界でもAIの話題が継続的に散見されます。

Netflixは、生成AIを背景制作に活用した作品を発表しました。

※アニメ・クリエイターズ・ベース アニメ「犬と少年」

もはや手描きかAIかの境目は分からなくなっています。

とはいえ、課題も多いようです。

※Netflixが「画像生成AIでアニメ制作」してわかったAIの限界…『犬と少年』で挑戦したもの

ただ、そのオリジナルAIを使った上で、さらにAIがつくった絵をそのまま採用しているものは「ほとんどない」(牧原監督)。

とはいえ省略化には一役買っているようで、助かる部分もあります。

「結果として、AIでざっくり、40%から50%くらいは省力化できたのでは」と牧原監督は話す。

しかし未だに実用的ではありません。
記事の中でも指摘がありましたが、「本当なら、数億枚単位で集めて学習」という部分がクリアできないからです。

この膨大な学習量はどこから引っ張ってくるのでしょうか?

中央集権的に政府や企業が、アニメの素材をすべて買い上げて学習させるのであれば、光明は見えてくるかもしれません。
しかしながら「アニメの素材」≒「アニメのアーカイブ」については、各社に任せきなのが現状です。各作品は、もちろん各権利者がいて、それぞれの考え方がバラバラなので、仕方のない面もあります。

AI学習の前に、アーカイブのあり方さえも集約は難しいので、AIが即実用的なるのかは疑問です。

アニメ制作とAIについては、定期的にニュースになります。中割や彩色作業の自動化は、結構良いところまで来ているとの話しも耳にします。
ただし、まだ試行錯誤の段階であって、即人手不足解消に繋がるわけではありません。

おそらくは、アニメ制作とAIについてのニュースが報じられなくなったときに、AIによる活用が定着したとも言えるのかもしれません。
まだまだ道半ばだと思います。

……以上、3つのポイントに絞ってざっくり考えてみました。

いずれにせよ、アニメーター不足の問題は一朝一夕に解決する問題ではありません。

アニメの作品数が多過ぎるという点も、その多さが日本のアニメ産業の強さにもなっています。減らせば良いという単純な引き算では破綻します。

ですので、地道に「描ける」アニメーターを育てていくしかないのかな……と考えています。

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