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PIXIES”Letter to Memphis”の歌詞を読む

音楽をやっていると「世界一好きなバンドは?」と人に聞かれる事がある。

そんな時は「うーん、ラモーンズ…グレイトフルデッド…ビートルズ…色々あって悩むけど、やっぱピクシーズ!」と答える。

まだピクシーズが再結成する前、西暦2001年の春、ナンバーガールが好きだったわたしはよく引き合いに出されるピクシーズってやつを聴いてみようとPixies at the BBCってライブ盤を買いCDトレーに流し込み再生ボタンを押すと「なんだこの今まで聴いた事のない音楽は!?」と、頭をガーンと金属バットで殴られたような気持ちになり「こうゆうのが聞きたかったんだ、これは俺の音楽だ」とボロボロ泣きながら同じCDを繰り返し聴くヤバい奴に成り果て、翌日にはオリジナルアルバムを全部揃えたほど夢中になったバンドだからだ。

昨夜久しぶりにピクシーズを聴いたら「やっぱ滅茶苦茶カッケェ!」と少年の心に戻ってしまったので、中でもとりわけ好きな”Letter to Memphis”という曲の歌詞を今一度読もうと思って、この文章を書いている。

ピクシーズは2004年に再結成を果たし数度のメンバーチェンジを経て現在も精力的に活動を続けているけど、”Letter to Memphis”は再結成前のラストアルバムで1991年発表の”Trompe le Monde”の8曲目のナンバー。

さっそく曲を聴きながら歌詞を見てみよう。和訳もつけたよ。

Letter to Memphis
メンフィスへの手紙

The day since I met her
彼女とはじめて会った日
I can't believe it's true
僕は信じられなかった
She came here from Memphis
彼女はメンフィスからここへ来た
Across the ocean, sailin'
彼女は海を航海し、渡った
And I saw her, and I pleaded
僕は君に会い、懇願した
''Why do you come so far?'' and she said
どうしてそんな遠くから?と聞くと彼女は言った

Tryin' to get to you
あなたに会うためよ
How I tried to get to you
どれだけ会いたかったか
Tryin' to get to you
あなたに会うためよ

I'm sending a letter
僕は手紙を送る
I'll send it right to you
君に送るよ
I'll send it to Memphis
メンフィスに送るよ
I know that someday
いつの日かわかる
Everything I needed and I wanted
僕が何を欲しかったのか
Used to be that my head was haunted
前はそれで悩んでいたけど

And all these sirens
すべてのサイレンが
They make me mad
僕を狂わせても
And all this violence
すべての暴力が
It brings me down
僕を落ち込ませても
I feel strong, I feel lucky
強く感じる 僕はツイてる

Tryin' to get to you
君に会いに行く
Said I’m going to get to you
そう、君の所に行くよ
Trying to get to you
君に会いに行く

いかがだっただろうか?

字の通りに読めば、海を跨いだボーイミーツガールの物語となるが、人生を変えるような大きな出会いについての歌とも解釈できるし、その出会いの対象を何とするかはリスナーによっても変わるだろう。
それは恋に落ちた相手かもしれないし、何らかのスポーツかもしれないし、あるいは宗教体験にもなりうる。
わたしはやはりロックとの出会いこそが人生のターニングポイントだったので、この曲を聴くと自分の中に音楽が落ちてきた日の事を思い出してつい涙ぐんでしまう。

作者のブラック・フランシスがバンドのB面集のComplete B sideのライナーノーツに”メンフィスはエジプトのメンフィスの事で、この曲は人生における大きな愛について過去の自分へ送った曲だよ”と寄せているようにこの曲の中のメンフィスはロックンロールの聖地として知られるテネシー州のメンフィスではなく、エジプトのメンフィスの事だそうだ。

ブラック・フランシスはクリスチャンロックの草分けであるラリー・ノーマンに多大な影響を受けた事を公言しており、聖書からの題材を歌詞によく使うから、本作のヒロインの出身地も旧約聖書のモーゼの出エジプト記から着想を得たのではないかと予想できる。

この曲の自分が好きな箇所をいくつか挙げると、まずイントロの世界中のサイレンと暴力を合わせたようなけたたましく鳴り響くリードギターがラスサビ前のBメロの歌詞を暗示してるのがたまらなくいい。
そして、このフレーズを2度出す事で伏線を回収しつつクライマックスに向かうカタルシスを得られるのがまたいい。すごいよジョーイ!

Aメロの4行目にピクシーズの他の曲でも頻出する6/8拍子が出てきて曲を引き締めるのも待ってました!って感じで、これは聴いてるだけだとそこまで違和感ないんだけど演奏してみると「え!?意外とムズっ!」と焦る箇所でもある。

そして最後のサビが1番と同じ”Tryin' to get to you”って歌詞なのにセリフを言うのがヒロインからこの曲の主人公に移り変わる部分も鮮やかだ。
サイレンの語源は船乗りが恐れる海の怪物セイレーンだが、そうやって2重の意味を言葉にかぶせることで手紙を出した後の主人公が荒ぶる海を航海してる様を表現してるのがすっごく効いてる。
このように壮大な曲がわずか2分40秒なのだ。
ブラック・フランシスのソングライターとしての力量は本当に凄いとしか言いようがない。

そんなわけで、自分にとってはまさしくこの曲との出会いこそが人生を変える大きな出会いの一つになりバンドの出囃子にもずっと使っていたし、もしかしたら今まで食べたパンの枚数より多く聴いたかもしれない。

いつかライブで聴きたいと熱望してるのですが残念ながら再結成後は一度もやってないみたいなのでせめて自分で演奏して溜飲を下げています。

おまけ
ブラック・フランシスが影響を受けたラリー・ノーマンも貼っておこう。
はじめて聞いた時「なるほど!コレかー!」と膝を打ったもんです。


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