【行動心理】セクシュアリティにこれほど性差があるのはなぜか?
生物学的性別は先天的なもので、ほとんどの人は
女性として生まれ、女性の自分を受け入れ、女性として生きて女性として死ぬ
男性として生まれ、男性の自分を受け入れ、男性として生きて男性として死ぬ
のいずれかであるわけです。そのため、実際のところ、
自身の体験として、女性(男性)のセクシュアリティについて理解している男性(女性)はいない
ということになります。
この事実は当たり前のように見えて、適切な教育が与えられない場合、
「男性(女性)の自分はこのように性的関心があるのだから、相手の女性(男性)も同様だろう」
という思い込みを多くの人にさせることになり、さまざまなミスコミュニケーションやハラスメントを生む原因となり得ます。
特に、女性のセクシュアリティについては男性よりだいぶ複雑であることが研究によって明らかになってきています。
男性中心の社会が長いこと続いているためかこういった研究も歴史が浅く、例えば女性器の包括的な解剖学的マッピングが初めて行われたのは、2005年だそうです。それまで人類は女性の身体の中に何があるのか、よくわかってなかったわけです。
セクシュアリティの性差に関する知見は徐々に知られてきていることではあるとは思いますが、(特に日本では?)認知度が低いような気もします。この記事には特にあまり浸透していないと思われるsexual concordance という概念に絞って簡単にまとめてます。
自分は専門家ではないので、情報源が一面的になっている可能性があります。できるだけ引用にある一次情報をご覧ください。
Sexual Concordanceとは?
Sexual concordanceと聞いてパッとどういう意味かわかる人は少ないのではないのでしょうか?自分も最初分かりませんでした。最強の翻訳ツールであるmeta翻訳によると、性的一致という訳になります。
Sexual concordanceは、心と身体の性的反応の関係を表す言葉です。
多くの研究が、一般的に女性はsexual concordanceが低く、男性は高い傾向を示しています。ざっくりいうと、
男性は身体が反応していれば性的興奮を自覚しているが
女性は身体が反応しているからと言って、必ずしも性的興奮を自覚するわけではない
…という傾向がありますよ、という意味です。図解すると↓図のような感じ。男性(図上のベン図)では身体が反応 (genital response)していれば、だいたい主観としても性的興奮を覚えている (subjective arousal)わけですが、女性ではその2つの重なりが比較的小さいですね。
…よくわからない人も多いかもしれません。
「(性的に)興奮しているから身体が反応しているのでは?」
というのは科学的根拠がないものの、単純で非常に魅力的な、よくある思い込みです。
実際のところ、身体のあらゆる反応は生理学的な、機械的な反応であり、それが心理的な状態によってもたらされているというのは、ただの観察者のストーリーです。
こうしている間にもわたしたちの心臓は休みなく動いていますが、だからといってわたしたちが休みなく何かにドキドキしているわけではないのと一緒ですね。
Sexual concordanceが低いとき何が起きているのか?
一般的にsexual concordanceが高い男性からすると、女性が「濡れている」のに性的興奮を自覚していない、というのは、非常に理解しづらい状況です。
「物理的に敏感な部分を刺激してやれば、身体的な反応と共に、性的興奮が生まれてくるものでは…?」
と思ってしまう。
しかしながら、生理学的反応と心理的反応は1対1になっていません。
男性でも、性的興奮を自覚していても(さまざまな理由で)「勃たなかった」り、(睡眠中など)性的興奮を自覚していないのにも関わらず「勃った」りすることはあります。
身体の生理的反応は、進化の過程で生存に適するように発達してきたものなので、生存のための役割があります。心が進化の過程のいつ生まれたのかは残念ながら知らないのですが、おそらくかなり遅れて生まれた機能でしょうから、心と身体と関係がシンプルに対応していないのはむしろ自然です。
女性が「濡れる」(lubrication)のは、怪我(裂傷など)を回避するためが主な理由だと考えられていますが、ある種の洗浄機能(感染予防など)も持っていると考える人もいます。そのため、婦人検査や性暴力のような侵襲的な状況でも、そのような身体反応が伴うことがあります。
なぜ女性の方が男性よりsexual concordanceが低い傾向があるのか?
Sexual concordanceに性差がある、ということはわかりましたが、そもそもどうして心と身体の感じ方に性差があるのでしょうか?実はよくわかっていません。
ヒントになるのは、
身体の性的な反応はどのような刺激によってもたらされるのか?
という問いです。
もしかしたら個人レベルでは、好みのシチュエーション等があってその人自身にとっては答えが明らかな問いかもしれませんが、実はここにも大きな性差があります。
女性は男性に比べ、幅広い性的なコンテクストに身体が反応する傾向にあります。
例えば、異性愛者の男性は女性の性的な画像・写真に反応しますが、異性愛者の女性の多くも、異性愛者の男性と同じレベルの身体的反応が見られます。加えて、猿の性交のシーンなど人間以外の刺激でも反応が見られるそうです。
また、女性の性的なアイデンティティ(性的志向など)は男性と比べると人生において変化しやすく、状況やコンテクストの影響を受けやすいとも言われています。
すなわち、男性に比べると一般的に、女性のセクシュアリティはより柔軟で、幅広いコンテクストで身体の反応を示すものの、それが必ずしも性的興奮の自覚とは結びつかない、ということが現状わかっています。
このセクシュアリティの性差がなぜ存在し、どんな意味があるのかは、残念ながらよくわかっていません。歴史的に性の話はタブーであることが多く、日本はもちろん、先進国でもあまり研究は進んでいないのが現状です(カナダが一番進んでいる模様)。そのため、
「身体が反応していれば、性的興奮を感じているはず」
「性的興奮を感じるなら、身体が反応するはず」
という最もシンプルで覚えやすい思い込みが、科学的根拠がないまま幅を利かせることになってしまっています。これが、社会のいろんなところで大なり小なりの問題を引き起こしているように感じます。
適切な教育がなければ(生物学的性別が先天的に決まっているため)理解しようのない知見なので、誰かの興味に触れるかも?と思って今回は筆を置くことにします。読んでいただきありがとうございました。
引用
https://link.springer.com/article/10.1007/s10508-009-9556-9
https://econtent.hogrefe.com/doi/full/10.1027/1016-9040/a000274
ttps://www.embracesexualwellness.com/esw-blog/arousalnonconcordance
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