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AIは生徒たちの主体性を奪う?ChatGPTを活用した加賀STEAM学習の取り組み

こんにちは。みんなのコード千石です。私は、全国の中学校「技術科」担当の先生方への研修講師や教材・カリキュラム開発を担当しています。

みんなのコードが支援する石川県加賀市では、市内6校の中学校で総合的な学習の時間に、地域の課題解決に取り組む「加賀STEAM」という学習活動を行っています。詳しくは、こちらの記事加賀市内の全中学校が集合!2022年度加賀STEAM成果発表会レポート で紹介していますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

みんなのコードは、今年度も加賀市内の中学校でSTEAM教育のサポートをしています。各学校の先生方と対話を進める中で、橋立中学校の先生から「地域の課題発見や解決に、生成AIを活用できないか?」という相談を受けました。みんなのコードでも、「生成AIの初等中等教育でのガイドライン策定に向けた提言」をちょうど発表したタイミングだったので、まずは中学校で実践してみよう!と今回の授業支援を行うことになりました。
※今回ChatGPTを授業で使用するにあたり、事前に保護者のみなさまにAIを活用した教材を利用する事の同意を得てから実施をしております。

この授業は、NHK金沢放送局「かがのとイブニング」でも取り上げていただきました。どのような狙いで授業を設計したか、何に気づいたかを書いてみたいと思います。


「総合的な学習の時間」にどのようにChatGPTを活かせるか。

これまで、授業で課題解決に取り組む場合、当然、教室の中には先生と生徒しかいません。そうすると、どうしても課題発見の視野が狭くなってしまったり、アイデアが枯渇してしまうことがありました。解決方法の1つとして、地域の方や外部の方にゲストティーチャーとして授業に入っていただき、課題の見つけ方や、生徒が作成した解決策に対してアドバイスをもらっていました。こういった取り組みは、加賀だけでなく、全国各地で行われてきました。

しかし、今回は生徒たちが課題を探したり、解決策を見いだすことに生成AI(ChatGPT)(以下「ChatGPT)」を活用できないかと考えました。

ChatGPTを使った授業の内容

今回は、ChatGPTのしくみと活用方法を学ぶ授業を設計しました。授業は50分×2コマで実施。1コマ目は、体験しながらChatGPTのしくみを知る時間。2コマ目は、ChatGPTを活用してクラスメイトと一緒に課題に取り組みました。
▶︎指導案
▶︎授業スライド

授業の目標

今回の授業では4つの目標を設定しました。

  1. ChatGPTを用いてAIとのやり取りを体験する。

  2. ChatGPTに対して、必要とする回答を得るために相応しい問い(コマンドプロンプト)について考える。

  3. ChatGPTの情報を鵜呑みにするのではなく、クリティカルシンキングの目を育む。

  4. 生活や学習の様々な場面でAIが活用できることに気づく。

1コマ目:体験しながらChatGPTのしくみを知る時間

前半は「ChatGPTで運動会のスローガンを作ろう!」というテーマで授業を進めていきました。ChatGPTに指示を与え、生成されたスローガンに対し、生徒たちが相談。追加の指示を出し、自分たちの欲しいイメージのスローガンを作りました。

この活動では、ChatGPTが提示してきたアイデアをもとに、生徒たちの考えを組み合わせ、共同で作品を作る体験をしました。
後半は「ChatGPTとしりとりをやろう!」というテーマで、ChatGPTにルールを教え、しりとりゲームをする活動をしました。こちらの活動は、弊法人みらいの学び探究部 宮島のワークショップを参考にしました。

この活動では、「しりとり」という誰でも知っているゲームについて、あえて「しりとり」という言葉を使わずにChatGPTにルールを教え、ゲームをすることができるかにチャレンジしました。授業の目的を、自分の頭の中にあるイメージや考えなどを言語化し、ChatGPTに指示する練習として設定しました。

2コマ目:ChatGPTを活用してクラスメイトと一緒に課題に取り組む

2コマ目は、1コマ目に学習したことを踏まえ、班ごとに石川県金沢市への旅行プランを考える課題に取り組みました。それぞれの班に与えられた旅行者のお題に対し、観光客に向けて、彼らが望んでいる要求を満たす旅行プランをChatGPTを使いながら考えました。
各班のお題は以下のとおりです。

  • カップルの外国人旅行客

  • 小さい子ども連れの4人家族

  • シニア夫婦

この活動は、お客さんが持っている要望に応える(=課題を解決する)旅行プランを作成することにより、この後も「加賀STEAM」での学習に続く、地域の課題発見や解決にChatGPTを活用する素地を育成するために設定しました。

気づき①:対話を繰り返すことで、自分たちらしいスローガンが形になる。

1コマ目の運動会のスローガン作りでは、恐る恐るChatGPTに言葉を入力をしていた生徒が、回を重ねるごとに自分のイメージをChatGPTに投げかけて対話を重ねる姿が見られました。

これまでは、
Aさん「これ、言いにくくない?」
Bさん「じゃあ、どうしよう...」

というように、ここで生徒同士のやり取りが止まってしまうのですが、生徒間のこのようなつぶやきを拾い上げて...

先生「じゃあ、言いにくい単語はどれ?その単語を別の言葉で言い換えて、ってお願いしてごらん」

とサポートします。すると、生徒たちは、1回出力された結果に対して、重ねて指示を出すことを覚えていきます。生徒たちがつぶやいた要求や要望(=子どもたちの考え)をChatGPTに入力するたびに、出力されるスローガンも、より生徒たちがイメージする形に近づいていきました。

気づき②:適切に指導すれば、ハルシネーションにも対応できる。

2コマ目で生徒は、旅行会社の社員になって、お客さんの要望に応えるプランを考えました。今度は、自分の考えをChatGPTに投げるのではなく、誰かの考えや要望をくみ取り、ChatGPTに投げかけ、得られた結果をスライドにまとめる練習をしました。
家族連れの旅行プランを作っている班の生徒は、小さな子どもが喜ぶ観光地を探していました。ChatGPTは「金沢動物園」という動物園を候補に出してきました。結論から言うと、現在、金沢市に動物園はありません。しかし、生徒たちが調べてみた結果...

  • 昔、金沢市に金沢動物園という動物園存在した(1993年に閉園)

  • 今、石川県内には能美市にいしかわ動物園がある

  • 横浜市金沢区に金沢動物園がある

ということが分かりました。
生徒たちはこのことを知って、ChatGPTのしくみを体感していました。つまり、ChatGPTは石川県や金沢市の動物園を探してきた訳ではなく、データの中から、「子ども→楽しめるところ→金沢→動物園...」という、関連のある言葉をつなぎ合わせてた結果を出力しているのです。「出てきた結果の正確さは自分たちでちゃんとチェックしなければダメだね」という言葉が生徒から出てきていました。

今後に向けて

さらに、橋立中学校の実践から、以下のような気づきがありました。

  1. 生徒が学習活動で活用できる場面はたくさんある

  2. 生徒は新しいツールにすぐに慣れる

  3. しくみ(システムの裏側)は教える必要がある

今回の授業では、人間とAIが共同で作業する場面を意識的に作りました。AIに対して人間がリクエストを出し、その結果をどう扱うか、生徒がちゃんと判断できるようにしました。

いろいろなところで「AIを使うと、生徒がAIの言いなりになってしまう」「主体性がなくなる...」といった発言が聞こえてきます。確かに生徒が、出力される文章の生成過程やシステムの働きを知らず、AIの回答は絶対的なものと捉えて利用すればそういったことに繋がるでしょう。

また、AIのもととなるデータの内容によっては、出力結果にバイアスがかかることも既に多くの事例で報告にされています。※
社会問題にもなったAIのバイアスはなぜ起きる? リサーチャーが解説
Torus (トーラス)by ABEJAのnote記事より参考

だからこそ、学習活動の中でしくみを知り、AIの正しい使い方、出力された結果を正しく判断できる力、またAIを広く活用する術を学校で指導する必要があるのではないでしょうか?今回の授業が1つの試金石となれば幸いです。

今回は総合的な学習の時間でChatGPTを利用しましたが、他の授業の中でもAIを使ったもの作りや課題解決の授業を提案していきたいと思います。

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ここまでお読みくださりありがとうございます。

みんなのコードは、「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」をビジョンに掲げています。2015年の団体設立以来、小中高でのプログラミング教育等を中心に、情報教育の発展に向け活動し、多くの方からのご支援をいただきながら取り組んでまいりました。

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