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“伝えること”と小児科医

 診察をしていると、ADHDやASDに似た行動をするのに、正確な診断基準に当てはめると診断がつかない子がいて、以前はその子たちに神経発達症の診断をしていました(反省)。愛着障害や発達性トラウマ症などを鑑別診断に考えながら診療するようになりましたが、始めの頃はそんなことをお母さんに伝えるのは憚(はばか)られ、モヤモヤしていました。それでも診断とはいかずとも、その時の子どもたちの行動の背景に愛着の課題やトラウマが関わっているということを、注意を払いながら少しずつお伝えしてきました。

 そのような経験を通して感じたのは、『伝えることでお母さんの気持ちが整理され行動が変わる』ということです。例えば、お母さん自身が生い立ちを振り返って子どもと自分を重ね合わせて子どものことを理解したり、お母さんが自分のことを考えることができて、自身の受診につながったり。いずれも子どもたちにとって良い変化ですが、私が神経発達症として診療していたら絶対に起こり得なかったことです。

 僕のような立場の小児科医が診療を行う中で、不安定な愛着関係に至る経緯として多いのは虐待ではなく、親御さんの精神的な脆弱さです(その結果としての心理的虐待やネグレクトはあるかもしれませんが・・)。その弱さの原因は過去に負ったトラウマであり、自分ではどうしようもないことです。

子育てを通してトラウマが蘇り、我が子との愛着形成を妨げてしまう。小児科受診をきっかけに子どもたちと同じくらい親御さんのケアもできるような環境ができればいいなと思います。

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