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慈愛の淵にて 遠野カッパ旅

 さて今回のメインたる、カッパ淵である。ここでは所定のカッパ捕獲許可証を購入すると、キュウリを餌にカッパを釣ることができるとのことだった。わたしは飛行機の中からずっと、この許可証を買うべきか否か考え続けていた。

 値段としては決して高いものではない。許可証を買って帰れば話の種にもなるだろう。さらに、キュウリをぶら下げた釣竿を手にカッパ淵にたたずむことを想像すると、それなりにわくわくするのも事実だった。

 その一方で、わたしはカッパに会ってはみたいが果たして捕獲したいのだろうか?と自問すると、答えを出せずにいた。仮にカッパとの間に文化交流が成立し得るとして。その出会いが「捕獲」では、第一印象が最低最悪だろう。初手で捕獲されても怒らないどころか相棒レベルにまで仲良くなってくれるのは、かの黄色い電気ネズミぐらいである。

 と早口で理屈をこね回したのは、さしづめ売れっ子アイドルの握手会に臨む古参オタクの心理である。わたしはガツガツせず余裕の構えで「カッパたん今日もお疲れ様!いやぁここまで人気妖怪ともなると捜索されたり捕獲されたり色々大変だよね〜、でも健康第一だよ⭐︎」と癒しグッズを差し入れするような"わかってるファン"でありたいのだ。

 このような脳内茶番を経て、結局は丸腰でカッパ淵を訪れることになった。とはいえキュウリが無いせいでカッパに会えるチャンスを逃すとしたら悔やんでも悔やみきれない。

 だが、そんなこじらせファンのわたしにも、かの伝承の地は優しかった。

優雅に揺れるキュウリ


 なんと、キュウリを餌にした釣竿があらかじめ設置されているではないか!近寄って確かめると、小粋な注意書きまで添えてある。なんというホスピタリティだろう。カッパ捕獲に及び腰だったわたしにも、遠野は新しい景色を見せてくれたのだった。

 しばらく待ってみたが、今回はカッパに会うことは叶わなかった。ちょっと水量が少なめだったのかもしれない。


祠を守るカッパシスターズ

 カッパ淵のほとりに鎮座する祠は、ぜひ中を覗いてほしい。なんとも形容しがたい雰囲気が癖になる。しいて例えれば、お調子者の親戚が一堂に会してフリーマーケットを開いたかのような有様である。

 ちなみにカッパの好物がキュウリということに異論を唱える根拠は持たないが、主食というよりは嗜好品のくくりだと考えている。この説はゲゲゲの鬼太郎アニメ第6作でも言及されていた。けっこう活発なはずであるのに、キュウリではどうにもエネルギー供給が足りない気がしてならない。
 きっと普通に魚とか食べてるよね、カッパたん。