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せーの、で踊る

 モーモーチャーチャーをご存知だろうか。わたしはモーモーチャーチャーについて何年も前に同僚から教えてもらったのだが、モーモーチャーチャーの実在は確認しないままでいた。先日、たまたま立ち寄った成城石井でモーモーチャーチャーを見かけた。それまでモーモーチャーチャーのことはすっかり忘れかけていたのだが、モーモーチャーチャーの名前を見るや記憶が蘇り、「これがかのモーモーチャーチャーか!」と鼻息を荒げたわたしは、ついにモーモーチャーチャーを手に取ったのである。

 「声に出して読みたい日本語」という書籍があるが、もしも「声に出して呼びたいスイーツ」を編纂するならば必ず巻頭を飾るだろう、モーモーチャーチャー。

 そもそもA A B B( AおよびBは任意の語とする)という並びには連呼したくなる謎の魔力がある。「チキチキバンバン」とか「てんてんどんどん」とか。「バンバンジー」もかなり良い線を行っているが、これがもし「バンバンジージー」だったら売り上げが50倍になっているかもしれない。惜しいことをしたものだ。

 語感に気を取られてモーモーチャーチャーについての解説を疎かにしたことをご容赦願いたい。

 モーモーチャーチャーとは雑に言えばアジア版のプリンアラモードである。ココナツが香る柔らかいプリンの上に、フルーツの代わりに甘く煮た豆と芋が、生クリームの代わりに餅が載っている。これがもう天国のように美味い。同じくアジアンスイーツの豆花も良いが、モーモーチャーチャーのほうがこっくりと甘く、背徳感とセットになった満足度が高い印象だ。

 さて、初めてのモーモーチャーチャーを平らげたわたしは美味しさに感動した上、とにかくモーモーチャーチャーと言いたい病が相まって、すぐさま友人にLINEをした。友人はモーモーチャーチャーについて知らなかったにも関わらず、ほんの数分のうちに新情報を提供してくれた。

 いわく、モーモーチャーチャーは元々「ボボチャチャ」という名称らしい。

 ボボチャチャ。なんと蠱惑的な響きだろう。どことなくモーモーチャーチャーよりもプリミティブな佇まいを想像させ、太鼓のリズムが似合いそうだ。ボボチャチャ、ボボチャチャ、ボボチャチャ…と脳内で無限ループを始めたわたしに、友人は追い討ちのように天才的な啓示を与えた。

 友人「ボボチャチャを言いながら踊る時の動き、全人類共通な気がする」 わたし「わっかる」

 名付けて『ボボチャチャ・ダンス普遍説』。ほぼ確信しているのだが、念のため、こんど会った時に互いのボボチャチャ挙動を確認することとなった。きっと鏡のように同じ動きをすることだろう。万がいち全然違っていても、ボボチャチャもといモーモーチャーチャーは踊る我々を甘く優しく包み込んでくれると信じている。