見出し画像

後戻りはできない~「砂の女」阿部公房

 皆さんご無沙汰しています。ベジタリアンになり一ヶ月が経過した者です。
緊急事態宣言が全国で解除されてから一週間余りでしょうか。
いかがお過ごしでしょうか。肝心なのはここからです。今一度気を引き締めて臨みましょう。
先日イギリス政府が新型コロナウイルスの感染抑制に伴いスローガンを変更した、との記事を読みました。Stay homeからStay alert へ。第二波の襲来を警戒しながら、経済活動が徐々に再開されています。
しかしアメリカ全土で過激化するデモには驚きました。今までのコロナショックが嘘のように。人種問題の深刻さが浮き彫りになっています。
っと、それは一旦置いといて、、

先日読み終えた阿部公房「砂の女」について感想、考察を綴っていきます。
ただ、今回も最初に言っておきたいのが、どうか鵜呑みにしないでほしい、ということ。
私は文学部所属でもなければ、年に何十冊も読むような強者でもなんでもない、ただの素人である。小説を読んで感じたことを多くの方と共有したい、との軽い気持ちで書いているに過ぎない。小説に答えなんてない。(某色塗り試験以外は)

稚拙な文章ではありますが、お読み頂けたら幸いです。
さあ始めよう。(急にフランク)

「逃げるてだては、またその翌日にでも考えればいいことである。」


読み終えた瞬間、全身に鳥肌が立った。カフカの「審判」を読んで以来、久方ぶりである。
「審判」を読んでからは二年以上が経つ。虚脱感に襲われた俺は勉強と授業を放り投げすぐに帰宅。コーヒーを飲んで落ち着きたかったのだ。大学二年の後期試験中だっただろうか。
民法第二部を落とした背景にはカフカの存在がある。
俺に落ち度はない(民法ぽく言ってみた)
法学が俺の専攻だが、知識は皆無だ。三年間いったい何をしていたのだ!?
自己統治 ソレに尽きる。(ここでもまた憲法エキスを)
話が逸れた。本題に戻ろう。

次に、自分なりにまとめた本作品の要約を。
ある日、男(主人公)は趣味の昆虫採集に砂丘へ出かける。新種の昆虫を見つけようと足を進めていくと、ある集落に行きつく。そこから男の巣ごもり生活が始まったのだ。
砂丘の稜線に接した、実に深い穴にある(公房は文中で“天然の要害”と表現している)おんぼろの一軒家に閉じ込められた男は、脱出を試みようと試行錯誤を繰り返す。
しかし、女や集落の人々の妨害や流転するはずの砂によって計画はすべて頓挫。
日を重ねるうちに男は希望を失っていき、知らぬうちに自己の中で「手段の目的化」が行われてしまう… 人間という脆弱な生き物の内面をリアルに追求した作品。

全体を通して言えるのは、比喩の豊富さと正確さ。
阿部公房のセンスと表現力の高さが垣間見える。
また、男が徐々に希望を失っていく描写が何ともいたたまれない。
序盤、中盤、逃亡を図るべく様々な策を講じたわけだが、結局それらすべて失敗に終わり、彼は砂の中での生活へ溶け込まれてしまう。往復切符を持っているはずだったのに、いつの間にか復路の切符をなくしてしまう。復路切符は「希望」とも言い換えられるだろう。(女は既に砂底の生活が日常であり、現状から脱出するという概念すらない。)
文中にとある一節がある。

「孤独とは幻を求めて満たされない、渇きのことである。」
その孤独感や絶望感を埋めるべく、男が無意識にとった行動が、そう、「手段の目的化」である。

本文冒頭に引用したこの小説最後の一文、がそれを表している。

この「手段の目的化」という作業により、彼は完全に希望を失ってしまった。自我が失われ、人としての尊厳が崩壊したと言っても過言ではない。

試行錯誤→失敗の蓄積→徐々に薄れていく希望→一か八かの脱出計画→頓挫→さらなる絶望→手段の目的化→人間らしさを失う、つまり実質的な死。
男の心情をまとめるとこんな感じか?

「手段の目的化」参考
(199ページメビウスの輪との会話)
「そいつは、君、典型的な、手段の目的化による鎮痛作用ってやつだよ。」
手段の目的化に関しての叙述はほかにもある。
177ページ(メビウスの輪氏と共に訪れた講演会にて)
「労働を超える道は、労働を通して以外にはありません。労働自体に価値があるのではなく、労働によって、労働を乗り越える…その自己否定のエネルギーこそ、真の労働の価値なのです」

また最後になるが「砂の女」を読むにあたって意識すべき点を一つ。
(要点を文末に持ってくるなど、新聞記事では最も避けなくてはならないことだが。)
それは、彼が絶望に陥ったのは何も砂地獄に落ちてからのことではない、ということだ。
109ページにて、教育者である彼が、現在の教育方針の根本的な構造に深く疑問を抱く点。(それは根本的な問題であるがゆえに一人でどうこうできるようなものではない)
103ページには「(日常には)欠けて困るものなど、何一つありはしない」と。
本小説には、地上で抱いていた彼の‘暗澹たる思い‘というものが多数ちりばめられている。
つまり、彼は現実世界にいるときから既に絶望感を抱いていた。
絶望(不安と言い換えても良さそう) から決して解放されることのない「人間の内面性」を捉えるうえで、上記の観点はとても重要な要素であると言える。

自信を持ってオススメしたいこの作品。
阿部公房の類稀なる想像力、表現力が作り出す世界に入り浸ってはいかがだろうか。

https://www.amazon.co.jp/%E7%A0%82%E3%81%AE%E5%A5%B3-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%AE%89%E9%83%A8-%E5%85%AC%E6%88%BF/dp/410112115X

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?